第五話 世界の真実
暫くして。
呼吸も整い、辺りの景色を確認する余裕も出てきた。周りには広葉樹やらの木々で薄暗い。優輔達が寝転がっている場所はそんな森の中の少し開けた空間にある。そこに二人+一個。
いくら遺跡を出たといってもここはやはり魔獣が跋扈する危険地帯には変わりない。無防備な格好で寝転ぶのはあまりに危険なのだが、体がいうことを聞いてくれないのだ。優輔は疲れきっている体を起こした。
「周りを見てくるよ。鉄幹はもう少しここで休んでてくれ」
「おっけー」
寝転がったままの鉄幹は頼りなさそうに手を振った。
藪を分け入り、黒蛇を構えながら慎重に歩く。ガサガサと鳴る音がやかましい。魔獣の気配は感じない。とりあえずは大丈夫だろう。歩いて間もなく木々のジャングルを抜けた。太陽は西に落ちかけている。もう一時間もたてば暗くなるだろう。一日野営しなければいけないようだ。帰る日が一日遅れるがまあいいだろう。待っているやつがいるが致し方ない。多生の説教は食らう覚悟で臨もう。
ジャングルと言っても差し支えのない森を抜けたそこは断崖絶壁の上にあった。一歩でも踏み外せば命はないくらいに高い。高所恐怖症ではないが、少しは怖い。
眼下に広がる景色は一面緑だった。ずっと先まで緑がひしめき合い、時折見える丘のような小高い所は緑がない。木が生えていないのだ。空は夕日に照らされ、橙色をしていた。眼下の木々も夕日に照らされて、赤く染まっている。目に見える全てが緑や赤で染められている景色は壮観であった。
「………」
風が吹いた。五月の高尾山の風は少し、肌寒い。
緑の木々のジャングルを越えると木々が少なくなり平地が続いた。その平地の奥に灰色っぽい何かが目の視界いっぱい続いていた。それはずっと先まで続いている。目で追っても辿り着かない。夕暮れというのもあるが、奥まで目で追うと霞んで見える。緑の木々と比べても遥かに高い。ここからだと分かり難いが、少なく見積もっても十五メートルはある。かなりの高さだ。それが際限なく続いているものだから壮観である。筆舌に尽くしがたい。
あれは何なのか。
灰色みたいな色合いの壁とでも表現すればよいのか、少なくとも自然にできたものではない。
そう。
あれは、人間が身を寄り合って暮らしている砦。人間が作った安住の地。外界と断絶された、鳥籠。
優輔は目線を真下に下ろした。地面が遙か先に見える。といっても木で見えないのだが。
優輔はそこに長い棒が突き刺さっているのを見た。棒といってもここからでは小さく見える。実際の長さは相当なものだろう。よく見ればそのあたり一帯に沢山の棒が突き刺さっている。あれはどうみても鉄骨だ。
優輔は誘われるように上を見た。ここは山頂ではない。まだ上がある。そこには鉄塔が建っていた。所々錆びて、なおかつ草が絡みついている。その草の力に負けたのか、一部が捻れ曲がり、ひどい部分では鉄骨が無い。おそらく下に落ちていた鉄骨がそうだろう。
きちんと点検していればあんな酷い状態にはならない。なぜあそこまで放置されているのか。
否、できないのだ。
もうこの世界は、我々人間のものではないのだから。