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流れ惚ける春の日?・・・《8:2》

 桜花びら舞い散る。


 春風の運んできた花弁の淡紅色の落とし物が鼻先をかすめる。またそれは髪に捉まって離れなかったりもする。



 咲き乱れる春。



 まるでキャンパスに描かれた空想上の桜並木をそのままここに再現したかのごとき見事なまでの桜木配置に、通学路はまさに春真っ盛り、薄紅色の始まりの季節を祝っている。



 少し勾配があり、足に掛かる負担が多少気になるが最早慣れたものだ。


学校指定の鞄はいまいち整理機能に乏しく、教材一式を詰め込むにあたわない。そのため、常に別の鞄を俺は持ち歩く。紐の長いビニールのスポーツバッグだ。しかしそれは野球部等が持つような重々しいものではなく、片手で担げる程の、体育用靴入れを少し大きくしたような感じの物だ。



 それにより少し異様な登校姿を公に呈す俺だが、近くを通る生徒諸君は俺を見ようとはしない。


 むしろ、避ける。


 目を逸らす。


 走って逃げる。



 前に述べたうちの三つ目が実際に経験した時、俺は正直言うところ、完全に落胆と自己嫌悪、不安、葛藤、その他もろもろの精神的参った状態たちに囲まれそのど真ん中にいた。



 誰にこの気持ちが分かるだろうか。



 こちらからすれば名も顔も、ましてや存在すら知らない連中から、明らかに避けられ、裏口を叩かれているのだ。



 そして今日、昨年度の三学期より急激に減ったそれらの赤の他人生徒がまた増加の一途を辿ることとなる。




 始業式だ。







「黒田ーっ!おはおは、よーうっ!!」


「やけにハイテンションだな小画山。また何かの即売会とやらがあったのか?」



「鋭い!鋭すぎるよ(アン)ちゃん!!」




 春休み明け、即ち新クラス発表の日。


 二年生最初の仕事は、自分のクラス部屋番号探しであった。


 体育館の入り口の前に壁一面を覆い尽くすほど大きな掲示板が貼られ、そこにクラス部屋番号が書き並べられていた。


 朝遅くに登校したため、かなりの熱気を見せた現場だったが、思いの外随分楽にチェックすることができた。


 そう、その場でも俺への敬遠現象が起きたのである。


 機嫌ベクトルは下向きに一直線、その距離、大きさをのばしていった。


 そして極め付けがこれである。



「おうおう!『HO・ヘドロキソ』っていうパソゲーの発売日だぜよ。そう、今日がな!これはな、発売半年前から絵士に藤井寺さんを起用したことにより話題となり、さらにその美麗CGは各メディアの度胆を抜く―」



 なんたらかんたら。



 この、延々と自分の世界に陶酔し続けている男とまた同じクラスになってしまったのだ。図らずも悶えそうだ。



二年普通科四組。それが新たな俺のクラスとなった。なんとも微妙だなオイ。


 教室は耳にうるさい奇声や大きな笑い声が満ちに満ち、落ち着きのひとかけらもない。しかしながら時計の針はすでにHR開始時間を過ぎていたわけで…



ガラガラ。



「はいっ、起立!」



 と、先生が来ることは目に見えていたのである。慌てて自分の席に走り戻る女生徒達を待って、先生に号令をかけるように合図をもらった最前列のとある生徒が礼の掛け声を掛ける。


 退屈の巣窟、始業式当日のホームルームの始まりである。

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