表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【奴隷君主】滅びた魔王を宿す者の崩壊路~世界は知らない、魔王は今もなお、少年の中で生きていることを。  作者: T.T
第一章 魂の世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/25

第六話 最凶

*< 三人称視点 >


 タッ タッ タッ。


 奈落の底、光の届かぬ広大な洞窟。

 そこは、凍えるような冷気と腐肉の臭いが立ち込める地獄の淵。

 魔王のたった一言。その傲慢な響きがこの場を支配した。


 ゆっくりと歩み寄るその真紅の瞳に映るは、およそ百体の魔族。

 B級魔族であるトロール三体を筆頭に、オーガ、魔狼、ゴブリンの群れ。

 彼らは本能的な恐怖で喉を鳴らした。

 たった一人の奴隷(魔王)に。


 ドッッッ!!


 爆音。

 踏み込みの一歩で、硬質の岩盤がクモの巣状に爆ぜた。

 その衝撃にミロクの体は耐えきれず、背骨はひび割れ、筋繊維はボロ雑巾のように千切れ飛ぶ。だが、肉体に宿る魔王の魂核が、崩壊する肉体を無理やり繋ぎ止め、弾丸の速度へと変換する。


 刹那、最前列のオーガは、恐怖を自覚する時間すら与えられなかった。


 ゴシャアッ!


 魔王の拳が分厚い胸板を捉える。衝撃波が背中まで突き抜け、オーガの巨躯は内側から風船のように破裂した。飛び散る鮮血と肉片が、背後の岩壁を無惨な朱に染め上げる。


 バキバキバキッ!!


 同時に、右腕も内側から砕け散った。

 オーガを粉砕した反動が、そのまま自身の肉を突き破る。白く鋭い骨が数本露出し、腕はあり得ない方向へ折れ曲がった。

 一撃ごとに自分自身が粉々になる苦悶。

 しかし――。


 シュゥゥゥゥ……ッ!!


 砕けた両腕から、熱い白煙が立ち上った。

 裂けた肉が、意思を持つ生き物のように蠢き、瞬時に癒着していく。

 飛び出した骨は、肉の奥へと引きずり込まれるように戻り、数瞬前よりもさらに硬く編み直された。

 

 十四に分かれた魔王の魂の一つ。その力は本来より弱まっているとはいえ、宿っているのは魔王そのもの。


【……ふん。壊れやすく、不潔な器だ】


 唇が、冷酷な弧を描く。

 魔王の魂は、目の前の魔族も、そしてこの忌々しい人間の肉体も、すべてを等しく破壊し尽くしたいという憤怒に燃えていた。


「グガァアアアアッ!!(食い殺してやる)」


 横合いから、死の恐怖を振り払おうと魔狼ヘルハウンドの群れが飛びかかってきた。 魔王は走りながら、左右から迫る二匹の頭を正確につかみ取った。


【我を睨むとは、おこがましい】


 ガボォッ!!


 自分の指の骨が砕ける感触。

 そのまま二匹の顔面同士を、正面から全力で激突させた。


 バギィィィィィィンッ!!


 頭蓋骨が粉々に砕け、中身が四方に飛び散った。  

 魔王は掌に残った肉の塊を、後続の群れに向けて砲弾のように投げつける。

 放たれた肉塊が、別の魔狼の胴体を容易く貫通し、そのまま後方の岩壁にめり込んだ。

 そこへ、遠距離から魔族たちの魂術が集中砲火となって降り注いだ。

 闇を照らす赤や紫の魂術の光。火球、雷撃、風刃。


【遅い】


 パッ、パッ……ドカンッ!!!!!


 光の隙間を縫うように跳躍。円の端にいた二体の顔面を掴み、そのまま岩盤へと埋め殺した。

 端から順に、ただ殴り殺していく。

 己を壊しながら殴り、壊れた側から治していく。

 「再生」と「破壊」の狂ったループ。


 あとは、ただの解体作業。 

 拳を振るうたびに、誰かの肋骨が砕け、誰かの肺が潰れる。

 同時に無数の魔族たちの記憶が流れ込んでくる。

 

【くだらんな】

 

 魔王は気にせず頭蓋を割り、脊椎を引き抜き、生きたままの魔族を文字通りの肉片へと変えていく。

 魂術は使わない。使えば一瞬で片が付いてしまうからだ。


 ベチャッ、ドチャッ、ゴキィッ!!


 絶え間なく続く破壊の連鎖、自分の骨が折れる感触。

 ドクドクと脈打つ人間の心臓。


「ガ、ガャアアアッ!?(お前、人間、チガッ)」


 逃げようとするオーガの群れに追いつき、その後頭部を無造作に掴む。

 そのまま、もう片方の手で、丸太のように太い腕の付け根を握りしめた。


 ブチィィィィィィッ!!


 生木をへし折るような音と共に、オーガの肩から腕をもぎ取った。

 魔王はその腕を、ただの棒切れのように振り回し、群がる魔族を次々と叩き潰していく。


【まだ怒りが収まらん。全員で掛かってこい】


 ダンッ!!!


 ゴシャッ! ギチギチッ! ブチッ!

「ギャァアアア!(やめっ)」

 ドガッ! バキッ! ボコォッ!

「ギギィッ……(助け……)」

 ベチャッ……。



 ……



 ぺちゃ、ぺちゃ。


 手の中でピクピクと震えていた魔狼の首が、無造作に放り捨てられた。

 洞窟内を支配していた喧騒は消え、残ったのは肉を焼く臭いと、重苦しい静寂だけだ。


 その沈黙を破ったのは、生き残った三体のトロールだった。

 B級魔族となるとそこら辺の魔族とは格が違う。

 高い知能、鋼の筋肉、魔族特有の自己再生能力は尋常ではなく、五秒もあれば完治する。

 その力がありながらトロールたちは、一歩も動けずにいた。

 目の前の光景が、彼らの高い知能に異常を告げていたからだ。

 足元に転がっているのは、さっきまで仲間だった魔族の残骸。

 そしてその中心に、血の海に立ち尽くす、一人の小さな人間。


「ガウガウガウ(人間、ではないようだな)」


 リーダー格のトロールが、濁った声を吐く。

 彼らは一列に並び、冷静に間合いを測った。油断はない。目の前の少年は、見た目こそ餌だが、中身は自分たちを遥かに凌駕する何かだと理解したからだ。


 タッ。


 魔王ミロクが軽く地面を蹴った。

 同時に、トロールたちの詠唱が重なる。


「ガァァァァーー」

「ガダガダ」


 一瞬だった。

 トロールが手にした巨大な棍棒が、瞬時に黒光りする鋼鉄へと変質する。

 さらに、ミロクが踏み込もうとした足元の岩盤が、ドロドロとした深い泥の沼へと姿を変えた。


「ガァァーーー(叩き潰してくれる)」


 ずぶっ、と足首まで飲み込まれ、体勢が崩れる。

 そこへ、重量を増した鋼鉄の棍棒が、空気を爆ぜさせながら横薙ぎに迫った。

 回避不能。魔王は右腕を突き出した。


 ガギィィィィィィィンッ!!


 肉が弾け、骨が粉々に砕ける快音。

 少年の細い腕は、鋼鉄の衝撃に耐えきれず、ひじから先が消し飛んだ。

 だが、瞳に宿る真紅の光は、一切の揺らぎもない。

 腕を失った反動を利用し、魔王は泥沼を強引に踏み抜いた。

 千切れる脚の筋肉、砕ける足首。魔王の魂が再生の速度を限界まで引き上げる。

 一歩踏み出すごとに肉が編み直され、泥から這い出たときには、失われた右腕もすでに半分以上が再生していた。


 ドゴォッ!!


 超低空からの回し蹴りが、棍棒を振ったトロールの膝を粉砕する。

 その隙を逃さず、残りの二体が魂術を畳み掛けた。

 一方が無数の岩の槍を頭上から降らせ、もう一方が魔王の背後の空間を爆裂させた。


 ドンッ、ドガガガガガガッ!!


 背中を焼かれ、胸を岩の槍が貫く。

 血飛沫が舞い、魔王の体はボロ雑巾のように宙を舞った。

 普通なら即死だ。だが、空中にあるその肉体からは、猛烈な勢いで白煙が噴き出している。


 シュゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 魔王は空中で自らに刺さった岩槍を力任せに引き抜くと、それを逆手に持って地上へ投げつけた。

 ドシュッ!と槍がトロールの足を縫い止める。

 着地する頃には背中の大火傷は消え、貫かれた胸の穴も肉の芽が蠢いて塞がっていた。

 着地と同時に、膝を折ったトロールの顔面に、再生したばかりの拳を叩き込む。


 ゴッシャァァァッ!!


 顔面が潰れるが、トロールは死なない。数秒後には陥没した顔が内側から盛り上がり、元の不細工な面構えに戻っていく。


「ガァーーー!!!!(無駄だぁーー!!!)」


 トロールたちは狂ったように攻撃を続けた。

 棍棒が魔王の脇腹を抉り、魂術がその皮膚を剥ぎ取る。

 魔王もまた、トロールの目玉を突き刺し、心臓を握りつぶし、首の骨をへし折る。


 ぐちゃ、ボキッ、ドロォ。

 

 終わりのない応酬。

 広大な洞窟内は、噴き出した血で湖のようになり、壁は肉片で塗り固められた。

 魔王は、飛びかかってきた一体の腕を掴み、そのまま背負い投げの要領で岩壁に叩きつける。


 ドゴォォォォォンッ!!


 岩壁が砕けた……と同時に笑いながら立ち上がった。

 どれだけ肉を削り、骨を砕いても、数秒後には元通り。


【……トロール如きにここまで時間が掛かるとはな】


 魔王は、滴り落ちる自分の血を払い、冷めた目で見据えた。

 いくら破壊しても、すぐさま形を戻す肉の塊。

 この「小さな人間の肉体が出せる力では、三体のトロールを同時に殺すには、あまりに効率が悪すぎる。

 

【そろそろ……終わりにしてやろう】


 魔王の唇から、低く、冷酷な声が漏れた。

 この不自由な肉体でこれ以上戯れるのも不快極まりない。

 魔王は右手をゆっくりと掲げた。

 

 その瞬間、洞窟内の空気が凍りついた。

 ズズズッ……と、重力が数倍に膨れ上がったかのような重圧。広大な岩盤が、未知の恐怖に耐えかねてミシミシと悲鳴を上げる。


 ……


 適性者アデプトは三つの系統に分かれる。

 攻撃系、防御系、支援系。

 系統ごとに使える魂術ソウルアーツが存在する。

 しかし、魂の形は人それぞれ。

 「その者にしか使えない術」もまた、存在する。

 

 それが……


 ……


 ゾワァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 空間そのものが恐怖に縮み上がるような、おぞましい振動。

 トロールたちの足が、意思に反してガクガクと震え始めた。

 動けば死ぬ。しかし、動かなくても死ぬ。

 彼らの野生の直感が、かつてない絶望を告げていた。

 選ぶのならば、せめて抗って死ぬのみ。


「グガァァーーーーーー!!!(殺せ!!)」「グガァァーーーーー!!!(殺せ!!)」「グガァァーーーーーー!!(殺せ!!)」


 恐怖を振り払うように、三体のトロールが一斉に咆哮を上げ、巨大な棍棒を魔王の頭上へと振り下ろす。

 その、刹那。


 パリンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 世界にヒビが入る音がした。


【我が名は ゼノン】


 バンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


【天を穿つそう、地を砕く牙、万物を灰塵に帰す絶望の翼。ことわりを喰らい、神を呪い、全ての光を飲み干す漆黒の竜よ。逃れられぬ終焉の路に、貴様らの魂を供物として捧げよ】


 ********

 

【”魂能ソウルオリジン”:竜葬冥壇ドラグレム


 ********


 ゾワッ!!


 トロールたちの背後。

 何もないはずの虚空から、三つの巨大な「漆黒の竜頭」が音もなくヌラリと現れた。


 ゴオォォォォォォォォォォォッ……!!!!!


 竜の顎が大きく開かれる。そこには、地獄の業火よりも禍々しい、紫黒色の炎が凝縮されていた。


「ガ、ア……ッ!?」


 振り下ろされるはずだった棍棒が、空中で止まる。

 振り向く暇さえ与えられない。


 ピンッ  ドッバァァァァァァァァァァァンッ!!!!!


 零距離。三つの竜頭から放たれた極大のブレスが、トロールたちの巨躯を丸ごと飲み込んだ。

 

 バチバチバチッ!! ジュゥゥゥゥゥッ!!


 鋼鉄の棍棒が蒸発し、鋼の筋肉が炭化し、強靭な骨が灰へと変わる。

 細胞の一つ一つ、魂の一欠けらまでを焼き尽くす圧倒的な破壊。


「ギ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


 トロールたちの絶叫は、一瞬で炎の爆音にかき消された。

 広大な洞窟が、紫黒の光に埋め尽くされる。

 

 ……やがて。


 嵐のような暴虐が過ぎ去り、光が収束していく。


 シーン……。


 あとに残ったのは、耳が痛くなるほどの静寂だけ。

 あれほどの巨体を誇っていたトロールたちは、肉片ひとつ残っていなかった。

 ただ、地面の岩盤に、彼らがそこにいたことを証明する「三つの黒い影」が、不気味に焼き付いているだけだ。


 その焦げ付いた影の中心。

 もうもうと立ち昇る熱気と白煙の中、魔王は一人、退屈そうに立ち尽くしていた。

 トロール三体の魂核が破壊され、光となって魔王の魂核に吸収される。


 ドクンッ。


 同時に、死んだ魔族たちの記憶が脳裏に逆流するが、全て無視した。

 魔王はふと顔を上げ、遥か頭上、分厚い岩盤のさらに上にあるはずの「魔王城」の方角へ視線を送った。

 

【さて、行くか】


 魔王は城に背を向け、ゆっくりと歩き出す。

 【十二個魂核】を求めて……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ