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時刻みの仮装兵器〈トランスアーム〉  作者: カヤ
1章 小さな出会いと大きな決意 〈who is she?〉
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第六話 追憶のカケラ

--西暦2012年 某所--


とある山岳隊が森の中に奇妙な建造物の入り口を発見した。それは地中深くに埋もれているようで、入り口以外の人工物は見当たらなかった。慎重に奥に進んで行くと、石垣が積まれてあるのを確認。しかもその石垣はただの石ではなく、特殊な構造をしているようだった。


通路はさらに深部へと繋がっていた。


隊は元来の冒険魂に火が点き、臆することなく、歩を進めていった。石には見たことも聞いたこともない文字ようなものの羅列が続いていた。隊は底知れぬ闇へと向かっていき、数十分歩くと呆然と立ち尽くしてしまった。


そこに広がるのは横幅15メートルほど奥行きは暗闇で先が見えないほどの空間だった。辺りは、石垣の文字の窪みに発光苔が生息しているらしく、ぼんやりと仄かに光が明滅している。通路の両側に石柱が整然と立ち並んでいた。両側に2本。奥へとまるで誰かを導いているように平行に立っていた。


隊は促されるように前進。苔のおかげで視界は苦にならない。


一歩、一歩、一歩。


1ミリの狂いもなく揃えられた石畳に靴の乾いた音が響く。


カツン、カツン、カツン。


隊の1人がふと違和感を感じた。


自分達は一体全体どうしてここまで歩いているんだ?入り口付近で止めると言っていなかったか?

だが、そんな疑問もどこからか湧いた好奇心によって掻き消された。隊の1人は何事も無かったように歩いていた。


隊全体が麻酔を嗅がされたように、ふわふわとした雰囲気に包まれていた。いや、むしろどんよりとした甘ったるい空気であるが。


石柱を20本ほど越えたであろうか、直線状に並んでいた石柱がカーブし、それぞれの側の石柱と合流した。つまり環状、サークルを描きながら、石柱の通路は終わりを迎えたのだ。


環状に立ち並ぶ柱の森の中央には、石柱を横半分に断ったような形状をした台座があった。


それを隊全員で囲み、舐め回すように観察した。他の石とは少し違う、翡翠色の台座は見るものを魅了させた。


台座には石板が嵌め込まれ、取り外しが可能なようであった。石板は暗い黒深緑色で、心の深淵を表すような色合いだった。


隊長格の人が石板を台座から取り外し、凝視した。他の隊員も急かさんとばかりに近寄るが、隊長はそれを手で押し返す。


石板を胸の高さに上げ、朗読する態勢になる。石でできた板は相当な重量のはずだが隊長はそれを気にしている様子ではない。


石板にも周りの石と同じように不思議な象形文字が記されていた。文字一つ一つに魂が宿っている感じ。それが周りの石とは違う感じだった。読めるはずのない文字から意思が伝わってくるような感じだった。決して読めもしないのに。



はずだった。



脳が唐突に鮮明になり、意識が遥か彼方から舞い戻ってくるような錯覚を覚えた。ここはどこだ。いや、判る。遺跡の最深部だ。隊の仲間を引き連れてここまで足を踏み入れたのは朧気ながらも覚えている。


だが意志は?


記憶にない。


自分の心ないし脳から「行け」という命令を下した覚えはない。いやむしろ得体の知れない建造物だったから進むのはよそうと思ったのではないか?


振り返ってみると他の隊員も同じような困惑を抱えているようだった。しきりに辺りをきょろきょろと挙動不審に眺めている。


腕にずしりとした重みに自分が石板を持ったままだということを思い出し、石板をちらっと見る。


取り落としそうになった。、背筋に冷たい閃光が走り、総毛立った。山登りとは違った恐ろしさが肌を刺した。



読めるのだ。


石板の文字が。



意志の無かった頭でも石板の文字が読めなかったのは覚えている。日本語ではないのは明白で、この遺跡の風貌からこの文字が古代の文字であるのは容易に想像できる。ましてや自分は古代人ではないし、全言語を翻訳できる蒟蒻を食べていない。


隊員たちが、隊長の不審に気づき、同じように石板を覗く。すると隊員達も戦慄し、石板から半歩下がる。


これ以上ここにいるのは危険だと判断した隊長は速やかに撤収準備を始めた。石板をどうするか悩んだが、結局持ち帰ることにした。謎が多すぎる物なので専門家に訊くと何か情報が得られるかもしれないし、発見の報酬が得られるかもしれないと踏んだのだ。結局、物欲に目がくらんでしまったのだ。


素早く撤収準備をさせ、地上に戻るべく、元来た道を引き返す。


的確な判断だった。流石は隊長と言うべきか。あれ以上あの場にいると錯乱しかねなかった。他の事に集中させることである1つのことを忘れさせる、人間の心理を生かしたよい指示だった。


帰り道も一本道だった為、迷うことなく、難無く地上に戻ることができた。その時の安堵感は想像に難くない。


怪しい光を放っていた石板は今はなりを潜め、代わりに独特の光沢を太陽の反射により放っていた。





それから数日。石板を専門家に引き渡す際にその専門家も同じ体験をした。


読めるはずのない、古代文字が解読できる。うすら寒い何かを感じさせる現象に流石のプロフェッショナルと言えど、驚嘆の色を隠し通せなかった。どうやらこの石板に触れることと、解読できるようになることは相関しているらしい。


一体どのような原理でこの現象が起きているのか。驚きよりも元来の研究心の方が凌駕した。専門家は第一発見者に軽い礼だけで済ませ研究室に閉じ籠もってしまった。発見に対する謝礼金さえ出なかったことに不服と感じたはずだが、不思議とそんな気持ちは浮かんでこなかった。


これ以上あの不気味な代物を手元に置いておきたくない。


その思いが不服感を振り切って、渡したことで肩の荷が下りた気分だった。自分を引き摺っていた重いムードか取り払われ、鮮やかな青空に身が軽くなるのを感じた。


これからは何の気兼ねもなく毎日を過ごせる。ニュースにはなるだろうが、名前は伏せておいて欲しいと釘を刺しておいたので世に名が出回ることもなく、マスコミに追い回される必要もないだろう。懸念事もなくなり、今や一風変わった遺物を発見したしがない山岳家として心の隅に留まっているのみである。

だが甘かったのだ。


とどのつまり自分は運命という枠組みの中で神というプレイヤーに操作される一介の主人公だったのかもしれない。否、主人公ではない。これは事の発端に過ぎないのだ。世界という名のフィールドが音もなく崩れ去るラグナロク。世界の終末。終わり。終焉。



この世が、この世で無くなるのも知らずに――――――



遺跡が発見されて1ヶ月が経過した。世界的大発見として日本には世界中から考古学の権威らが多く来日した。それに伴い、遺跡を一目見ようと観光客が著しく増加し、ツアー旅行が組み込まれるようになった。


日本の遺跡ブームの到来である。


このブームに乗じ、各地の山野では調査隊ないし一般登山客で賑わった。山で賑わうというのは少し語弊があるかもしれないが、それほどまでに日本は空前の遺跡ブームとなったのだ。


さらに驚くべきことに、あちこちでこのような遺跡が発見されたのだ。今の今までどうして発見されなかったのかと疑うくらい、あっさりと。


発見が相次ぎ、さらに盛り上がりみせる日本。登山客の増加により登山グッズが飛ぶように売れ、各地で在庫切れが起こった。登山の時の為の水や食料(主に携帯食料)が店頭で姿を見かけなくなってしまった。


付け加えて登山時の激しい運動により、各地の運動不足が解消され、健康にも気を使う老若男女が増えていった。


日本は前代未聞の好景気となった。


あるかどうかも定かでない遺跡の発見を夢見、土地神話ならぬ山神話がプラスにもマイナスにも社会問題となっている現代。バブル崩壊の二の舞に陥らないよう政府は身を粉にして働いていた。



そして5月16日。メーデー。恐怖の1日が始まる。

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