説明
いつ、どこから用意したのか、メイド服姿の一人がアヴィーから声がかかってすぐ、ポットとカップ2つを運んできた。
「ありがとうございます。」
渡されたカップからは湯気が立ちほのかに甘い香りが勇迅の嗅覚をくすぐった。
アヴィーもカップを受け取り、メイド服姿の女性を下がらせた。
「コウケツ様、本当にこちらでよろしいのですか?」
アヴィーは心配そうにこちらを見る。
「大丈夫です。それよりもお話の方をして頂けるとありがたいんですが?」
勇迅がそう言うとアヴィーは申し訳なさそうに勇迅をみた。
「そうですよね。申し訳ありません…」
勇迅は特に強く言ったつもりはなかったが、アヴィーはそうは受け取らなかった様で、肩を少し落とした。
だが、気を取り直し、話し始めた。
「ここはラージェス王国。世界最古の国であり、世界の平和の象徴の様な国です。そして私はこの国の王女です。」
勇迅は今まで学校で習った、現代社会、世界史の中にラージェス王国と言う国に聞き覚えはなかった。
(賢い方でもないし、歴史が好きな訳でもないけど全く聞き覚えがない名前…って事はタイムスリップじゃなくて地球じゃない違う世界に飛ばされてきたのか?)
外へ出たのが功を奏したのか、お茶の効果か、はたまたアヴィーの効果か、思考がほぼ平常に戻った勇迅。
限りある知識を総動員し、アヴィーの言葉を聞きながら推測を立てた。
「他国との戦も約200年程なくとても平和で豊かな国でした。」
「でした?今は平和でも、豊かでもないのですか?」
勇迅は疑問をそのままアヴィーにぶつけると、アヴィーの表情は曇った。
「はい…それはもう少し後でお話します。」
お茶を一口飲み、アヴィーは仕切り直した。
「この世界…今現在、把握されている分はですが、国は大きく分けて5つあります。我がラージェス王国の下にダイタルス騎士国、その左下と右下にそれぞれロヴァルト連合国とバザグスク帝国があり、そのさらに下にラファリェット教国があります。」
アヴィーは虚空に円を描きながら、上から下へ5つの国の大まかな地理を説明する。
(やっぱり聞いた事のない国ばっかりだ…)
勇迅は別の世界に飛ばされてきた事を確信した。
「聞いた事のない国ばかりなので、自分はこの世界へ貴女によって連れて来られたって訳ですね。」
「多分、そうなります。【召喚の儀】を行い、コウケツ様を召喚いたしました。直接【召喚の儀】を行ったのは私ではありませんが、最終的に【召喚の儀】を執り行うと決めたのは私です。」
「召喚をしないといけなかった理由がさっきの話と繋がる訳ですね?」
勇迅は理由のいくつかは予想出来た。
その予想は勇迅の世界…地球に数多くあるファンタジー小説の定番で…理由全てが、普通の…極々普通の高校生の手に余る。
だけれども、召喚されてしまったものはどうしようもない。
理由はどうあれ、地球へ帰る方法を見つけなければならない。
その為にも、アヴィーの話を全て聞かなければならない。
そしてアヴィーの方も重く首を縦に振り…
「…はい……」
と短く暗く発するだけだった…
その瞬間バンッと勇迅達のいる部屋の扉が勢いよく開けられた。