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7 友達失格?

 香坂さんがお陽の元に来るようになって、早くも二ヶ月が経つ。彼女が和算の遊び相手にするのも、いつしか私から香坂さんへと代わり、毎日手持無沙汰に部屋を訪問する日々が続いていた。

――私は、もうお役御免なのかもしれない。

 これまで私なりに和算のことを勉強して、お陽にふさわしい話し相手になってきたつもりだったけれど。もし彼女が私よりも香坂さんといる方が楽しいというのなら、それは受け入れなければならない。

 そんなことを考えていたある日の朝、私はふと思い立って隠し部屋に向かった。廊下に繋がる扉を開けると、昇ったばかりの太陽の光が白く差し込む。

――眩しい。

 目を細めつつも顔を上げると、そこには思いつめた表情をして窓の外を眺めているお陽の姿があった。

「お、陽……?」

 彼女が振り向き、にこりと微笑む。

「あら、お松。おはよう。今日は早いのね」

 まったく時期(タイミング)が悪い。何でよりによって、こんな日に。どうして今日に限って、お陽と鉢合わせちゃうんだろう。

「そう、ね……おはよう」

「お松とこうして話すのも、随分と久しぶりな気がするわ」

 何て言ったらいいのか分からなくて、私は口ごもった。お陽の顔が、まともに見られない。

「もしかして、楽しくない?」

「えっ」

 思わず顔を上げる。ふいに言われたその言葉に、私はドキリとした。だって、図星だったから。

「お松は私といても、楽しくない?」

「そ、そんなこと……!」

 違う、その逆よ。最近は、お陽といないから。お陽といる時間が少ないから、私は楽しくないってだけで。決してそういう意味じゃない。

「気を遣ってくれなくていいわ。私には分かるもの。最近ここに来るあなた、何だかとっても浮かない顔してる」

「違うわ!」

「何が違うの? 嫌ならハッキリそう言ってくれたらいいじゃない。そう言ってくれれば、私の話し相手なんか務めなくていいって伯父様に言ってあげるのに!」

 珍しく、お陽が語気を荒らげた。白い頬は真っ赤に染まり、目は涙で溢れ、充血している。

 私はムッとしていた気持ちも忘れて、彼女に駆け寄った。

「お陽……そんなに興奮したら、体に(さわ)るわ」

「何よっ! お松だって、どうせ私はもうじき死ぬんだからって、そう思ってるんでしょ! 同情なんてしてほしくないわ。それなら話し相手なんていらない。あなたなんてクビよ!」

――友達、失格。

 ふらつくお陽の体を支えながら、私はうな垂れる。そして、静かに言った。

「そう……やっぱり私なんかより、香坂さんの方がいいのね。当然だわ。私は和算に詳しくないし、香坂さんなら難しい問題でも難なく解いてくれるものね」

 私の腕の中で暴れていたお陽の動きが止まる。

「……違うわ」

 彼女は私の拘束を解いて、ささやくように言った。

「そういう意味で言ったんじゃないの。お松は、私の相手なんかしたくないんだとばかり思ってたから。私があなたを嫌いだなんて、そんなはずないじゃない」

()()ね。それこそ、私がお陽を嫌いになるはずなんてないじゃない? 私達、友達なんでしょう?」

 私が微笑むと、途端にお陽の顔が(ほころ)ぶ。

「そうよ、あなたは最高の友達だわ。だからずっと、私のそばにいてくれる?」

「もちろん」

 じゃあ前言撤回ね、と彼女は笑う。こんな大切な友達をクビになんてできないわ、と。

 そう――私達は友達、それも最高の友達だ。私はお陽に必要とされてないわけじゃなかった。ふと差し込んだ朝の光に、思わず涙を流した。

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