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なんか変なことになった@  作者: 良正 儚
.
8/15

第三章 しがない思考 ―― 死がない試行

ついに物語っぽくなってきたかな?

第三章 しがない思考 ―― 死がない試行

         ☆ とある隠された一室 PM 2:30

「どうも、久し振り」

 僕はその女の子に声をかける。

「!? なっ、なんでここにいる!?」

 お、驚いてる驚いてる。

 ここは多治見市役所のとある隠された一室。

「いっやぁ、よく考えたら分かるんだけれど、日本人のうち6000人にも変な力を手に入れたらいくらなんでも日本政府が気付かないわけがないんだよね」

「おい! 質問に答えろよ!」

「もし能力者の何人かが外国で暴れたりなんかしたら、新兵器だと誤解されかねないし。でも、いつどこで誰が能力者になるかなんて分からない。さて、日本はどうしたかというなら、神を探すことにした。僕は聞いたことはないけれど能力者に目覚めた者のほとんどはロキの言葉を聞くんだってね。そして……」

「いい加減に答えろおお!」

 ドグシャッ

 その金髪金眼、ワンピースを着用した八歳くらいの女の子の細い足がリノリウムの床を砕いて突き刺さる。

「そして、君は神の子だろう?純粋なフレイとフレイアの娘。近親相姦で生まれた神話から消されてしまった女の子、レイヤ」

「…………」

 ガララッ

 レイヤの足が床から抜ける。

「ある日、虎渓山で気絶しているのを発見されて、以後、多治見市役所で管理されるようになった。全く能力についての情報を東京で明かさなかったからだ。どうしてこんなクソ暑くて何も無い多治見市にいることにしたかは知らないけど……」

 とまで言ったところで、

「ここで私が初めて目覚めたんだから、親の手がかりを捜すのは当たり前だ」

 やっぱりか。

 拷問されようとしても全部神の能力ではね返したらしいし。

「んで? どうしてテメェがここにいるんだ?」

 レイヤの右手からギュルギュルと音がする。

 その右手は僕に向けられている。

「僕はレイヤちゃんに頼みがあって来たんだ」

 ダン、

 レイヤの手から何かが弾き出された。とりあえずかがんで避ける。

「ちゃん付けするな」

「短気にも程がある……」

 まあ、慣れてるけど。

「レイヤに頼みたいことがあるんだ」

「……何だよ? 自分を殺した相手にわざわざ会いに来てまで頼みたいことってのは?」

 少し周りを見渡す。今から行う交渉に適した場所かどうか確かめるために。

 隠された一室の割にすごく広い。テニスコートが4つ入りそうなくらいだ。目測だけど上から見ればほとんど正方形だろう。レイヤはここでずっと暮らしていると聞いたが、私物がほとんど無い。あるのは1人用ベッドに小さな机、小物がたくさん詰まっている籠とタンスくらいか。サンドバッグが300個くらい破壊されて1ヶ所に集まっていたのは見なかったことにしよう。麦わら帽子はどこだろう。

 スペースは目に見えて余っているようだし、まあまあ適している。

「人の部屋ジロジロ見るな」

 彫刻刀が飛んできたのでマト○ックス的に避けてみたら、一瞬で距離を詰められ、レイヤに腹を蹴られた。

「ぐおっ」痛ぇ。

「フザけるからだ、ボケ」

「本当に短気だね。とりあえず、一つ確認するんだけど……」

「何だ?」

 軽く睨まれる。

「情報の一員だったことがあるよね?」

「…………どこで知った? それについてはアヤに口止めしているんだぞ」

「善意の情報提供、つまりは友達新聞、金は全く払ってないがな」

「……何者だよ、ソイツ?」

 さあ、最近能力者って知ったばかりだし」

「……んで、何の用だよ? 返答次第じゃ……」

「殺す?」

 まあ、無理だけど。

 レイヤは首を振った。おや、違うのか。

 そのまま満面の笑みをつけてこう言った。


「三千世界に閉じ込める。永久に」


「鬼だ!」

 それじゃ本が読めないじゃないか!

(オイオイ……)

 そんな呆れたご様子の幻聴は華麗にスルーして、

「まあ、そんなことにはならないよ。頼みたいことは」

 そこで一旦一間を置き、

 

「操女が過去に僕のせいで殺した情報達の死体の場所を教えてくれ」

 

         ☆ 多治見市役所のとある隠された一室 PM 2:36

「嫌だね。今のテメェは何するか分からないし、教えてやる義務もない」

 無下に断られた。

 だが、

「そう言われるとは思ってたよ」

「ふうん。じゃあ何か交渉材料でも持っているのか?」

 

「シゲキッ○ス100袋でどうかな?」

 

「アホか? アンタ」

「うーん、やっぱ無理か」

 場合によるけど、小説とか漫画では成功しているんだが。


「カラ○―チョ300袋ならのるが……」


「そっちか!」

 甘党ではなく辛党らしい。

「キシリトール入りで」

「あるかよ。そんなもの!」

 スーってする辛いポテトチップス、オエッ。

「ていうか、のる訳ねぇだろ。そんな話。はっきり言って、アイツらのことは思い出すだけでも虫唾が走る」

「そうか」

 まあ、ここまでは予想通り。あとは、次の話にのるか、のらないか。

 

「でも、力ずくならいいぜ」

 

 おっ、こっちから言わなくても、あっちから言った。

「べっ……、別にしたかった訳じゃないからね!」

 顔を赤らめながら続けた。

「……なぜ急にあざとくなるんだ……」

 正直言って可愛いが、ロリコンではないので却下だ。

 というか、お前本当に神か。

「やってみたかっただけ」

「そうか、顔洗って出直せ」

 ツンデレナメるな。

「とりあえずオレはアンタと戦えばいいのか?」

「僕が勝ったら操女が殺したヤツの死体の場所を教えてくれるなら」

「いいぜ。死なないテメェの敗北条件は?」

「一時間以内にレイヤをギブアップさせられなかったら」

「ふーん。そんなんでいいのか?あと10個までならハンデ聞いてやるぞ?」

「いいよ。奥の手はたくさんある」

 僕はレイヤと三メートル離れて向かい合う。

 レイヤの全眼が強く輝き出す。

「オレが勝ったらテメェは三千世界行きな」

 僕は答える。

「いいよ。なら、僕が勝ったらついでに本でも買ってよ」

「別にいいぜ。勝ったらな」

「それじゃあ、――」

 

「戦闘を始めよう」

 

            ☆ 多治見市役所のとある隠された一室 PM2:38

 シュン、

 速い。一瞬でレイヤの姿が見えなくなる。

 僕はどこから来るか分からないレイヤの狙いを外すために思いきり右に体を動かす。

 ジュッ、左肩が少し摩擦を起こしたと思ったら、

 ドグシャアー!

 レイヤの拳が床に突き刺さる。

「へぇ、よく避けたな」

 まあ、勘だけどね。

 と言う間もなく、

 シュン、

 目の前にはもうレイヤがいる。

「くっ!」

 インファイトされたら終わりだ!

 とっさに口の中に歯で固定しておいたペンライトをレイヤの目に直接当てる。

「きゃっ」

 意外に可愛い悲鳴あげるなと思いながら、もう役に立たないペンライトをペッと吐いて床に捨てながら一気に距離を取る。

「この!」

 顔を真っ赤にしたまま目の前に現れる。

 ザッ、

 今度はその場にある、破壊されたサンドバッグの砂を人より大きめの瞳に向けてまく。

「痛い!」

 そりゃ痛いわな。

 レイヤが悶えている間にポケットから茶色のビンを取り出して床に叩きつける。

 ツルッ、レイヤが覚束ない足を踏み出してコケる。

「うわ! ベトベトする! キモい!」

 さらにポケットから取り出したマッチ箱からマッチを1本取り出して、

「あっ、それガソリンだから」

「えっ!?」

 シュッ、

 ポイッ

「きゃあああああああ!」

「うーん、レイヤの体の方は全く燃えないのか。流石、神の子」

 ほとんどアイツの言っていた通りだ。

「女の子に対する戦い方じゃねぇー!」

 ごもっとも。

 とりあえず燃えているのはワンピースだけのようだ。ただ暑いから悲鳴を上げているようだ。

 ……ということは、

「きゃあああああ」

 転がっている。メッチャサービスシーンだ。一部の男性の方々が見たら喜んで泣けるタイプの。

「ちょっ」

 そろそろヤバい。もうすぐ胸が見えることになる。8歳でもそりゃダメだろう。

 と思ったところで鎮火した。

 セーフ。

「ふぅ。危なかった」

 悶えている間に目も見えるようになったらしい。

「あっ、これ以上サービスしないから」

 ブオン、ところどころ焦げまくってサービスシーン全開だったワンピースが元通りになった。

(全国の一部特殊な趣味を持つ男性読者の方々に謹んでお詫び申し上げます)

 どうしよう。僕も謝っといた方がいいのだろうか。

「んで? そんな外道な奥の手しかないのかよ。この変態!」

「…………」

 変態以外は本当だから質が悪い。

「さっきまで隙だらけだったのに、何で攻撃しなかったかは気になるが……」

 レイヤは右腕を天井に向ける。

 ヒュー

 風が吹き出す。ここは室内で窓もないというのに。

 ギュルルルルルという音に変化した。

 その全てが一気にレイヤの右の手の平の上に集まっているのが分かる。……風を操っているのか。最初に撃ちだしたのも空気弾だったのだろう。

 ちょっと体が飛ばされそうなくらいの風が吹く。ヤバい。

 そして、

「これで終わりだしな」

 レイヤの手の平の上に集められた空気が開放された。

         ☆ 多治見市役所のとある隠された一室 PM 2:45

「ぐあああああああああああああああああああ!」

 エラいことになった。

 やったらもうダメだろ的な暴風が吹き荒れる。

 多分、新幹線よりもずっと速く今の僕の体は宙を舞っている。

 それだけならまだいいが、

 グジュジュジュジュジュ、といった感じに物や床に体が触れると大根おろしのように削られる。

 さらに、ジュバ、ジュバ、と数秒ごとに体が真空波によって切り刻まれる。

 もちろんだがメチャクチャ痛い。

 室内台風の中心にはレイヤがCDプレーヤーで音楽聴いてるみたいだ。

 周りに空気の壁を張って偶然近づいてきた家具を粉状にしながら。

「どうすりゃいいんだ……」

 考えてみる。

 ………………閃いた。

 近くの本棚に、――ちなみに本はもうどっか行った――マッチで火を点けて、直後に燃えきってない所を蹴ってレイヤの方に飛ばす。

 よし、その後は、

         ☆ 多治見市役所のとある隠された一室 PM 2:53

「グーニョ、グーニョグニョ、ゾンビの子、崖の下に、落ちてできた」

 とか歌っていると、サンドバッグが落ちてきた。

「きゃああああ!」

 うっ、また変な声を出してしまった。

 よく見るとそれは私が5日前に買い直したサンドバッグだった。

「なんでだ……? ちゃんと風壁を張っておいたはずだが……」

 どうしてこんなデカい物がこの壁を通り抜けることが――、

「終幕だ」

 後ろからもう倒したと思っていた男の声が聞こえた時、

「――っ、しまっ――」

 たという前にその男の刀が私に振り降ろされた。

         ☆ 多治見市役所のとある隠された一室 PM 2:59

「ふぅ」倒れたレイヤを見ながら息をつく。

 僕は家から持ち出した模造刀を鞘にしまう。

 とりあえず勝てたようだ。今日は100センチも小さくなってしまった。

 ――僕がほんの数十秒前にやっていたことは、簡単なことだ。

 火だるまになった本棚にその後にさらにガソリンの入った予備のビンを投げつけた。

 そして、激しく燃え盛る本棚の後を負うように近くの小物の入ってた籠や壁を蹴って追う。

 もちろん、体は宙を舞っているので全く成功する保証は無いが生まれつきの運動神経と毎日の疾走下校によって身に付けた運動能力を信じてやって成功させた。

 そして、栞から模造刀を取り出した。

 空気の壁といっても所詮は酸素と窒素の塊だ。

 空気中の20%を占める酸素は激しく燃え盛る本棚と反応するのだから、結果空気の壁は当然モロくなる。

 それにサンドバッグがぶつかればたやすく突き抜ける。

 最後は空気の壁の中に侵入して、サンドバッグの方に気を取られていたレイヤの頭に模造刀を叩き付ければおしまい。

「おい、大丈夫か?」

 一応心配。神だけど女の子だし。

 刃は潰されてるとはいえ、金属の塊を頭にぶつけられたのに、たんこぶくらいしかできていないが。 鋼鉄の頭?

 うつ伏せに倒れたレイヤを仰向けにする。

 レイヤは口元をニヤリと歪めた。

 ヤバい。

 僕は全力で距離を取るが、

 グジャッ。

「終幕だな」レイヤが言う。

 僕の心臓はレイヤの拳によって貫かれた。

         ☆ 多治見市役所のとある隠された一室 PM 3:00

「あとは30分間動けないように固定すればいいんだよな」

 レイヤは僕の体を貫いたまま立ち上がる。

「ゲホッ、……そうだよ」

 1、2、

「じゃあとりあえず部屋の気流を元通りにしてと……」

 3、

「ここらへんにするか。何か言うことあるか?」

 4、

「僕の勝ちだ」

 5、

「負け惜しみ――ひゃう!?」

 僕は全力でレイヤを抱きしめた。

 そして僕の能力が発動する。

 『最弱不滅』

 能力所有者を不死にする能力。代わりに、負ったダメージの分だけ体が若返るか、単純に小さくなる。質量も減る。

 

 周りの空間を巻き込んで。

 

「なっ、何を……って、体が縮んでる!? 私の体が!?」

「僕の体、ゲホッ……、もだけどね……」

 実際、レイヤと僕の体が目に見える速さで縮んでいく。

「くっ! 離れろ!」

「や……だ、ね…………」

 僕はレイヤの腕力を物ともせず抱き締め続ける。

 当たり前だ。

「全然、力が入らない……!」

 体が急激に変化している間に通常の力を出せる生物なんてまずいない。

 もちろん、レイヤは神なので生物かどうか微妙だったけど。どうやらその範疇らしい。

 僕はとっくの昔に慣れたが。

 そして、僕とレイヤがフィギュアサイズまで縮んだところで僕はレイヤの腕をズポッと引き抜く。おお、痛い痛い。

「ゲホッゲホッ、ゴボッ」

 軽く血のせきを吐いている間にどんどん胸の穴が塞がっていく。

「おい! こんな状況でどうするって言うんだよ!」

 レイヤが僕の胸倉を掴む。

 まあ、アンタは元に戻る方法知らないしな。

「落ち着けよ。後で元通りにしてやるから」

「何だと、この野郎……!」

 さてと、コレと、コレと、コレでいいか。

「って、きゃあああああ!」

 何かレイヤの悲鳴ばかり聞いてるなとか思いながら、僕の体は何の音もなく元通りの大きさに戻っていった。

 レイヤは当然ぶら下がることになる。そりゃ悲鳴くらい……。

「……って、よく考えたら、普通にお得意の風使えるんだから別に怖くないんじゃね?」

「高所恐怖症なの! 助けてよ! お願いだから!」

 ……さっきまでのオレ様口調はどこ行ったと思いながら手の平に乗せて下まで下ろしてやることにする。

「……うぅ……。ありがと……」顔を真っ赤にし、目を潤ませて呟くように言う。

「…………」

「…………?」

 少しだけロリコンの気持ちが分かった気がする。

(ここ挿絵入れてもらおう。)

 はい、無視無視。

「……って、前の話し方が……!? ああ、ヤバい! クソ! 今のなし! 今の聞かなかったことに!」

 叫んでいらっしゃるが、もう僕の頭の中に永久保存設定がされてしまったので絶対無理だ。

 ミニチュアサイズなので、特に危機感を抱く必要も無さそうだし。

 グチャッ、

 レイヤの拳が浅くだが僕の足をエグった。

 地味に痛い。

 デコピンしといた。あ、もちろん軽くですよ? って、誰に言い訳してるんだろう?

「ちくしょー! 元に戻せ!」

 口調が元に戻ってしまった。少し残念。

「僕の勝ちでいいよね?」

「っ!」

 どう考えてもレイヤはもう勝てないだろうし。

「……ああ、もう! アンタの勝ちだよ! 情報の連中の死体の場所も教えるよ! それでいいだろ!」

 喚くように行った。

「うん、OK」

 僕はレイヤに微笑みながら言った。

         ☆ 道 PM 3:20

「服まで一緒に回復するのはこのための伏線だったのか……」

 レイヤは小さい体で独り言を言った。

「まあ、伏線とか日常で張る気なんてなかったんだけどな」

 僕は答える。

「あ、そこ左。……どこから模造刀なんて出したんだ? 来たときにそんなデカい物持ってなかっただろ?」

「ん」

 僕は手の平の上にいるレイヤの言ったとおり、左に向きを変えながら答える。

「本の栞から」

「栞から?」

 

 僕はポケットの中から、金色の金属の栞を出して見せる。

 

「何だよ、『@』って書かれてるけど……」

「さあ? 知らないよ。多分だけど、もらい物」

「多分って何だよ」

「何だよ何だよって、少しは自分で考えなさい!」

「キモい」 

 傷ついた。

 自分の栞の『@』と書かれている所に人差し指と中指を突っ込み、少し中を探る。

 おっ、あった。

「うわっ……、キモッ」

「わぁー、スゴーイとか言えよ。顔青くしながら言うなよ」

 僕の栞から刀の柄が飛び出していた。

「どこでもらったんだよ、それ」

「うーん……」

 栞を見ながら思い返す。

 あのアクマと自分で名乗った女の子のことを。もちろん、今日初めて会ったのだから覚えていて当然だが。

 僕が正午に家を出発したとき僕が持っていたのは、定期券とテレホンカード、図書館利用者用カード、それに現金千二十八円が入っていた。

 栞なんて持ってきていなかったのだ。

 なのに、アクマが来たときには平然と僕は本に挟みながら使っていた。

 アクマの言ったことを思い出す。

 ――残念。もう渡しておいた――

 ――後で絶対君に必要になる物だ――

 確かにその通りだったよ。

「さあ? 分からないね」

 僕はそう答えることにしておいた。

「ちぇっ。……着いたぞ」

「へぇ、ここか」

 見渡す限り薄暗く、荒廃した土地が広がっている。カラスみたいな…ガーゴイルみたいな化け物が上空で飛んでいた。

 

 冥界。

 

 ハデスが住んでいるとされる暗く深い場所。僕とレイヤはそこに着いた。

「どこに埋まってるんだ?その操女が殺した5人は。」

「そっち。300メートルくらいの所にある、ちょっとうず高くなってる所だ。」

 言われた通りに進み、見つける。

「ここか?」

「そうだよ。掘れば?」

「わかった」

 僕は栞から大きいスコップを取り出す。

「物出すときに幅が足りない時は伸びるんだな……」

 レイヤが不思議そうな目で見ている。

「まあ、四次元ポケットの栞バージョンだろ」

「便利すぎるわ」

 僕もそう思います。

 ザクッ、ザクッ、ザクッ。

 10分後、

 箱が出てきた。

「「…………」」

 ロックを外して開ける。

 

 BL本だった。

 

「あ、ごめん。コレ、アヤの秘蔵コレクションだった!」

 僕は丁寧にそれを閉めて、ロックする。

「おっ。寛容だ」

 そして、全力で蹴っ飛ばした。変な犬がいる所へ向けて。

「もったいない! あの犬、何でも食べるんだぞ!」

「知るか! というか、それを狙ったんだよ!」僕は穴を掘って疲れたんだ!

 しかし、僕の思惑通りには進まず、変な犬は去っていった。

「ちっ」

 僕は回収して、元の穴に埋め直しておいた。凹みもないところを見ると、かなり頑丈だったらしい。

「次、違う場所だったらもっと小さくするからな」

「はいはい。分かってるよ。そこから右に500メートルだ」

「自分が殺した人の近くに趣味の物を隠すなよ………」

 全然人を殺したことを気にしていないような感じだ。

「いや、オレが隠しといただけ。アヤへの嫌がらせで」

 レイヤを地面に叩きつけといた。おかげで高所恐怖症が治ったらしい。

         ☆ 冥界 PM 4:18

「これで、ハァハァ、全……員、か……?」

 8人分だ。全部頭を砕かれたり、胸を貫かれている。

「ああ。というか、また3人殺してたのか。オレの知らない間に」

「ふぅ、疲れた」

 穴を掘るのは本当に体力を使う。服が泥だらけだ。

「で? どうするんだ? アンタは何をするんだよ?」

「……もう気づいてるんだろう?」僕は言う。

「……まあな……」レイヤも答える。

 僕はレイヤを地面に置く。

「じゃ、元に戻すよ」

「分かった」

 コレと、コレでいいだろう。

 レイヤの体が元の大きさに戻る。

「……お前さ、一つ聞いていいか?」

 レイヤが大きくなった直後に聞いてくる。

 僕はレイヤが風で8体の死体を浮かばせるのを見ながら答える。

「何?」

「どうやって元の大きさに戻っているんだ?」

 あっ、それか。それは――、

「――――だよ」と答えた直後、

 グジャア。

 

 僕の体が8体の死体の腕や足で貫かれた。

 

         ☆ 冥界 PM 4:22

「――――ぐっ」

 口から血が出てくる。

 1、2、

「――――ありがとな。レイヤ」僕はレイヤに感謝の言葉を言う。

 3、4、

「どういたしまして」そっぽを向きながら答える。

 5、

 僕の能力が発動する。

 僕の体が若返る。

 そして、8体の死体の傷が修復されていく。

 貫かれてから十数秒後には八人全員が生き返った。

 生き返ったヤツから僕の体からぐちゃぐちゃという音と激しい苦痛と共に引き抜く。

「えっ、どういうことだ……?」

「確かオレ死んだんじゃ……」

「コイツ、誰だ?」

「私、何でこんな所に……?」

「死んだはずだが……」

「訳が分からないぞ」

「……………………」

「どうなってるんだ?」

 八者八様の反応。

「レイヤ、こいつらみんな頭砕けば死ぬんだよな?」

 確認。

「もうハデスに闇元素を抜かれているから関係ねえよ。何やっても普通に死ぬ」

「ちょっと何を言って…………!」

 グシャッ。

「えっ!?」

 グシャッ。

「コイツヤバい!」

 ドグシャッ。

「逃げ――――」

 グシャッ。

「…………」

 グシャッ。

「きゃあああ!」

 グジュッ。

「追いつかれた!?」

 ガグジャッ。

「また死ぬのか……」

 グジョッ。

 ……………………。

「ふう、終わった。」

 僕はあらかじめ栞に入れておいたトンカチで8人残らず頭を砕いて殺し――直した。

「…………。アンタ初めて人を殺したんだよね……?」

 レイヤは血だらけの僕を恐ろしい物を見るような目で僕を見ている。

「――そうだよ。……ごめん、こんなの見せて」

 僕はレイヤに謝る。

「別にそれはいい。慣れてる」

 だけどさ、レイヤは続ける。独り言のように。

「それより、私はもっとたくさん殺した。人を」

 僕と向かい合いながら。

「…………」

 僕は何も言わない。

「たくさん殺した。でも……、」

「…………」

「神を殺したことはないし、人間の友達が出来た後は、人を殺すのに少しは躊躇うようになった」

「…………」

 僕は何も答えない。

「アンタはほとんど躊躇しなかった。」

「…………」

 僕は何も答えられない。

「同じように何か責任取らなくちゃいけない時に、私やアヤなんかを躊躇なく殺すの?」

「そんなことはないよ……。躊躇くらい、する……」

 辛うじて答える。

 少なくとも知り合いだったら絶対、躊躇する。

「殺さないとは言わないのね」

「…………」

「アンタは壊れてるよ」

「…………」

「少なくとも人として大事なことが抜けている」

「……うん。分かってるよ……」

 昔から言われてきたことだ。

 家族や先生とかに。

「……帰ろうか……。酷いこと言ってゴメン」

 レイヤは僕に背を向けて歩き出した。僕も一緒に歩き出す。

「ああ。本当にごめん、レイヤ」

「分かったよ」

 口調が元通りになった。

「あと、今日は本当にありがとう」

 心からそう思ってる。

「うるさい。恥ずかしい。オレが負けたからだ。感謝されるいわれはない!」

 レイヤはあまり感謝の言葉に慣れていないのか顔が少し赤い。

「本当にありがとう」

「うぅ……。次言ったら殴る」

その後、僕とレイヤは雑談しながら冥界から帰った。

         ☆ 多治見市役所前 PM 6:43

 僕とレイヤは多治見市役所の出入り口で向かい合う。

「じゃあな」

 僕はレイヤに言って背を向ける。

 時計を見ると門限の六時半を少し越えている。

 飯抜きは確定だなあとか思いながら歩き出す。

「…………あのさ、」

 レイヤが僕に声をかけてきた。

「ん?」

 もう、遅かれ早かれ結果は変化しないので僕は振り返る。

「……ヒガミの欲しい本が分からないから、残洋堂書店にそのうち、呼ぶぞ……」

 …………。

 俯いているから顔は見えないが、耳が真っ赤だ。

 というかいきなり名前で呼ばれたので驚いた。

「……土曜日くらいしか外出できないけど、気が向いたら呼んでくれ」

 とりあえずそれだけ言う。

「……ん。分かった。呼んだら絶対来いよ。じゃあ、さっさと帰れ」

「最後の言い方が冷たっ!」

「ハハハッ、じゃあなー」

「うん、じゃあなー」

 僕は帰り道を進み出す。

 レイヤの屈託の無い純粋な笑顔を頭に刻みながら。


 まあ、久し振りに悪くない一日だった。

 


ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました!

ぜひ続きも見ていってください!


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