第五章 最弱不滅 ぱあと2
一挙三話投稿ですよー。
ちょっとわかりにくいかな……、今回の文章……。
☆
ものが殺されるというのはどういう状況だろうか。
建物が瓦礫の山になる? 分子間力を奪われ全て粉状になる? 完全に消滅する?
違う。そんな生易しい状況じゃない。
物が生き物になった。
☆ 尾崎の屋敷の特殊な階段 PM 4:00
「何コレ!? 空気が全身を噛みついてくるんですけど!!」
現在僕は一人で物だった生き物に全身を食い千切られながら走っている。 地下室にいる操女のところへ螺旋階段を降りている。
入った空気が僕の内側を削る。痛い痛い。
ダメージを受けてからもう5秒たっているので、死体を生き返らせたのと同じように周囲を巻き込む時間戻しが発生してすぐに物を戻しているのが唯一の救い。だが痛みが止まらない。
ちなみに、レンは立体映像で監視カメラを使って対応していた。今も後ろをついてきている。
「生き物が死ねば、物になる。物が死ねば?」
「生き物に……、てことか」
「操女の能力『殺人鬼』はどんなものでも『殺す』という概念を持って『殺す』ための道具を持って、『殺す』ための体を持って、『殺す』ための呪いを持って、『殺す』という能力だ」
「…………」そりゃ、言いたくもない訳だ。
「威力は彼女の殺意次第。体内残響は殺意の発生。付随効果は『殺世』で世界を殺したくなる欲望を発露させる。といった感じだ。今は殺人衝動に身が引き摺られている状態だ」
「………………」
チート過ぎて言葉も出ない
「本当は薄々感づいてはいたんだろう?操女に1度でも攻撃された中での唯一の生き残りなんだから」
名古屋での操女との初対面の日。
僕は毒と呪いを一発目の攻撃とともにかけられた。
自分の運命が簡単に死という終末点に向かうように。
だから僕の周りの人間はキレたり、気まぐれで簡単に殺してしまう。それは操女に攻撃された直後に始まった。
いくら家族が厳しいとは言っても拷問用具なんて出すような家だった訳じゃない。今だって少しは温かみのある家だ。
全部自業自得である。
僕がここまで問題児でなければ、これ程簡単にみんなが殺そうとすることに抵抗が無い訳がないのだ。
今まで生きてこられたのは全部『最弱不滅』のおかげである。
「オレの家、もう原形が全く残ってねぇな」
「そうだな……」
物が生き物になって最初に行うのはまず食欲を満たすこと。目の前に生物がいれば自由に原子サイズで自由に動き回って襲いかかるのだ。それが生物だけでなく物でも。
原形を保てるはずも――ない。
今僕の駆け下りている螺旋階段だって能力による産物じゃなければとっくの昔に僕は地の底に落下して操女に殺されていただろう。
そう。今の操女なら僕を殺すことなど簡単にできる。
僕は、今確実に死に向かっている。
「あっ、そうそう。そこらへんに黒いボタンがあるはずだから押してみろ」
「ん?」
僕は立ち止まって薄暗い階段を見渡す。
「あっ、これか?」
黒いボタンは階段の右側にあった。
「ああ」
『ポチッ』効果音が変に可愛かった。というか楽の声の録音だった。
…………。
「レン、お前は変態だ」思ったことをそのまま言った。
「くっ……! 言い返せない……!」
まっ、どうでもいいけどね。
ガタッ、小さな黒い箱が落ちてきた。それを拾う。
6面のうち1面だけ時計の絵が描かれている。軽い。手の平サイズだ。
「何これ?」
「って何でそんな知らない物を渡すんだよ」
訳が分からない。
「何なのかオレは知らないけれど、『封印された闘技場』という名の道具だってのは知ってる」
「封印された?」
何だよ、そのムチャクチャ中二病っぽいネーミングは。
「アナザーコロシアムとも呼ばれるやつだ。その小さな箱の中には圧縮された空間が詰まっている。古代ローマの時代に造られたのと全く同じ場所がな。その場所は操女が殺したところで生物にはならないから上手く使え」
「そうやって?」
こんなのどう使えばいいか全く分からない。
「強く握り締めたら勝手に出てくる。あっ、そうそう。伝えるのが遅れたけど今この敷地にはお前と操女しかいないからよろしく。オレは部下の能力所有者による立体映像な」
「…………」まっ、いいか。誰も死んじゃいないなら。
正直レンを殴りたくなったが。先に言えよ。
「それと蟲は3週間で勝手に死ぬから。しばらく別荘から登校するんでお土産とかいるか?」
「むし?」
「ああ、また言い忘れてた。蟲はあの物が生き物になったやつを総称して呼んでいるんだよ」
完全記憶能力あっても言い忘れとかあるのか……。まっ、とりあえず。
「お土産はタカとベストと照弾銃全巻と兄対策のエロ本5冊な」
「あいよ。失敗したら操女に遺品として渡しておくよ」
「触れてもないのにか?」
「ハハハ」
「ハハハ」
どちらともなく笑いだす。
「それじゃ、行ってくるよ、レン」
「行ってこい、僻実」
僕は最後の段を踏む。と同時にレンの映像は消えた。
目の前には白銀の髪と真紅の瞳を持つ少女。
「待たせたな、操女」
「…………」
「戦闘を始めよう」
☆ 尾崎の屋敷の地下 PM 4:20
僕は操女が何かをする前に右手に握られたアナザーコロシアムを起動する。
目の前の景色が絵の上に絵具を塗りつけられたかのように変化する。
3秒後には僕のいる場所は太陽が照りつけるアナザーコロシアムそのものになっていた。
操女はぼんやりとした顔で立っている。
僕が何か話そうと口を開きかけたところで、
「…………ラ……、ル…?」
操女が今気付いたかのような顔で僕を見ながら言う。
「…………逃……げ……!」
とっさに避けた僕の体の左半分がフッ飛んだ。
☆ 尾崎家の地下 封印された闘技場内 PM 4:23
右半分しかない自分の体が地面に寝転がっている。
「グッ、……ホッ」
ああ、もう終わったな。
この後操女が僕の脳ミソを破壊して終わりだ。
何が戦闘を始めよう、だ。恥ずかしい。戦闘になってすらいない。
「…………?」
ちなみにこれはもう既に10秒程たった今も右腕と左腕の先がまだ回復していないことに不思議がって言ったんじゃない。
操女に攻撃されて受けたダメージが回復しにくいのは小学生の頃に経験したたくさんの事故(?)で思い知っている。
操女の追撃が無いことへの呟きだ。
この体では首も動かせないが、――おそらく操女がいるであろう方向に首を動かす筋肉がないからであろう――音が聞こえた。
いや、声だ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■―――!!!」
既に声と言われなければ分からない程の騒音だけど。
いくら傷が深くても、回復が遅い状態の僕でも3分もあれば全回復する。
立ち上がり、そして、操女の方を見る。
いや、多分アレは操女と呼んで欲しくはないだろう。
アレの頭には角がある。
真紅の瞳はさらに紅みを増している。
銀色の髪はもう輝いていると言っていい。
日本舞踏に使うような着物を着ている。
そして、
胸を刀で突き刺してグチャグチャとかき回していた。
そして刀を引き抜く。
ザクッ、グチャグチャ、
「■■■■■■■■―――――――――!」とまた叫ぶ。
それをさっきからずっと繰り返している。
何やってるんだ、とは思わない。見た瞬間に分かったからだ。
自分を殺して殺人衝動を誤魔化している。
そうでもしないと僕を殺してしまうからだろう。そう、強制的に分からせる。
分からせられたので、
ドガッ、
全力で背後からドロップキックをかましといた。
文句あるヤツは黙っててね。後で相手するから。
「!?」
1m程転がって止まる。
ちなみに、刀は手から離れると、バラバラになって消えた。
「……………??????」
殺意よりもドロップキックに対する疑問が一時的に上回ったらしい。正気に戻ったようだ。ラッキー。
よく見ると、操女の傷がもう全回復していて、瞳は黒色に戻り、角も消えている。ふう、良かった良かった。
「操女」僕は操女に話しかける。
「ラル…?」
瞳がまた真紅になり始めたので、即座に右手で両目を覆う。昔はよくこの手法でよくこれで操女の暴走を止めたなぁ。
今は僕がいない時、どうやって止めてるんだろう。
「今から言いたいことだけ言わせてもらうぞ」
僕はそのまま言う。……よく考えたら僕が言いたいことを言ってないことなんてないような気がしたが無視。
「…………」操女はコクンと頷いた。
よし。
「操女、僕を殺せ」
☆ 尾崎家の隠れ家 PM 4:33
『操女、僕を殺せ』
「何を言ってんだ、あのバカ!!」
オレ、――尾崎蓮はスピーカーから聞こえてきた小学生の頃からの幼馴染の声に全力で突っ込んだ。
ここは名古屋のとあるビルの12階の一室。
そこらへんに機械のコードが散らばっている。
オレ以外には誰もいない。
しかし、まあ、本当に僻実は馬鹿なんじゃないだろうか?
確かにそっち方面でもオレ達の計画は頓挫することは無いが、それだと僻実の死ぬ確率は5倍くらいに跳ね上がるくらい分かってるだろうに。
……操女の殺意を封じるためなんだろうけど、どうせ。
格好つけ過ぎだろ。
まあ、アイツが死なないように、操女かアオのツテで大山君に依頼しておくか、一応オレも能力所有者って分かってくれるだろう。
メール、送信っと。
☆ 掲示板の話
『電子病』:オラ、馬鹿共。講義の時間だ。
『電子病』以外:お世話になりましたm(― ―)m
『電子病』:すみませんでした!!! 聞いてください! お願いします! m(― ―)m
『電子病』以外:チッ、メンド臭ぇヤツだな。仕方ねぇ聞いてやるよ。
『電子病』:どんだけ息ピッタリなんだよ! ……。ありがとうございます。……ん? 何か変じゃね? おれ謝る必要ないよね?
『極悪天使』:チッ、気付きやがったか。
『盗賊停滞』:この生意気なKYが。ぺっ、反吐がでるぜ。
『狂癪』:一度死んでみたら?
『暴言世界』:ゴキブリでも食ってろカス。
『電子病』:よし、いい態度だテメェら。『電子病』発動。
『電子病』以外:うぎゃああああああああああああああああ――――――。
『電子病』:さらば馬鹿共。安らかに眠れ。
…………。
『極楽天使』:おはよう皆!全時空スーパーアイドルのナルーダムだよ!
『法典』:何か変な風に能力名くっつけたせいでナルシストっぽいよ。というか小学生なのになんでここまでハッちゃけてるの?
『電子病』:いや、というか何で平気な顔して生きてるんだ?朝起きたら枕下に千億円あったんだが。
『高速停滞』:サンタさんかな?
『電子病』:ねぇよ!
『黄金世界』:まあまあ、落ち着いて。どうでもいいじゃない、そんなこと。
『電子病』:そうかぁ!?
『法典』:そうですよ。だからさっさと無知な私たちに、能力について教えてください。
『電子病』:……はぁ。さて、馬鹿共。矛盾反応って知ってるか?
『黄金世界』:ジ、JISコード?
『電子病』:死ねば? 何で口頭でもねぇのに、その反応?
『法典』:で、何ですか、JISコード
『高速停滞』:JISで定められた文字コード。
『電子病』:死ね。
『黄金世界』:矛盾反応って何?
『高速停滞』:あっ、ボケパート終わり? 要は物を壊れなくする能力者と物を絶対に壊す能力者がぶつかり合った時に起きるってことじゃねぇの?
『法典』:時間を巻き戻す能力と時間を早送りする能力とでも起きるのかなぁ。
『電子病』:おお、理解速いじゃん。とりあえず矛盾反応においての理解はそれで間違いない。んで、実際何が起きるかっていうと5パターンだ。何だと思う?
『電子病』以外:残念な感じになる。
『電子病』:抽象的な解答が一度に返ってきた! 当たってるけどね! もっと具体的に言ってくれ! ……というか、知ってるじゃん。
『黄金世界』:他に何かあるんですか?
『極楽天使』:セカ○ンドインパクトが発生する。
『黄金天国』:エヴァネタ来た!
『電子病』:大爆発するって意味じゃ、あってるけどな。
『黄金世界』:そうなんですか? 他の4パターンは?
『極楽天使』:意志が強い方が優先されるってのもあれば~。片方が暴走するってのもあるニャ~。
『黄金世界』:ナルホド。後2パターンありますが?
『高速停滞』:両者が発情して二人共発動できなくなる。
『黄金世界』:下ネタ野郎は黙ってろ
『電子病』:ソレ本当。
『黄金世界』:えっ?
『法典』:私なったことあるから。マジ
『高速停滞』:さあ、這いつくばって謝るがよい(悦)
『黄金世界』:ぐっ……ごめんなさい……。
『高速停滞』:やっちゃってください、『電子病』さん。
『黄金世界』:すみませんでした!!!ついでに最後の一つを教えてください!
『電子病』:えぇ、メンドいなぁ~。
『極楽天使』:仕方ない~。ワシが教えてやろう~。
『黄金世界』:素晴らしい天使だ!この哀れな子羊に教えてくださいませ!
『極楽天使』:良かろう~。
『法典』:『極楽天使』って小学生じゃなかった?
『高速停滞』:さあ? つまり『黄金世界』は変態だってことだろう?
『極楽天使』両者の能力内容が入れ替わるのさ~。少しずつだけだけど~。
☆ 伏線回収
普通に考えたら、どんなに運動神経が優れていても、訓練受けた金持ちのボディガード数人や殺し慣れている能力者の殺人鬼に対し、回復力以上の能力が全く無い中学生が太刀打ちできる訳が無い。
絶対殺す能力『殺人鬼』
絶対不死能力『最弱不滅』
あの掲示板のことを思い出せば、2秒で僕と操女との間に矛盾反応が起き続けていることは分かる。
今も毒と呪いに体が蝕まれている訳だし。
大体、操女の毒によって実際5秒で4回死んでいるのだ。レンから聞いたが。
昔は電車に轢かれても1秒後に全く縮まず生き返ってたのだ。
操女に攻撃された日から5秒後に体が縮んで生き返るようになった訳で、
耳の鼓膜が数回は破れるような爆音でまた地面が削られる。
「おっと」
操女の攻撃を人間離れの速度と反応速度――と言っても操女の二兆分の一ぐらいだろうが、ギリギリで避けられるのも、操女が自分の胸に刀を刺してもすぐさま回復したのも矛盾反応のおかげである。
☆ 尾崎家の隠れ家 PM 4:35
「レン~、おっひさ~」
「うぉう!?」
モニターを眺めていたらいきなり後ろから声をかけられた。
しかも、この声は……。
後ろを振り返る。
ま、眩しい! 後光が見えるぞ!
「かっ、楽ちゃん!?」あっ、昔の口調でちゃん付けで呼んでしまった!
「アハハハ~。懐かしいな~。おっ、レン顔真っ赤~」
くっ、恥ずかし! 穴があったら入りてぇ!
「んで、アヤたんとヒガミンの調子はどうなの~?」
「ん。まあ順調だよ。一応計画通り進んでる。残り15人と40体の情報達が一気に半分に削れるよ」
「そ~、良かった良かった。おっ、ヒガミンもう小学1年生になってる~。カワイ~♡」
操女。今すぐ僻実を殺してしまえ。
☆ 封印された闘技場内 PM 4:35
「クッ」
ドグジャアアアアアアアアア!
操女の飛び蹴りが僕の首の右側を掠って地面に衝突し、……げ、赤く光ってるよ。暑いなぁと思ったのは幻覚じゃなかったのか。おのれ、勝手に地球温暖化に貢献しおって。
とか現在冗談考えてられるのもまあ現状に慣れてしまったからだろう。ちなみに今の僕は小学6年生の姿だ。さっきまで1年生だったが。
操女の動作が見えるようになった。
操女は無言で白銀の髪と紅色の瞳を僕の眼に映してから、――消える。
ザッ、僕は体を右に動かし、即座に――、
シュン、――元に戻す――、と同時に地面が激しくエグれる音。
「…………」
フェイクを混ぜながら操女の神速を避けることができる。自分がどんどん化け物になっていくようで少し悲しいが。
シュン、ズドオオオオオオン!
シュン、シュン、シュン、ドグジャアアアア、
ダンダンダンダンダン!
「くっ」
なんとか避けているが、操女のスピードが上がってきているし、攻撃のバリエーションもどんどん増えている。そのうち死ぬかも。
本格的に殺意発生の体内残響のよって能力の威力が上がってきているらしい。
まだだ。まだ足りない。
まあ足りないうちにこれくらいはやっておかないと。
シュン、
ドグシャ――――ン!
操女の体が背中から地面に叩き付けられた。
☆ 尾崎家の隠れ家 PM 4:36
「おお、すげーな僻実」今の技は、えっと、柔道の背負い投げだ。
「確かに~。流石幼馴染だけあって、アヤの攻撃に使うモーション読んで背負い投げとかありえませんな~」
まあ、確かに小学6年生まで殺されまくってたしな。オレの部下の能力に『必然破壊』が無かったら多分『最弱不滅』でも死んでただろうし。それだけ殺されりゃ操女の行動くらい読めるようになるか。
まあもうその部下も情報に殺されちまったけど。
来世でまた会おう。
とは言っても柔道やってたのは中学受験が始まる小学5年生の秋あたりだから、実質二年ブランク開いてるのになんであんな失敗したら即座に死ぬ技選んだんだ?」
っていうか、ドグジャーの中にボキッて背骨が折れる音が混ざってた気がするが。
「まあ、女の子には~、殴ったりできにゃいからじゃにゃい?」
いつの間にか猫耳と猫の尾を付けている。
カワイイ――――――――――――! ドスッ、バタッ。
体が動いたのを情け容赦なく股間に蹴りを入れられて悶絶しました。明日の朝には性別が女になってるかも。
☆ 大山の家 PM 4:30
「おっ、メールだ」
カチッ、オレ――大山優はメールを開く。
「あ~、ハイハイ全部知ってるよ」
とっくの昔に『侵入者』使ってレンが能力者であることや今月無さんと螺旋が戦ってるのくらい調べ終えている。
まあ、今さっきまで寝てたんでどういう風に螺旋と月無さんの闘いが続いてるのかは知らないけど。
暇だし見ておくか。
…………ん?
何でオレの貸しておいた道具を月無さんが持ってるんだ?
ここまで見てくださってありがとうございます




