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時刻みの仮装兵器〈トランスアーム〉  作者: カヤ
1章 小さな出会いと大きな決意 〈who is she?〉
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第十八話 東区大通り

あなたなら行列に並びますか?

--2212年 東京区 東区大通り--


そこは一言で表すなら喧騒、という言葉が体現されたような所だった。どこまでも青く、広大な蒼穹は無限に続いているのに対し、今ここにいる大地は混沌を極めている。決して狭くない大通りに人と人が混じり合い、様々な色を成している。


黒、茶、赤、緑、青、黄……


その他色だけでなく形も様々だ。背の高い者から低い者、痩せ気味の人から太っている人。多種多様な人種(勿論日本人)が一帯に密集し、そこら中をたむろしている。


バスを降りて暫く歩き、徐々に人が増え始め、大通りに辿り着いた途端に爆発的な光景が目に輝いた。


「わ……ひとがいっぱい…」


フィリアは目を爛々と輝かせ、渡り行く人々を物珍しそうに眺めた。辺りをキョロキョロと見回し、興奮を抑えきれないようでいた。


「ここが東京区随一の人が集まる場所、『東区大通り』だよ」


元来東区はその区の機能により人が集まりやすい構造にある。ここはその区の中でも中心に位置する大通りだ。数え切れないほどの店に囲まれ、多彩な品がそれぞれの店のショーウインドウ、陳列棚に並べられている。


「全く、ここはいつも通り騒がしいな…」


優輔は憂鬱そうに道行く人々を一瞥した。


「そんなことないよ、今日は週末だからね。いつもより人が多いんだよ」


「うげ…」


遥の説明を聞いて更に嫌な気分になった。どうしてこんな人が沢山いるところで女衆は平気でいられるのか。優輔にはその気持ちが理解出来なかった。


「よくこんな所で楽しめるよな、お前」


「お買い物に行くのは女の子には楽しいものなんだよ。ねー、フィリアちゃん?」


遥はフィリアに微笑みかけた。フィリアは疑問符を浮かべていたが、遥の笑みを見てにぱーと笑った。


「フィリアは単に物珍しいだけだろ…」


優輔ははあ、と溜め息をつき、呟いた。その嘆息もぼやきも喧騒に飲まれて掻き消えた。


一行は大通りを人の流れに任せながら歩いた。目的のスイーツ店とやらはこの通りを真っ直ぐ直進して三つ目の角を曲がった少し先にあるらしい。その店は最近流行りだしたらしくて遥が見せてくれた雑誌にも大きく紹介されていて人気店であることを如実に物語っていた。


「なあ、もしかするとかもだが、並んだりするのか?」


「そうだよ?」


「…どれくらい?」


遥は雑誌をパラパラとめくり、その店が紹介されていたページを凝視した。


「えーっと、これには『連日大賑わい!週末には三時間以上待たされる場合も多々あります。食べたいなら根気が必要だゾ♥』って書いてあるね」


「三時間以上!?」


たかがスイーツに三時間以上も待たされなければならないのか!?そんな馬鹿げた話があるのか。スイーツを食べるだけに何時間も待たされるのを良しとする精神が優輔には理解できなかった。


「やっぱり雑誌とか広告の効果ってスゴいよね。ちょっと紹介されただけで大人気店に成り上がるんだから、人間って単純だよね~」


その単純な策略にはまっているお前が言うことか、と思う。


「でもお前、いつもの店はどうした?いつもそこで買ってるだろ」


実際遥はこことは違う店でいつも買っている。優輔が奢らされるのもいつもその行きつけの店だ。


遥はちっちっち、解ってないなあ少年、とでも言いたげに、開いていた雑誌をパタンと閉じた。


「たまには違う店で買いたくなるものなのだよ。確かにあそこは美味しいけどずっと一緒ってのもアレでしょ」


「まあ……確かにそうか」


同じ味ばかり食べ続けると流石に飽きがくるというものだ。人間、常に新しい刺激を求めたがる。欲深なのだ、人間というものは。


三つ目の角を曲がった。そこは大きなアーケードが掲げられた大きな商店街だった。ショーウインドウに飾られたショルダーバックや靴、衣服などの店が両脇に立ち並び、行き交う人々の表情は豊かだ。多くのそれが笑い顔で歩いている。父と母と子供の家族連れや恋人と思わしきカップル、女子だけでワイワイ騒いでいる集団らがひしめいている。


その中を三人は歩いていった。三人は人でごった返している中で少し変わった存在だった。


カップルにしてはその間にいる子供が何者なのか判らず、家族にしては二人は若すぎる。どちらかの妹なのか問われるとそうだ、とも言い難い。二人ともその小さな子供に似ていないからだ。だが全くの他人が仲良く歩いている訳もない。つくづく不思議な一行だったが、三人はその周りの多少奇異な視線にこれっぽっちも気づかずに楽しそうに歩いていた。


少し歩くと集団の数は徐々に減り始めた。中心である大通りから遠ざかっているからだ。それでも人は大勢何処から湧き上がるように練り歩いている。そして商店街のある一角を優輔は見てしまった。


「な、なんだあれは!?」


ずらーっと並ぶ長蛇の列。一体どこまで続くのかと思われるほどの長い一本の行列。まさに人間で作られた蛇のようだった。


「さ、あれに並ぶよ!」


「あれに並ぶって、まさかあれが例のスイーツ店なのか!?」


遥はフィリアの手をぎゅっと握りながら早足で列の最後尾に並んだ。優輔もそれについて行き、景色の一部となった。更に蛇は、大きくなった。


「一体どこに店があるんだ?」


優輔は横にひょいと身を乗り出して確認しようとした。が、それでも店は見えなかった。更に横に出た。すると列の最前列が見えた。おそらくそこが例の店とやらなのだろう。


「あれ?まだ店開店してないのか?」


優輔は戻りながら呟いた。店は扉が閉まっていて、中へ人が入っていく様子は無い。


「うん、ここは11時開店なんだ。今10時50分だから、もうじき開くね」


「ていうことはここに並んでる人達はもっと早くから並んでるってことか…」


最前列で並んでる人なんか実際何時から並んでいるのだろうか。スイーツのために何時間も前から並ぶ神経が優輔には解らなかった。確かに美味しい食べ物を食べることは一種の娯楽だが、そこまでする価値があるのだろうか。結局は胃に入ってしまっておしまいのものでしかないのに。価値観の相違だろうが、やはり優輔にとっては相容れないものだった。


「こんな長い行列になるには何か理由があるんだろ?」


「そうだよ」


遥は手元の雑誌を捲り、店が紹介されたページを開けたまま優輔に見せてきた。その特集の大きく写し出されているケーキを遥は指差した。


「これ、このケーキ。これが店のナンバーワンメニュー、『小さな恋の唄』」


「仰々しい名前だな…しかも恋ってなあ…」


見た目は普通のショートケーキだ。スポンジケーキを白いホイップクリームと共に何層も積み重ね、その表面にも同じく塗りたくり、フルーツを乗せている。多少違うのはそのフルーツの種類がイチゴだけでなく、メロンやらバナナやら沢山乗っていることだ。その他は普通のケーキとなんら遜色ない。普通に美味しそうではあるが、大人気になるには少しインパクトが足りないような気がしてならない。


「しかしこれが長蛇を作るほどのケーキなのか?ちょっと拍子抜けだな…」


「ま、それはあたしもそう思うのよね。雑誌にも『味のほどは是非ご自身の足でお確かめ下さいませ!』って書いてあるし、無駄に名前も派手だし。それにこの名前のせいでちょっとした噂ができつつあるし」


「噂って?」


「そのケーキを食べると初恋が叶うっていうものだよ」


初恋限定なのか?と優輔は自分の心に突っ込みを入れた。どうしてもっとオールラウンドにならなかったんだろうか。


「なんかやらせ感が半端ないなあ…」


「まあそれはあたしも思うね。絶対客寄せ目当てだよ、しかも若い子向けの」


初恋っていうのならすごく若いときにあるようなイメージがある。初恋の相手は幼稚園の先生でした~というベタなシチュエーションが優輔の頭から離れない。どれだけ低年齢層向けに作ったケーキなんだろう。


「数量が限定されててね、一日に少ししか作らないんだよ」


「それでこんなに人がたかってくるのか…」


「日本人は期間限定とか数量限定とか○○限定っていう言葉に弱いからね」


確かにその期間にしか食べられなかったり、数量が限られたりしているとなんだかお得感がある。珍しいものを集めたがるコレクターや好事家のようなのようなものであろう。


「あっ、あいたようだよ」


フィリアの声で二人は思考から抜け出し、前方を見た。徐々にだが、少しずつ前に進んでいる。一歩一歩、確かに前進している。


その途中、その店の袋を抱えた人にすれ違った。目的の品を手に入れてご満悦な表情で大通りに向かって歩いていった。よく見れば優輔達の後ろには更に列が成されていた。こんなにも並んで買えるのだろうか、と少し不安に思った。


一歩、


一歩、


一歩、


亀の歩みと思われるほどにその一歩は鈍重だった。これでも結構なスピードで前に進んではいるのだがいかんせん列が長い。ケーキを選んで買うだけだからテーマパークのアトラクションみたくそれほど長い時間はかからないはずだ。



(一時間半経過)



(くそっ、テーマパークみたく長くはないと思った自分が腹立たしい…)


実際テーマパークと同じくらいまで並んでいた。優輔の顔には疲労がしっかりと現れていた。それは遥も同じで一時間前ほどの元気は既にどこかに消えてしまっていた。


「…大丈夫、フィリアちゃん?」


フィリアは明らかに疲れた様子でその場に座り込んでいる。先ほどまでの元気はどこへやら。遥が心配しても適当に相槌を打つだけだった。


とはいえ一時間半も待たされれば列は進むというものだ。もう店は目前にあり、三人は扉の目の前に立っていた。店構えはヨーロッパを真似て造られたのか白色の大理石のような光沢がある。太陽の光に照らされ、まばゆい輝きを放っている。東区にあるから日本家屋とは似つかわしくないこの建物も成立しているが、南区には到底浮いて見えるだろう。


「次の方、お入りください」


悶々としていると中から店員と思わしき人に声をかけられた。その声を合図に遥とフィリアは顔を上げ、そそくさと中に入っていった。優輔も遅れずについて行き、鈴付きのドアを開いた。からん。心地よい音色が耳の鼓膜を震わす。店内はまるでいつかの時代にタイムスリップしたかのような豪華な趣だった。天井には小さなシャンデリアが取り付けられ、橙色の電球がぼわっと灯っている。床は外と同じく白色のタイル詰めでよく清掃され、清潔感が漂っている。


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」


お決まりの文句を店員が口にする。満面の来客サービスの笑顔で迎え入れられると自然と自分も心が穏やかになる。それが接客マニュアルに沿った作り笑いだとしても、人は笑顔になれずにはいられない。


「えっと、『小さな恋の唄』を三人分お願いします」


遥が手で三本指を立て、ジェスチャーしながら対応する。こういう役回りは専ら遥の専門だ。人と接するように体ができていない優輔は端から眺めるだけだ。フィリアはあちらこちらをキョロキョロと忙しそうにしている。忙しないやつだ。


「申し訳ありませんっ」


唐突に遥に対応していた店員が頭を下げた。


「『小さな恋の唄』は大変人気商品でございまして、後二つで完売となります。二人分なら大丈夫なのですが、三人分となると…」


「えっ」


遥は驚いた様子で店員下げた頭を見下ろしていた。


無理もない。長時間並んでやっと買えたと思ったら、人数分不足。長い時間並んでそれは割に合わないだろうと思う。でもこれも人気商品だから、という理由で全てが片づいてしまう。仕方がない。後に続いている人は買えてさえいないのだからそれに比べれば幾分かマシというものだ。


遥は優輔の方をちらちらと伺っていた。どうしようか迷っているらしい。


(なんで迷う必要があるんだ…買えばいいじゃんか)


優輔は遥にサインを送った。サインを受け取り、遥は頷く。「じゃあ、二人分で」と店員に再び返す。「かしこまりました」と店員は奥へと指示し、例のショートケーキを箱に詰め始める。手慣れた手つきで箱を組み立て、保冷剤も忘れずに、最後に可愛らしい水色のハート型のシールを貼り付けて、遥に渡した。受け取った遥はそのまま下がり逆に優輔が財布をポケットから取り出して支払う。


(うっ、結構高いな…)


二人分のケーキにしては少しお高い値段だった。夏目漱石を財布から二枚抜いて、お釣りを返してもらう。「ありがとうございましたー」景気のいい挨拶が優輔の背中に投げかけられる。三人はその挨拶をバックに退出した。

行列が嫌いな私です。特に有名スイーツなどで並んでいるのを見るとなんでそんなもんのために並ぶんだろう……とか考えます。


まあ、人によりけりなんでしょうが。


どうも、行列に並ぶのが大嫌いなカヤです。


私は田舎に住んでいるため都会でよく見られるような行列をあまり目にした事はありません。


元々じっと並んで待つというのが苦手でして。何かしていないと気持ち悪いんです。


十八話です!


話題をいきなり逸らしました。こんな話聞いても面白くないだろうしね。


何だかゆるゆるがずっと続くよ……。この小説はこんなんじゃないのに……。もっと過酷な世界をイメージさせたいのになあ。やはりこれも小生の表現不足であると。納得。


不定期で投稿しますので適当にゆっくりしていってね!

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