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早朝の教室の不思議空間?・・・《8:2》

自身の手をへばりつくように掴み放さないあまり大きくない白い手。


研ぎ澄まされた俺の野性の感は瞬時に手を引いて下がれと脳に告ぐ。脳はそれを指令と認じ体中に信号を出す。


伝令どおりに身を引いた体中から何かの強張りを感じ、ぶるりと小さく身震いする。


掴まれた温かい感触は今だに手に残り、しだいに寒々とした風に誘われ消えていった。


その手を延々と見続けた俺は数秒してやっと手を掴んできた彼の方へ顔を上げた。


まず目に飛び込んできたのは、黒い雨ガッパに漆黒のサングラスという不気味不可思議な様相。そして雨ガッパの下(だいたい膝辺りだろうか)からはみ出る形で地へのびる細々とした両足。


背丈が俺より一回り小さい、現代的な風式からすると『異様』(悪く言えばダサい)な服飾センスをした謎の人物だった。



「……はぁ?」



俺は異議を唱える。


自前のナルシスを発揮したわけじゃないが、前に言った彼の様相からして、彼はこの俺黒田晴人の極上の拳を片手で止められるほどのガタイではないのである。それに俺の鉄拳はこんな変態さんに止められる程安っぽくはない。よって、上告する。



「誰だお前?」



彼は答える気配もなく、変な格好の彼は静かに片手を上げ、ひょいひょいと頭の右斜め上方向でスナップ運動をした。


他の不良に逃げろとでも言っているようだった。


事実、まだ意識を保っていた負け組はノビてしまった勝ち組を背負ってすたこらさっさと逃げ帰ってしまった。



別に俺は奴らに用事があったわけではないので、横を過ぎ行くのも許して…無視してやる。



「もう一度聞くぞ。誰だお前?」



しーん…とした沈黙感。彼は黒く光る視線で俺を睨みつけたまま黙りきった。



「ちっ…しらけちまったよ」



延々と睨み合っていても仕方ないと思い、俺はただ静かに腰を下ろし近くに生えていた草に手を伸ばした。仕事はしっかりこないしておかないと。


が、俺が一株のタンポポの子葉を引き抜くと同時に彼が動いた。しゃがみこむ俺の背後に立ち、無言ですごみを効かす。振り向き見れば、笑わない唇に、案外綺麗な頬まわり。雨ガッパのせいで眉から上は隠れて見えないが、サングラスの下の(まなこ)はきっと俺を一直線に射ぬいている。



「黒田…」



初めて開いた口は、予想外に甲高く細い声だった。俺のこぶしをとめたほどの男なので、だいぶとの太い声を予想していた俺は少し不意を食らったような気分になった。



「なんだよ無視したり呼んだり…」



「覚悟」



覚悟とは。古来より使われる殺し文句の上等語。もしくは最近の若者に不足しがちな大人な理性表現の一つ。ただ一言、覚悟、で用いた場合、それはおそらく前者を差すわけで―



「んなっ!?」



手首をいきなり掴まれ、

「痛い!」

と思った次の瞬間には、俺は世界を逆さまに眺め、地に足を生やしてはいなかった。


手首をひねられただけで、俺の日本男子平均の体重を持つ体はくるりと回転し、投げられてしまったのだ。


り、理不尽な…っ!



などとまぁ、そんな悪態の感想を説く頃には俺の体は地面に打ち付けられ、節々からやんわりとした痛みが込み上げてきていたのである。

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