第十六話 騒がしい朝
優輔はもうこういうキャラなのです(´・ω・`)
--2212年 東京区 優輔宅--
ひっそりと沈黙に沈む薄暗い廊下を歩く。床の隅っこは埃が積もり家主の性格が窺える。茶色いフローリングの床板は多少の年季が入っており生活感に溢れ、所々に染みが目立つ本来は白色だったはずの壁はこれまた生活感が覗ける。
フィリアは二階へと続く階段をゆっくりと登り始めた。
ぎし、ぎしと一歩上がるごとにその段の特有、音の違った軋む圧迫音が静寂に包まれた空間に振動を与える。音が軋む音を除いて一切ないこの空間では小さな音のはずの音さえ大音量のマイクのようにあちこちへと反響する。
階段脇に設えられた手すりを掴み、軋む階段を気にしつつも一歩一歩上がっていった。
その終わりはすぐに訪れ、階段を登りきった。フィリアは廊下をそのまま歩き、一番奥の部屋の扉をゆっくりと開く。
ぎぎぎ、と異質な音を発しながら扉は滑らかに開き、その音にビクつきながらフィリアは小さな隙間の分だけ開け、そこから優輔の部屋に侵入した。
その部屋は殺風景で基本的に目立つ物は置かれていない。意外と詰め込まれた本棚とタンス、後はベッドくらいだ。本棚の本には文庫本やハードカバーが主に詰め込まれ、後は漫画だ。比率でいえば文庫本:ハードカバー:漫画=2:1:2だ。タイトルは正直フィリアにはよくわからなかった。
ベッドではフィリアがマスターと慕う優輔が心地良さそうに眠っている。枕元には文庫本が優輔の手に収まって開かれたまま置かれている。眠る直前まで本を読んでいてそのまま寝落ちしたのかもしれない。
フィリアはニヤリと優輔を見てにやついた。今現在9時、言い訳をする口実はある。フィリアの幼心にそう思った。だって今日は楽しみに待っていたあの日なのだから。
「せーの…」
フィリアは優輔の眠っているベッドのそばに立ち、構え、ぼそっと呟いた。
「ジャーーーンプッ!」
フィリアは低くした態勢から膝をバネのように上下させ跳躍した。
優輔の真上へと。
「ぐぼお!!?」
ズボッと聞いてはいけないような音がフィリアの耳に届いたが全く気にしていなかった。それに引き換え優輔は苦しそうに体を九の字に曲げた。
フィリアは一度優輔にジャンプアタック(クリティカルヒット)した後、一度降りて今度は普通に揺らして起こした。
「ねーねーマスター、もうあさだよ。おきてよー」
フィリアはベッドをボスボス叩きながら同時に優輔の体も揺らした。優輔は苦しげに体を丸め、ぐふぅとか、げふぅとか唸っている。フィリアは全く悪く思っていないようで、むしろ早く起きてくれない優輔に対し少し不満そうに唇を尖らせる。
「はやくはやく、おきてよー」
「ごほ…ぅぐ…お、お前な…起こし方にもやり方ってもんがあるだろ…」
優輔は顔面を引きつらせながらフィリアを恨めしく睨む。確かに起こすのに攻撃フェイズまで展開しなくとも普通は起きるだろう。
「だってマスター、めざましなってたのにまたねちゃったんだもん」
「………」
そんな記憶は無いはずだが、そう言えば今までも遥が起こし来た時そんな事口走ってた気がする。俺ってそんなに寝覚め悪いのか……?
優輔は横腹をさすりながらベッドから這い出た。
「痛つ……全くそれならそうと違う方法で起こしてくれ。毎回そんなんじゃ体が保たん…」
フィリアは「はーい」と元気よく返事をして優輔の部屋から出て行った。ドタドタと階段を降りる音が遠ざかっていく。
「はあ…やけにあいつ盛り上がってるな…」
今日なんかあったけ?と思いながら廊下に出て階段を下る。ぎし、ぎしと一段ずつのっそりと歩き軋む音が鳴る。
「……………あ」
優輔は間抜けな声を出してその場に立ち尽くした。
(やべ…今日そういや遥と約束してたんだった…)
だからあんなにはしゃいでたのか、と優輔は妙に納得する。優輔は階段を降りきってリビングに通じる扉を開く。そこには机に座ってスタンバイOKなフィリアがいた。
「マスター、はやくごはんごはん!」
フォークとスプーンを両手に握って机をガンガン鳴らしているフィリアは、まるで遊園地を楽しみに待つ子供のように思え、少し微笑ましく思った。
フィリアが家に住み始めてまだ3日しか経っていないのに優輔は思いもよらないほどの充足感を感じていた。
なぜかは解らない。小さな妹のようなものが出来たからだろうか。少し違うような、そうでもないような、とにかく何か判断のつかない感情が優輔の心を稲妻の速さで占めていった。
ほんのり暖かくて、心に染み渡るような、優しさに満ちているような、何か。
「マスター」
フィリアはフォークとスプーンをチンチン鳴らし抗議している。
「はいはい解ったから、その鳴らすのやめろ。食事作法がなってない」
優輔はフィリアのフォークとスプーンを取り上げ食器棚に閉まった。フィリアが「ごはんはー?!」と不満の声をあげているが今日は時間があまりないのでトーストをするつもりだから食器類は皿だけでいい。
「今日はトーストにするからスプーンとフォークはいらん」
優輔は食パンを二枚袋から取り出してトースターに突っ込んだ。タイマーを設定し暫く待つ。その待ち時間の間にテレビのリモコンを操作しニュースを点ける。天気予報士のお姉さんが穏やかスマイルで今日の天気予報を発表している。
今日の東京区は全体的に晴れ間が広がり、穏やかな天候となるでしょう。日差しが少し強いので日焼け対策は忘れないようにしてください。
チン、とトースターを快活な音が響く。棚からサイズの合う皿を見繕い二枚取り出し、トーストを載せる。それをテーブルに持って行き、ついでに冷蔵庫からマーガリンを取り出す。マーガリンはフィリアに奪われトーストの表面を厚く塗りたくる。ちょっと塗りすぎじゃないかとも思うがまあいいだろう。塗り終わってフィリアにマーガリンを渡してもらい、優輔もトーストの表面に薄く塗りつける。
「いただきまーす!」
フィリアが小さな口を目一杯広げてトーストにかぶりつく。といっても元々小さな口なので大した量は食べれてない。それでもその小さな口で一生懸命食べる姿はとても微笑ましかった。優輔もトーストをかじる。さくさくしてて、何の変哲もない普通のトーストだ。
続いて週間天気ですが、ここ明後日以降は降ったりやんだりの弱い雨が続くでしょう。念のために傘を持って行くと良いでしょう。続いてニュースをーー
ボリボリとトーストをかじり、完食する。皿を流しに突っ込み冷蔵庫から牛乳を取り出し、パックから直接飲む。ごくごくと喉がうなり、潤う。フィリアも今トーストを食べ終えたところだ。
「マスターはやくいこ!」
「待て待て、俺はまだ着替えてないし、歯も磨いてない。身支度が整うまで待ってろ」
優輔はパック牛乳を冷蔵庫に戻し洗面所へと向かう。歯ブラシに歯磨き粉を付け口内をブラッシングする。それが終わると顔を洗い、二階へと足を運ぶ。自身の部屋で適当に服を選別し、持ち物を確認する。
(ま、財布さえありゃ十分だろ)
優輔は机に置いてあった端末をポケットにねじ込み、部屋を後にした。
「マスターはやくいこいこ!」
「はいはい解ったから、そう急かすな」
リビングのテレビとルームライトの電源を消灯し、他に忘れ物がないか確認した。既に玄関で靴を履いてスタンバイしていたフィリアは優輔の手を引っ張る。優輔は急いで靴を履き、開いているドアから外に出てドアを閉める。鍵をガチャガチャ掛けてきちんと締まったことを確認して、フィリアに促されるまま家を後にした。
「ほんとお前今日、ご機嫌だな」
「うん!だって…」
フィリアは屈託のない笑顔を優輔に向けて、優輔の腕に体ごと絡みついた。ますます子供っぽい。実際子供なのだが。
「きょうはハルカとマスターとおでかけだもん!」
旅行から帰ってきてすぐに、と思ったのですが結構疲れてまして速攻挙げれませんでした。; ;
十六話目です!
皆朝這いと思った?
そんな訳はありません!フィリアは精神年齢は小学校2年くらいですから。
え、思ってない?
だよねー(^-^;
ではではまた次作でっ