私は世界初の転移者
気づいたら真っ白な空間にふわふわ漂っていた。
目の前にいるのは性別不明の若い人。
「君の名前は?」
「新藤桜ですけど」
突然の問いかけに子どもの頃の感覚のまま素直に名前を告げれば、どこからかクラッカーがパァンと弾けた。
「おめでとう! 君はこの世界初の転移者だよ!」
何言ってるの?
口にはせず怪訝な表情をすれば、性別不明の人はハッとした顔になる。
「あ!僕はこの世界の管理者、名前はないよ」
「ないさん?」
「違う違う。名前は存在してないってこと。そうだ! せっかくだから君がつけてくれる?」
名前がないのはなんだかかわいそうな気がする。
「いいよ。でも、あなたって特徴がないからつけにくい……」
「僕の特徴と言ったら、とても仲良しの管理者がいることかな! いつも一緒にいたから、ニコイチって言われてたよ」
「……もっと他にないの?」
「ごめんね。制限があるみたいで今はこれくらいしか言えないんだ」
ニコイチ。二つで一つ。右手と左手みたいな?
「じゃあ、あなたはイトラ。その仲良しの管理者はトフレね」
どうせこの場かぎりの名前だろうし、テキトーに英語の右と左の文字を入れ替えたものを告げた。
「僕は今日からイトラ! 彼の名前はトフレ! 伝えておくね!」
満面の笑みを浮かべるイトラに少しだけ罪悪感を持つ。
もっとまじめに考えればよかったかな……?
「名前をつけてもらったことだし、本題に戻るね! 君にはこの世界を豊かにしてほしいんだ。そのために僕が持つすべてのスキルを君に与えたよ」
「イトラがやればいいんじゃないの?」
「僕たち管理者は地上に降りられないんだ。だから代わりにやってくれる人を選ぶんだよ」
「どうして私なの?」
「君を選んだ理由は三つあってね!
一つ目は僕との相性がいいってこと。相性がいいとスキルを与えやすいんだ。
二つ目は君が物を作ることが好きだから。世界を豊かにするには物を創造しなきゃいけないからね。
最後は君が異世界で暮らしたいって願ったからだよ!」
相性の良し悪しは置いとくとして。
たしかに物を作るのは好き。
母と一緒にパッチワークをやったり、父と一緒に犬小屋を作ったり、兄と一緒にプラモデルを作った。
クラフト系のゲームにのめり込んで、寝坊して学校に遅刻もした。
遅刻をしたときに学校のない世界に行きたいって願ったかもしれない。
それだけなんだけど……?
「ねえ、イトラ。もしかして家族には会えないの?」
「会えないよ」
きっぱりと言い切られて言葉を失った。
「もしかして、直前に交通事故に遭ったこと覚えてない?」
「え?」
「君たちは車に乗って出かけてて、交通事故に遭ったんだ。四人とも死ぬ予定だったから、死ぬ直前の君を連れてきたんだよ」
「どうしてお父さんとお母さんとお兄ちゃんは連れてこなかったの!? 連れてくれば助かったってことだよね!?」
するりと出た言葉を口にすれば、イトラは首を横に振った。
「彼らは地球で生まれ変わる予定が決まってるんだ。生まれ変わってやるべきことがあるというか……。とにかく、こちらの世界には連れてくることはできないんだよ」
家族が亡くなったことは悲しいし、二度と会えないと思うと苦しい。
でも、生まれ変わる予定が決まっているのはいいことかもしれない。
「じゃ、改めて!僕の持つスキルを全て君に与えたから、その力を使って世界を豊かにしてね!」
イトラはそう言うと、手を振った。
瞬きをしたら視界がパッと切り替わる。
先ほどまでとは違って青い空と草原、草の匂いとさわさと揺れる音。
こうしてのちに代行者と呼ばれる私は異世界に転移した。




