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神様が世界を創り変えたようです。  作者: 詩名時くい
一章
4/9

『旅の始まり』

 ────果たして、主人公は正しい存在なのだろうか。

 少年は小説を読みながら、そう思った。

 主人公が必ず最終的に正しいみたいな結論は何度も見てきた。しかし、それら全ては本当に正しいものだっただろうか。

 大前提として主人公は最終的にはほとんど負け無しだ。それは成長した結果、最初より断然強くなったという対比を生ませるためだ。

主人公は必ずどこかで成長をする。しかし、正しい答えを得ているようで、実は力で圧倒して、何となく立ち向かってきた相手を半強制的に納得させているだけなのかもしれない。そういうことがあるとするならば、その主人公は許せないし、それは主人公とは到底呼べない。納得する理由があるから力で示しているのであって、力を示すことで無理矢理な理由を貫き通すのは邪悪な存在そのものだろう。

 そう考えると主人公という存在を殴りたくなってき────


「おーい、起きてます?」


「……ハッ⁉」


 納得のいかない小説に一人考え込んでいたら、まさか人を待たせていたとは……。


 俺の前に立っているのは黒髪の少女、年は十六、黒をベースとした、現代っぽくあるが和風感が強く見える服装をしている。ふりふりのスカートや現代感まる出しの網タイツに、和風な着物や浴衣等の要素を取り入れられているのはファッション業界もザ・アースのお陰で色々発展しているという証拠だろう。昔の地球では考えにくい、これは例えるなら、まるで普段着に魔改造されたコスプレ衣装だろうな。

 青く綺麗な瞳だけれど色合いや形を見るに、とても強い信念を持っているような瞳をしている。それと合わせて、彼女が納めている刀の装飾は虹色に輝いてとても美しいだろう。傷一つ無い身体は保たれた美しさがあり、歴戦の剣士でありながら、やはり女の子である事を認識させる。


「……どうしたんですか?行きますよー」


「えっと、何処に行くんだ?」


 いつの間にか用意されていた旅支度、リュックに飲料や食材等が2日分あるのだから少し旅行でもするのか?


「はぁー……。やっぱり、小説読んでて適当に相槌してましたね!」


「すまんすまん……。それで今から何を?」


「これから噂の大迷宮を調べに行くんですよ、まだ誰も入れないはずなのに迷宮と知られている謎多き場所です。まだ誰も調査していないそうで、地元の人曰く、都市伝説、風の噂だと言われているそうですよ。大迷宮に向かって、帰ってきたという人の情報が無いらしいので、行ってみたいです!」


「これまた大胆なことを……。普通、帰ってこれない場所に行きたがるか?」


 彼女の名前は"雨野アメノ 虹色(ニジイロ)"

 彼女と俺は旅仲間でよく一緒に旅をしていて、今回もその類いである。互いに仲の良い友達というだけで恋愛的な発展の予知は今のところ全く無い。強い剣士を求めながらも美しい風景を見つける事を生きがいに旅をしているらしい。


「大胆なことなど何も無いです。大迷宮は入れるなら色々と面白そうだと思っただけですので」


「面白そうなことは大好きだから大丈夫だ。その帰ってこれないとか面倒くさいのは御免だけど」


「それでは行きましょうか」


「……ああ、そうだな。行って帰れないとかあったら俺はニジイロを恨むからな!」


「はいはい、分かりましたよ」

 ニジイロにとって俺は恨まれても些細な存在なのだろうか、それとも恨まれても気にしないほど友好的だということだろうか、とても気になる。

 外に出てみると寒い風が吹く、それは俺にとって喜ばしいことだ。

 今は世界改変から七ヶ月、一月七日の冬だ。

入っていたテントの暖かさも好きではあるが、それよりも断然、寒さを味わうことが好きで、風や空気がひんやりとしていて浴びると気持ちが良いからだ。

 そんな気分を声に出すのなら……。

「────い、寒さだ」

 のんびりしていた、結構お高めな野宿用の仮説テントを畳み、レンタルしていた荷物運び用の馬にテントやリュックを乗せ、まったりと歩き始める。


「改めて見ると凄い場所だなぁ……」


 ぽつりと呟いた。この場所は名もなき砂漠で、問題だらけで調査等が全然進まないという事で開拓されない土地の一つだ。問題というのもここは砂漠の癖に、砂ではなく氷の粒で出来ているということだ。この現象は謎が多く一年中、ここの氷が溶けることが無い。

 特に名称も定まっていないのでこの場所は氷の粒の砂漠と書いて、氷粒砂漠ひょうりゅうさばくと呼ばれているらしい。以上が、歩きながらもニジイロが語ってくれた情報だ。 

 見えた景色は青空に、それに滲んだ白い雲。氷の粒は青く見えるし、光れば白い。青と白しかねぇな……ここ。

 見回す限り、人が居ないのは未開拓地で知られていないから、住むとしても立地が悪い。寒いだけならともかくとして、植物も生えてないので草食動物も居ない、なら肉食動物も……ってことでこの場所には生命の息吹を感じられない。

 こんな寒さで夜を過ごしたら夏より冬派な俺でも凍え死ぬぞ、南極かここは。

いや、南極は水があるし魚も動物も居る。氷の粒が水になるかと思ったが、溶ける気配は全くない、やはり謎多き場所なんだろう。生きる環境が全く無いということは、この場所がまるで生命を寄せ付けない環境にしているような気がする。しかし、進まない事にはどっちみち死んでしまう……。


 ニジイロの隣にべったりとくっついている馬、暖かそうに薄着のニジイロを温めている。

「ニジイロはそんな薄着で大丈夫なの? 俺はこの場所は寒いと思うけど」


「そう言っておきながら寒いの大好きとかいつも言ってないですか? それに寒いの好きとか言ってる割には、服装が全体的に暖かそうな格好じゃないですか! 極めつけは頭に巻いてる濁ったような青色のバンダナ! 何でバンダナを風呂だの寝る時だの以外では外さないんですか⁉」


「おっとニジイロ、俺のバンダナを侮辱するのは止めて頂こうか。濁っているのではなくこれは立派な和色の一つ、藍色だ───覚えておけ」

 

 確かに自分の服装は他では見られない藍色バンダナを付けていて、髪を覆う感じで頭に装着している。

 身に着けている服は青を基本として黒の模様がよく似合う半袖の服を、ズボンは長袖で少し紺色にも伺えるような黒色の物。少し変わっているのは腰の辺りに着けている外套。バンダナと同じ藍色のそれは、身体の横から後ろに半分、膝裏のところまで伸びているが、今話しているのはバンダナだ。外套の話は別の機会にしても良いだろう。


「そうですか! でも、何回も使い続けて汚くないですか、普通」


「流石に洗っとるわッ! スペアは何個もあるからいつもナイスなコンディションのバンダナを使えるんだぞ!」


 要らない情報だな……と言わんばかりの顔をしたニジイロだが、ここはスルーする俺であった。


「私だっておしゃれな服は出来る限り着ていたいんですから。乙女心は分かってください!」


 乙女は寒さよりも可愛さを我慢して取る。可愛さとは何かを代償にして得ているのだと俺は思ってしまったのである。そんな彼女に可愛いと言ってあげないでどうするんだろう、男としてきちんと評価してあげなくては……!


「その服、俺のバンダナ並みに可愛いね!」

「冗談ですか? 殺されたいんですか?」


 冗談な訳がない、俺のバンダナと同等の可愛さなんて、その可愛さに無限の可能性を秘めていると言っても過言ではない程だ。

 むしろ可愛いと言っておいて、冗談だと言うのは失礼ではないだろうか。正直に可愛いと思ったのだから、嘘を付く理由にはならない。


「冗談じゃなく本気だ! 可愛いぞ、バンダナ並みに!」

「今の一言で痛くしてほしいという事が分かりました。行きますよ! 歯ぁ食い縛ってくださいね!」


 彼女は刀を出すまでもなく、その溢れ出す憎悪は俺の腹へと高火力で勢い良く伝わった。紛れもなく痛く、時が止まっている気分を味わう。脳内が痛みを認識する事だけに時間を使い、冷や汗がダラダラと溢れ出ると、身体はようやく痛みと焦り、危機感を意識する。

 彼女の一撃、腹パンは同族同士の戦いに手早く決着を付ける便利な技だ。よく考え抜かれた技だと思うが、この技にも欠点がある。それは、腹パンには攻撃を受ける手前、人物が穏便な会話での相互理解を試みようとする。しかし拳が口より速く届き、腹を殺られる事により実質的な口封じ状態になり、弁明をする前に会話が強制終了される点だ。そこを改善するのが今の武術の課題だろう、多分。

 そして俺は無駄らしい考察を終え、これは耐えられないと身体が訴え力尽き、しばらくその場で倒れていたと思う。


 そして、起きたらテントの中で寝ていた。

 何故、テントの中で寝ていたのだろうか、ニジイロがテントを組み立てたのか、今は何時なのか、ニジイロは不機嫌なのか、聞きたい事は山ほどあるが体を起こしてみる。


 テント内部に様々な荷物は置いているものの、ニジイロだけは見当たらない。

 外にでも居るのだろうか、テントの垂れ幕を捲る。




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