今日は節分です。
或る日のクレールクラングにて。
そこには所属のメンバーが全員集まっていた。
「みんな、準備はいい?」
「おっしゃいくぜぃ!」
「頑張るでありまする!」
「倒す……!」
「かかって来い……! 俺っちに勝てるかな」
今時珍しい、木造りの木目が美しい升を片手に持った面々。
しかし、水谷響だけは何も持たず、他のメンバーと対峙するように立っている。
「ルールは、異能の使用は禁止。殴る蹴るも禁止。噛み付くのも。投げることだけで退治できたらオッケーよ!」
「はい! 分かりました」
「今年もやるのね、コレ……」
「いいじゃん、楽し〜し……面白い」
臨戦体勢となるメンバー達。
クレールクラング内は……その間においてだけ、《戦場》であった。
ピリピリとした空気が漂う。
「では、よーい……始めっ!!」
水無月綾乃の号令で、一斉に事態は動き出す。
升の中身をわし掴んで__投げる。
飛び散る小さな薄い黄土色の粒。
目標は、響だ。
「「「鬼は〜外! 福は〜内!!」」」
「うっ! うわ! これ地味に痛ぇ!!」
或る日__それは二月三日。
今日は節分である。
「誰だよー本気で投げたやついるだろー? 地味に痛かったんだぞー」
響は豆粒の嵐に巻き込まれ、やむなく退場し、着けていた鬼の面をとって戻ってきた。
「日頃の恨みだ……」
「う、浦田ん、負のオーラが滲み出てるよ」
翠の瞳を細めて睨みつける、普段のように温和でない浦田紫苑。霧雨詠斗は少し驚きの声を上げた。
「ほらほら、そんなこと言ってないで豆を食べるわよー」
綾乃の号令で羽波真琴と糸水絃が動き出そうとした。
「あ、豆を宙に上げますね。絃も手伝ってー」
「あいよー、物体操作」
そうすると、二人は綾乃さんにポコッと頭を叩かれた。少し痛そうに頭を摩る二人。注意するように少し強い口調で二人話す綾乃。
「こら。異能を使わずに出来ることは自分たちでするの。出来る限りはね」
「……はーい、ごめんね、絃」
「いや、大丈夫だぜ。オレも同じこと考えたからなぁ……」
少ししょげながらも腑に落ちた、という顔をした真琴。
その後、総出で豆を拾い集めていく。
「痛っ……あっ踏んじゃった」
「気をつけて〜」
「結構量がありまするね」
「そうだね。……あー、あたし、腰痛くなっちゃった……腰がバキバキ……」
そして、豆を集め終わり集合すると事務所の奥から綾乃が持ってきたのは__中身の詰まったビニール袋。
「おっ、きたきた〜」
「待ってましたぜ」
「恵方巻きも食べるわよー!」
「やった、恵方巻きだっ」
ビニール袋の中から出てきたのは、太く、様々な中身の恵方巻きだった。
各々、好きな中身のを一人一つ、取っていく。
「今年はどこなんだ、向き」
「……南南東。……だったと……」
「そうなんでありまするね」
食べる準備をし終わった面々は、南南東を向く。そして一斉に恵方巻きを頬張った。
「…………」
「…………」
「…………」
「っやっりぃ! 一番乗り!」
最初に食べ終わったのは絃。その次に糸水樂。双子で一等二等を取ったのであった。
終始、賑やかな雰囲気のクレールクラング芸能事務所。
いつもと違った和やかな空気で満ちていた。