会敵
と、同時に部屋の中で、扉の両側に控えていたメイド服姿の女性(蝶番側の)が、開け放たれた勢いそのままに扉をバンッと閉めた。
外の方から、ギャンと居た堪れない声がくぐもって聞こえてきた。
少しして、今度はそーっと扉が開き、開いた隙間から、白いフードを被ったエメラルドグリーンの髪の女性が顔を覗かせ、両の鼻にはキッチリ白い物が詰められていた。
「「………」」
急に始まった、一連のコントを勇迅とアヴィーは言葉に出来ない、微妙な表情をしつつ、無言で見ていた。
「痛いな〜酷いな〜乙女の顔になんて事するんだよ〜」
鼻に詰め物がされている上に、元々なのか戯けているのか分からないが、軽い口調でこちらに話しかけてくる。
…ひどくアホっぽい…
「あら〜?そちらがあたしが召喚した男の子〜?」
シュルっと扉の間を抜け、勇迅へ向かってくる鼻詰め物女。
爛々と危ない好奇心で彩られた、髪と同じエメラルドグリーンの瞳を輝かせている。
「そうですよ。こちらがコウケツ ユウジン様です。」
アヴィーが勇迅を鼻詰め物女に紹介する。
「そっか〜あたしはリーフィル・エイチ・エーフィルだよ〜アヴィー王女の友人兼相談役兼教師兼学者だよ〜よろしくね〜ユウジン君」
勇迅の反応を待たず、勇迅の周りをウロチョロとしながら、マジマジと観察を始めるリーフィルと名乗る鼻詰め物女。
勇迅は今までの人生で直感と言うものを感じた事はない。
が、この鼻詰め物女に関しては、アヴィーの様に最低限の敬意すらはらう必要はない、と直感した。
「何ですか?この鼻詰め物女は?」
勇迅は鼻詰め物女別名リーフィルを、目で追いながらアヴィーに抗議する。
「申し訳ございません。コウケツ様リーフィルは興味のある事には見境なくって…」
慌ててリーフィルを止めにかかるが、スルスルとアヴィーから逃げ、勇迅の観察を続ける。
「鼻詰め物女とは酷いな〜乙女に付けるあだ名じゃないよ〜」
リーフィルの方からも抗議の声が上がるが勇迅は無視を決め込む。
それを知ってか知らずか(多分知って)リーフィルもとい鼻詰め物女は勇迅の隣に立ち、勇迅の腰を叩いた。
「痛ッてー!!何すんだよ!!」
「乙女を鼻詰め物女と呼んだ罰だよ〜でも…そんなに強く叩いてないはずだけど〜?」
ニヤニヤと勇迅の方を見つめるリーフィル。
(こいつッ!!お尻痛めてるのわかってやがるのか?!)
勇迅が次の反応をする前に、リーフィルはスルッと勇迅の後ろに移動した。
「いや〜腕力皆無なあたしが本気で叩いたところで、こんなに痛がるなんて〜」
と一方的に話しかけてきつつ…
「召喚の時にお尻でも強打したかな〜?」
ゾクッと勇迅は背筋が凍った。
その時にはリーフィルは自分の指を勇迅のお尻をズボンの上から押し込み…
コキッっと小気味いい音を立てた。
瞬間、勇迅の叫び声が蒼天に響き渡った。
うずくまりながら、辛うじて睨み付ける勇迅に向かってリーフィルは
「尾骨骨折だね〜キッチリ骨は正しい位置に戻しておいたよ〜」
と大股開きで座り込み、勇迅の顔を優越感たっぷりの笑顔でのぞき込んだ。
そして勇迅は人生で2度目の直感でこの女は絶対に相容れない敵だと確信した。