第五章 最弱不滅 ぱあと1
お久しぶり……?
第五章 最弱不滅
☆ 3月28日
3月28日土曜日。
春休みの真っ最中。
厳密に言えば、中学校一年生の生活ではないのだが、やはり最も印象に残ったことといえばこれだろう。
はっきり言ってもう思い出したくもないが、中一を飾る最後の出来事というのならまあこれが相応しいのだろう。
さあ、物語を始めよう。
☆ バロー駐車場前 PM 1:02
平和だなあ。
何故か大山の家で情報残党と初対面した後から、コレといった特別大きな出来事は鳴りをひそめていった。
まあ、クラスメイトの僕への攻撃はだんだんエスカレートしていったが。
そこら辺は、僕の日頃の行いが悪いので仕方がない。
とか思いながら僕は例のごとく本屋、残洋堂書店へとあるいている。
もう残洋堂書店が見えるバローの駐車場の脇を通ったあたりで、
目の前に5,6人くらいの男達が集まってきていた。
しかも黒いスーツにサングラス。
どこかの映画にいかにも出てきそうなといった感じの。
「…………」
っていうか、アレ、尾崎家のボディガードじゃねぇ?
何でここにいるんだ?
尾崎家がいくら金持ちだからってそんな街中にわざわざボディガード達を配置したりするような余裕まであるのか?
いや、まあ、あるのは知ってるが、まずしないだろう。
あのジーさんすげぇ性格悪いし。あっ、ゴキぴーさんのことじゃないよ?
ということは多分レンの指示だ。
嫌な気配だ。
僕はそのまま歩き続ける。男達に気づいてないフリをしながら。
そして、
「螺旋、僻実さんですね?」と聞かれた。
「いえ、人違いです。僕は夜中勇人です」
今さっき考えついた偽名を澱みなく言う。
? この偽名、何故かすんなり自分に合うような気がする。
夜中は両親と兄の姓だからともかく勇人は全く分からない。
「えっ?」
「どういうことだ?」
「写真だと全く同一人物だが……」とか黒ずくめの男達が話し合いをしだす。
予想通りだ
「では急ぎますので」
僕は速やかにその場から離れようとする、が。
「待ってください」
呼び止められた。
チッ!
「1つ質問しますが、よろしいでしょうか……」
「……ええ、少しだけなら……」
がんばれ、僕! 本屋は目の前だ!
くっ、どんな質問が来るんだ!
「原作派ですか? アニメ派ですか?」
なーんだ。そんな質問か。僕は満面の笑みで、
「原作の方を心の底から愛しています」
「「「「目標発見」」」」」
「バレただと?」
そんな! 僕じゃなくてもこういう答え方をするヤツはいるはずだ。
それに、アニメの場合だと神作品が偶にあるんで、ぶっちゃけ作品によるから少し嘘っぽいんだけど!
僕は本屋とは逆方向へと走り出す。
「一緒に来て頂けませんか? 尾崎蓮様がお待ちです。」
「嫌だ! 僕は読書したいんだ!」
「では、拐かさして頂きます」
「通報してやる!」
「尾崎の財力でモミ消されるだけですよ」
ざっ!
囲まれた。ボディガードだけあって動きはプロのようである。
どの方向を見ても黒、黒、黒。全部で5人だ。
「こんな一中学生を攫うのにわざわざ御苦労なことだね」
「あなたの能力は警戒の対象にはいるので」
やっぱ知ってるのか。
となると……。
ダッ、5人の黒ずくめのうち1人が僕に向かって走ってくる。
「えい」
「?」
僕はポケットの中に入れておいた練り消しを小さく千切った玉を投げつける。
無視したら目に命中するように。
一瞬気を取られた瞬間に素早く男の懐に入り込み、
ゲシッ、
「ぴぎっ」男の変な悲鳴。
一撃で戦闘不能になり、男が倒れる。
男の大事なところを全力でアッパーカットしただけである。
「あっ、悪魔だ!」
知るか。
中一が大の大人に勝つにはこういう方法しかないんだよっ、と。
ヒュン、
倒れた男が来た方向の反対側からやってきたもう一人の男の裏拳が、さっきまであった僕の頭の位置を通り過ぎる。
ダンッ。
「ギュ……」
子作りに必要な所に肘鉄を決める。
これで二人消えた。
残りは三人だけだ。
「おい、お前行け!」
「ヤダ、男として死にたくない!」
「クソ! どんだけ実戦慣れしているんだ!」
慣れるまでどんだけ死んだと思ってやがる。
去勢なんか親に52回はやられているんだぞ。
さて、3人が慌てている間に逃げ出したいところだが、
「うわあああああああ!!!」
黒ずくめの男の中で若そうな男が一人だけ追い詰められたように僕に跳び蹴りかましてきた。
軌道がとても分かりやすかったのでさっと避け、僕の腰に巻かれたベルトをさっと抜いて、
バシィッ、
黒ずくめの顔面に叩き付けた。
サングラスはこの程度じゃ割れたりしないのは知っている。
目的はサングラスを男の顔面から弾き飛ばすこと。
今日は日差しが強いなぁ。
男の眼が太陽光線に直接当たり、閉じてしまう。
跳び蹴りを失敗すると、こうなる。
ダン、ベキッ、ズザサザザァー。
「ぐあああああああああ!!」
あっ、ヤバい。足折れたな。まあ、普通に正当防衛だし罪はないだろ。
「逃げるぞ!」
「おう!」
2人だけ逃げて行った。
薄情だなあ。倒れた3人を見捨てちゃって。
公衆電話で救急車呼ぶべきかと思ったが、確かレンの家には緊急救護班がいるからいいかと、結論付けたところで、
ガシッ
いきなり飛んできたスタンガンを右手で反射的にキャッチする。
「ふぅ、危ない、危ない」
油断したところでの背後からの不意打ちか。
「流石だな、僻実」
後方から昔から聞き慣れた男の声がする。
端正な顔立ち。長身痩躯。そしていつもと違う鋭い眼。
「レン……」
僕の幼馴染の尾崎蓮だった。
……さて殴り飛ばそう。
「ごめんな」
いきなりレンが謝ってきた。疑問を感じて腕が止まった直後、
バジィッ!!
僕の意識が遠くなる。
最後に見たのは、僕の右手に握られていたスタンガンが形状を大きく変化させて、先端部を僕の右手に接触させているのと一瞬で真っ黒に炭化した腕、レンの右手に握られているボタンがたくさんついたテレビのリモコンのようなものだった。
☆ ある屋敷の広間 PM 2:49
「レンコロスレンコロスレンコロスレンコロスレコロスコロスコロス殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺コロコロコロスコロ………………」
「怖いんでそろそろやめてくれない?」
「黙れ死ね。マジ死ね」
「…………」
現在尾崎家の邸宅の広間。
規模の大きい大学が4つまるまる敷地、豪華な庭園やら純金の像、膨大な量の国宝級のコレクションなど一般市民どころか大富豪すら相手にならないような金持ちの家。
それなのに日本でその存在を知っているのはほんのわずかだ。
昔は分からなかったというか、どうでもよかったが、多分何らかの能力が使われているのだろう。
そんな場所で僕は鎖でがんじがらめに拘束されている。
「レン、さっさと外せ。さもないと殺すぞ」
「それ多分クラスメイトに対する対応じゃないよ?」
「黙れ、監禁罪で罰されろ」
どうせ尾崎家の金で揉み消されるがな。
「まあ、ともかく、大事な用件があったから今ここに来てもらったんだけど……」
「来てもらったとか言うな。スタンガンで腕が1秒で炭化する程のスパーク起こして気絶させやがって。普通に用件言ってから連れてけよ」
『最弱不滅』が無かったら即死だったし、ムッチャクチャ痛かった。
「オレこの前股間を一瞬で蹴られたんだけど。本を読む邪魔をするな! って」
……そういえば、そんなこともしたかなぁ。
「んで? 用件は何だ? もしもつまらない用件だったら……」
「殺す?」
「いや、しない」
勘違いしてもらっては困る。
「ほっ」
「痛みの限界を超えた先にある快感を教えてやる」
「怖っ!」
ちなみに僕は知らない。念のため。
「そうだレン。楽についての情報を渡すからこの鎖を」
「内容は?」
「反応早いな! ……神山女子中のパンフレットにあった写真を……」
「もう持っている」
「何!?」
僕が見つけたのは本当に偶然だったというのに!!
「……じゃ、じゃあこの前僕に押し付けてきた楽のメイド服の写真を……」
「何でテメェだけもらってんだゴルァ!」
グシャッ!
……おっ、思考できるようになった。
「? レンはもらってないのか? 僕の友達にも渡してたのに」ダメ元で言ったのだが。
「どうしてだ……。楽ちゃ~ん。教えてくれ。オレに何が足りてないのかを」
ぶつぶつ独り言を言いだした。足りてないのは恥じらいですね、分かります。
そう言えば、楽は「レンにあげると耳が痛くなるので~、渡さないよ~」とか言ってた気がする。まあ、分からないでもない。
僕が言うのも変だけど、少し冷静になってから話せよ。
☆ 尾崎の屋敷の広間 PM 3:53
レンの独り言はその後1時間に渡った。
その間に僕はリビングの本棚から武者小路実篤の『友情・愛と死』を鎖で イモ虫状のなった体をなんとか駆使して読んだ。
友情って儚いなーとか浅い読み方しかしなかったけど。
普段は推理小説かラノベしか読まないし。
そして、
「あ、そろそろ時間だ。用件言う前に確認したいことがあるから手短に答えろ。」
自分で時間を潰しておいて何言っているんだ? このバカ。
「この拘束外してくれたらな」
ジャララララララ。
いきなり鎖による拘束が解けた。
何だ? いつもはもっとからかってから解くのに。
「操女に能力についての基本知識は聞かされているよな?」
「ああ、そうだけど……」
確認が取れると、レンは「よし」と呟いた。そして、
「『永続』」とレンが言った。
「は?」
「オレの能力名だ。その様子だとどんな能力かも知らないようだから、言うけれど完全記憶と来世への記憶の持ち越しだ」
「え?」
ちょっといきなり言われすぎて少し混乱してしまった。
要するに、レンは前世の記憶から今まで生きてきた13年間の記憶を全て保持しているということか?
「じゃ、じゃあ、何でお前成績そんなに良くないんだ?」
「授業中は寝てるし。数学とかには対応できないからな」
「は? 起きてたじゃん」
僕が見た時、レンがまともに授業を受けていなかった日は記憶にないのだが。ノートもちゃんと取ってたし。
「前々々々々々々々々世で身に付けた特技だけど。頭は眠っていても体が、この場合は目も勝手に動くんで重宝してる」
「羨ましいな、おい!」
学生生活でそこまで役に立つ能力はまずないぞ!
「まあ、それはともかく。オレは情報の連中と何度も関わった記憶がある」
「…………」
操女も知ってたようだし、まあ普通か。
でも記憶という言い方をしたってことはまだ尾崎家の子として生まれてからは会ったことがないということか。
「オレは操女から情報残党にお前が狙われているのを知った時、前世のコネクトを使って対策を練ったよ」
「……まさかお前が操女に人殺しをさせたんじゃないよな?」
そうだったら来世でまた会おう。まあ、そういうことするヤツじゃないのは知ってるけど。
「……操女の能力についてお前何も聞かされてないのか?」
嫌な予感をするセリフが来た。次またレイヤみたいなのとバトるの嫌なんだけど。やるけどね。
「僕は言いたくないって黙秘権を行使されたんだけど」
「ふーん。まあ、いっか。どうせ知ることだし」
ほっ。今回は軽い感じだ。
ただの怪力系能力で恥ずかしかったから秘密で、殺してしまったのは力抜いて戦ったら殺されるから全力出した結果、殺したのだ。
そうだと思いたい。
(そういうのはハズれると相場は決まってるんだけどね)
耳を削ぎ落とせば幻聴って聞こえなくなるだろうか。どうせ5秒後元通りだから無駄か。
『殺人鬼』、ねぇ。ロキの悪フザけでついた名前だといいんだけど。
「まあ、とりあえず、練った対策のうち一つは今ここで僻実があることを実行してもらうことにかかっている」
『最弱不滅』の能力と何か関係があるのだろうか。
やっと最近1日平均死亡回数が50を下回ったというのに。
「んで?何を僕にやって欲しいんだ? 500回まで死ぬのは許容範囲だけど」
あとは内容によって上下する。
「お前は『人を殺す』というのをどう考えている?」
「…………」いきなり哲学か。
「まあ場合によるけど、僕は悪いことだと……」」
と、そこまで言ったところで、
「そんな通り一遍の御託は聞いてないぞ。殺人者」
「ぐっ」
確かに8人殺したな。一気に。
「お前が本当に思ってること言えよ。たくさん本を読んだんだ。一つくらい意見があるだろう」
…………。
自分の意見かぁ……。
「人を殺す、なんてのはメンド臭い。それ以上でもそれ以下でもないよ」
いちいち気分悪くなったり、疲れたり、楽しいことが減ったり、葬式なり、遺族の言葉だったり、やってられるかそんなつまらないこと。そんなことやってる暇あったら本でも読め。以上」
「……そうか。お前らしい意見だよ。ナマケモノ」
レンは薄く笑って言う。
「そりゃ、どうも」言われても仕方あるまい。
「じゃ、」
レンは時計を見ながら告げる。
「時間だ。操女にそのつまらないことをやめさせてやれ」
直後、レンの屋敷の7割が殺された。
さあ、物語を始めよう。
まあ、ここまで読んでくれてありがとうございました。
できればこれからもよろしくお願いします




