プロローグ5
「そう言ってくれると思っていたよ」
「前置きはいい。それで俺は何をすればいいんだ?
それを聞いてからじゃないとやるとは言い切れない」
そう言うとライラはにっこりと微笑んだ。
太一にとって選択肢がない事が分かっていての笑顔である。
太一もそれが分かっているからかわざわざ悪態をつくこともなかった。
「太一君にやってもらいたい事っていうのはずばり勇者だよ
君には僕の世界を救ってもらいたい」
「勇者?冗談きついな。
俺は目立ちたくないんだ、あんただってわかっているだろう?」
元の世界での経験から太一は目立つことを嫌っている。
どんな違いがあろうが人目につかなければ実害はなかったはずなのだから。
「もちろんわかっているよ。
でも、いやだからこそ君には勇者になってもらいたい。
つまりさ・・・力がばれた時の言い訳にでもしてくれればいいんだよ。
神様から授かった力だってね。
僕の権威は上がるし、君の疑いは晴れる。いい事づくめだろう?」
「そんな簡単に信じるものなのか?」
「君の力なら信じる人は多いと思う。
君にいってもらう世界は俗にいう剣と魔法の世界だから。
力は違えど結果が同じなら疑う人は少ない。
神様からもらった風魔法の力だっていえばいいんだ」
「剣と魔法か・・・ずいぶんとあっさり言ってくれるが重要な事だろ!」
転移するのは地球に似た場所だと思っていた太一にさらっと恐ろしい事を告げるライラ。
「普通ならそうなのだけれど君なら自前の力だけで十分なんだ。
何も心配する必要はないだろう?」
悪びれた様子もなく当然のように言った。
「死が身近にあるってのはそれだけで恐ろしい事だと思うがな」
「確かにそうだね配慮が足らなかった。
不死身の能力でもあげようか?反射のほうがいいかな?」
軽い不平をもらした太一にすらすらとチートスキル群を挙げていたライラだったが
「いらねーよ。人外の力なんざ自前のだけで十分だ。
俺はただ普通に暮らしていきたいだけだ」
という太一の言葉に「そうだね」と頷いた。
「じゃあ君には普通に暮らしていくための力を渡すことにするよ
まずは力のカモフラージュ用に風魔法と空間魔法。
危機を脱する事ができるように、隠密・逃走・危機察知
それから初心者でも安心の異世界セットってところかな」
「異世界セット?」
「ゲームにもチュートリアルってものがあるだろう?
あんな感じだよ。言語理解はもちろん、困ったことがあるなら僕が相談にのる。
異世界初心者のための詰め合わせってところかな」
「ふーん。確かにそれは欲しいな。
これまであんたがあげた中で一番欲しいかもしれない」
「・・・そう。他に欲しい力はある?」
「力はさっきので十分。
・・・それよりもあの箪笥の中のものをくれないか」
太一は部屋を物色していた時に発見した光の珠を思い出した。
「珠・・・願珠か・・・」
「あれはここから持ち出せないものなのか?」
これまで人外のスキルを大安売りしていたくせに渋るライラに
太一はあの珠はここから持ち出せないのではないかと考えた。
「いや、持ち出せないことはない。
ただあれには暴発の危険があるんだ。
願珠は人々の思い。つまりは僕への信仰を貯めておく物なのだけど
所持者の器を上回る思いがたまると暴走して下手をすれば君は
思いに飲み込まれるかもしれない。それでも持っていくかい?」
太一の言葉を否定しつつライラは心配そうに言った。
「あぁ、持っていきたい。
これまでこんなに欲しくなったものなんてなかったからな。
それにいざとなればあんたが何とかしてくれるだろう?」
「わかった・・・万全を期した上で君に送ろう
それじゃあこれできまりかな。
少しばかり準備に時間がかかるから君はここで待っていてくれ」
そう言うとライラは壁へと消えていった。