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ふわり、僕の恋。

作者: わたぬきとーご

 僕は今、幸せだ。

 僕は今日も、明日も、明後日も、君と一緒に居られる。

 それだけで、幸せなんだ。

 

 

     §



 3年前の秋に君について紹介されて、僕は君と会おうと決めた。

 でも君は事情があって、僕も準備することがたくさんで、とにかく機会に恵まれなかった。

 結局、君と出会ったのは翌年の春。

 僕は新調したスーツを着て、ガチガチに緊張していた。

 それでも、君は優しく迎えてくれた。君はとてもキラキラ輝いていた。

 紹介されたとおりだ。僕は大きな嬉しさをスーツの内ポケットにそっとしまった。

 

 

 僕たちの付き合いが始まり、数ヶ月は驚くほど順調で充実していた。

 いつか、僕はこんなことを訊いた。

 「もし、僕が死んだら、君は悲しんでくれるかい」

 僕は自信があった。

 最近、君と居られる時間が長くなったんだから。

 朝から夜中まで。週に6日は必ず。

 


 けれど、質問は、独り言となって消えた。



     §

 


 そのままの日常が2年続いた。それが今だ。

 揉めることもなかった。

 たとえ僕から何か不満をぶつけたところで君に敵うわけがないし、君は僕が従順であれば何も言わない。


 

 でも、だからだろうか。


 

 僕は、疲れてしまっていた。


 

 「もし、僕が死んだら、君は悲しんでくれるかい」


 

 悲しんではくれないかもしれない。

 でも、お金はくれるかな。

 それに、ここで死んだら君とずっと一緒。


 

 せめて、一度くらいは喧嘩しておくべきだっただろうか、とも思う。

 最も、そんなことしたら、僕、即クビになっちゃうな。

 


 

 オフィスの屋上は、風が強く吹いている。

 足がすくむ。

 

 小さく、一歩ずつ前へ。

 

 短い間だったけど、楽しかったよ。

 

 

 静かに、僕の足が、コンクリートの淵から離れる。


 

 ―ふわり。



 一瞬体が宙に浮いて、落ちる。

 


     §


 

 僕は今、幸せだ。

 

 だって、これからは、愛する《会社》とずっと一緒に居られるんだから。


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