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番外 白鷺伝説

前日談。陽姫幼少期編。前半は、お敬おばさまの語る昔話です。

 むかしむかし、この国が「戦国時代」と呼ばれていたころのおはなしです。

 世田谷城というお城に、常盤(ときわ)姫という美しいおひめさまが住んでおりました。おとのさまのおよめさんとしてやってきたおひめさまは、おとのさまの愛情を誰よりも受けていました。おひめさまも、けっして気取ったりせず、心優しいかたでいらっしゃいました。

 ところが、お城に住むほかの女の人たちの中には、そんなおひめさまをこころよく思わないかたもいらっしゃいます。彼女たちは、おひめさまの悪いうわさを広めました。

――あのおひめさまは、この城のひみつをほかの国に告げ口しようとしている。

――きっと、およめにくる前のおうちから連れてきたあの鳥をとばして、それを伝えようとしているのだ。

 そんなうわさは、あっというまに広まって、とうとうおとのさまの耳にも入るようになりました。

「なんだと。常盤は、わしをうらぎったと申すのか」

 おひめさまは、必死で首をお振りになりました。

「わたくしは、そんなことはしておりません。なにもかも、ありもしない、うそのはなしでございます。おねがいです、わたくしを信じてくださいませ」

 けれど、うそのはなしに頭をなやませたおとのさまは、おひめさまを信じることができませんでした。もしかしたら、おひめさまが自分をうらぎったというはなしが本当かもしれないと、心のどこかで思っていたのかもしれません。

「ええい、言いわけなど聞きたくない! おまえなど、もう知らぬ! 今すぐ荷物をまとめて、この城から出て行くがよい!」

 おとのさまのそのひとことで、おひめさまはお城を追い出されることになりました。

 荷物をまとめようと自分の部屋にもどって、おひめさまは考えます。このままお城を出て行って、わたくしはどこへ行ったらいいだろう……。

 もともといたおうちにもどっても、きっとおとうさまたちにごめいわくがかかるだろう。かといって、ここに残るわけにもいかない。

 なやんだおひめさまは、手紙を書いて、飼っていたサギの足にくくりつけ、お城の窓から飛ばしました。サギというのは、鳥の種類のひとつで、おひめさまがおよめにきたときにおうちから連れてきたともだちです。

「おねがい。この手紙を、あの人に届けておくれ。わたくしの願いを、あの人に伝えておくれ」

 願いをたくされたサギは、空高く飛んで行きました。

 そしてそれを見届けたおひめさまは、みずからの手で、静かに命をたちました。

 ところがサギは、手紙を届ける途中で、タカという大きな鳥に出くわし、ころされてしまったのです。サギは、まっさかさまに落ちていきます。そしてその落ちた川のほとりに、美しい花が咲きました。

 おひめさまの想いを届けるために命のかぎりをつくしたその鳥の名をとって、その花は「さぎそう」と呼ばれるようになったというおはなしです。


 お(けい)おばさまは、庭の鷺草畑を見るたび、慰めるようにその話をしてくれた。

「えー? またそのはなし? もうミミタコ(耳にタコができる)だっての!」

 お姉様は、つまらなそうに口を尖らせる。けど私は、この話が大好きで、何十回と聞いても飽きなかった。

「いいじゃない、おねえさま。わたし、このおはなし大好きよ」

「でもさ、おとのさまはサイテーだし、城のオンナたちもサイアクじゃないか。おひめさまは死んじまうし、サギだって手紙も届けらんないで死んじまうだろ。だれも幸せになれないおとぎ話なんて、聞いたことないよ!」

「でもサギは、最期までおひめさまの想いを届けようとがんばっていたわ……」

 そう――愛され愛していたはずのお殿様には信じてもらえなかったお姫様だけど、あの鳥だけは違った。実家から連れてきて、最期まで一緒にいたあの鳥だけは、お姫様を信じてくれていた。だから鷹に襲われて命尽きるまで、彼女の遺志を伝えようとしていたのだ。

「ねえ、おばさま。おひめさまは……いったい、だれに手紙を送ろうとしていたのかしら?」

 そう尋ねると、おばさまは困ったように笑って言った。

「さあ……誰に送るつもりだったんでしょうね。お(ふじ)ちゃん(陽姫(ようひめ)の幼名)は、誰だと思う?」

「うーん。だれだろう、わからないわ。でも、自分が死んでしまっても、どうしても伝えたい人――とっても大切な人だったっていうのは分かる気がする」

「そうね……」

 教師が生徒の意見を聞くときのように、おばさまはうんうんと頷いてみせる。

「きっと、おひめさまはその鳥のことをとってもシンライ(信頼)していたのね。結局届けることはできなかったけれど、この鳥なら必ず届けてくれるって信じていたんだわ。そうじゃなかったら、飛ばしたりはしないもの」

「うん」

「わたしも……そんな風に、心からシンライできる人に出会えるかしら」

 あのおひめさまのように。

「大丈夫、きっと出会えるわ。お藤ちゃんは心の優しい人ですもの」

「……だといいな」

 何だか急に照れくさくなって、私はポッと顔を赤らめた。

 そんな私が、お話の中のサギのような、心から信頼し合える人に出会うのは、まだまだ先のお話――。

2013年4月22日完結。


第10話で陽姫が話していた鷺草の逸話をおとぎ話化してみました。

実際言い伝えられているという鷺草の伝説をもとに、一部変更や割愛、追加設定をした上、「おばさまが語る創作昔話」の形になったという具合です。

変更点は主に、お姫様の性格設定追加や一部のエピソード変更など。


(※)鷺草伝説の話は、前回同様、以下のサイトを参考にしています。


*Nao2百花物語「花の伝説 常磐姫と白鷺」

http://www.geocities.jp/nonkihoke/monogatr/sagiso.htm

*目黒区ホームページ「鷺草伝説」

http://www.city.meguro.tokyo.jp/gyosei/shokai_rekishi/konnamachi/michi/rekishi/seibu/sagiso/index.html

*季節の花300

http://www.hana300.com/

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