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3 重大任務

 その後、お鈴から頼まれていた仕事を終えた私は、城主様の部屋を訪れていた。

「そうか、やはり気付かれてしまったか」

 彼は老眼の入った眼鏡の向こうで、ハハハと微笑んでみせる。なるほど、笑うところは姪の鞠姫様にもそっくりだ。

 城主様はもう若いという年齢ではないけれど、それでも常に溌剌(はつらつ)としていらっしゃる。髪に白いものが交じってはいても、その健康的に焼けた肌色は偉丈夫(いじょうぶ)といっても過言ではない。

 それでいて一城(いちじょう)の主にふさわしい決断力と統率力、それと軍事力とを持ち合わせていらっしゃる。またそれとは対照的に、女性を気遣ってくださる紳士的な一面もあり、前に私が結婚を機に住みこみから通いにして働きたいと言ったのを、二つ返事で呑んでくださったときはあまりのことに感動したくらいだ。以来、私の中では城主様は憧れのおじさまナンバーワンなのである。もちろん、殿方全体としてのナンバーワンは私の旦那様なのだけれど。

「君はなかなかよく気付く(かた)だから、いつかは気付くだろうとは思っていたが。いや、すまない、隠していたわけではないんだ」

 照れくさそうに頭を掻きながら弁解するところも、愛らしく思えてしまう。さすが、素敵なおじさまナンバーワン。

「家内も城の連中もみな、(とう)のことにかかりっきりだからな。私も言い出せなかったんだ。だが、私はあの子のことも心配なんだよ。藤も陽も、今や私の大切な娘なのだからね」

 そう言う彼は、本当に娘想い、姪想いなのだと思う。

「だから陽と鞠のことは、私以外誰も知らなかった。でも、ついに今日、君に気付かれてしまった――これがどういうことか分かるかね?」

 処罰、の文字が頭を(よぎ)り、思わず身を固くした。まさか、このおじさまはそんなことしないと思うけど。私は彼の手が、背後に飾られた家宝の刀に伸びないよう祈りつつも、次の言葉を待った。

「ハハハ、怖がらせてしまったかね。いや、すまない。ただ、このことは内密にしてほしいとお願いしたつもりだったんだ。でも怖がってもらえたということは、私の威厳もまだ残っているということだな。いやはや、よかった。やっ、君からしたら、ちっとも良くないか」

 安堵の息をつく私をよそに、城主様はその反応が余程嬉しかったのか楽しそうに笑っている。その様子はとても素敵だったけれど、私としてはちょっぴり不服だ。

「実はね、あの子達が以前暮らしていた村は――その頃、流行(はや)(やまい)があってね。陽はその病に(かか)りかけていた。それで急遽(きゅうきょ)、彼女を城へ呼び寄せ、あの隠し部屋に隔離した。あの部屋なら誰も入ってくることはないし、何より見晴らしがいい。きっと陽の療養にも良いと思ったんだ。そしたらその姉の鞠が、妹の看病を申し出たものだから、それならと二人とも連れてきて養子にした、と。こんなところかな?」

 そしてもう一つ、この年まで持った陽の命も、二十代が限界だろうと言った。つまり、彼女の余命はあと数年がいいところだ、と。

「だから君には、陽の話し相手になってやってほしいんだ。君は陽と同じ年だし、きっと話も合うだろう。あの子の身の世話は姉の鞠がやってくれているが、彼女一人に押し付けるのもどうかとは思っていたんだよ。どうだね、鞠の力になると思って、引き受けてくれんか」

 彼の懇願するような眼差しは、陽の姿を思わせた。と同時に、城主様が心から姪を想っているということがひしひしと伝わってきた。だから私は二つ返事で頷いた。

「もちろんですわ。私で力になれるか分かりませんけれど、出来得る限りの努力はさせていただきます」

「そう言ってくれて私も嬉しいよ。君なら、あの子達の支えになると私は信じている」

 城主様が微笑む。

 こうして、私は城主様から直々に『陽姫様の話し相手』という重大な任務――つまり姫様の専属女中という任務を仰せつかったのだった。

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