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【奴隷君主】滅びた魔王を宿す者の崩壊路~世界は知らない、魔王は今もなお、少年の中で生きていることを。  作者: T.T
第一章 魂の世界

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第二十一話 性に塗れたこの世界:裏切り者

*< 三人称視点 >


 同時期、魔王討伐が終わり三日目の夜。

 ミロクが魔王ゼノンと対話している裏側では、それぞれの欲が、静かに蠢き始めていた。


「ご主人様、お止め……ください……んっ」

「なんじゃ、まだ五時間もあるじゃろうが。焦ることはない、焦ることは」


 薄桃色の天蓋が垂れる大きな寝台の上。

 オルローは上機嫌で口の端を吊り上げながら、拘束した奴隷の白い顎を持ち上げた。今年で十八になったばかりの娘だ。こういう時のためだけに温存しておいた、とっておきの一人。魔王討伐という大仕事が終わった祝いとしては、申し分ない。

 脂の乗った指先が娘の頬を撫でようとした、その時だった。

 バンッと扉が、勢いよく開いた。

 書類を抱えた若い騎士が、鎧をがちゃつかせながら部屋に飛び込んでくる。


「なんじゃ、無粋な」


 オルローは顔も向けず、低く唸った。主人の寝室に断りなく踏み込む無礼を、今夜ばかりは目を瞑ってやる気にはなれなかった。


「も、申し訳ございません。緊急の報告が入りまして」


 騎士の声が、微かに震えている。

 オルローはようやく体を起こし、組んでいた足をゆっくりと床に下ろした。


「……申してみろ」

「は。生存確認がようやく終わりました。こちらがリストになります」


 オルローは手を返し、書類を受け取った。

 一度、性を抑え、冷静に一枚ずつリストを捲っていく。

 目的の人物はただ一人。


「何! S666番がいないだと!」


 番号が降順に並ぶリストの中に、その名前はなかった。


「はっはい。報告によれば戦場に死骸もなく、その者の最後を見た者もいないと。ですが、所詮は奴隷。それに非適性者ですので、特に気にすることではないかと」

「馬鹿もん!!!!!」


 オルローの怒声が、天幕の布を震わせた。

 手元のワイングラスが、騎士の足元めがけて投げつけられる。壁に激突したガラスが砕け散り、深紅の液体が石床に飛び散った。


「ひっ……!」


 寝台の上で拘束された娘が、短い悲鳴を上げる。

 大声を出したいのはこっちじゃ、とオルローは内心で毒づいた。


「ワシがどれだけあの者に費やしてやったと思っておる! 非適性者で十年間も戦果を上げ続け、生き延びてきた奴隷などあの者だけだ! 今すぐ捜索隊を出せ!」

「それは……難しゅうございます。今回の遠征で我々は多くの犠牲者を出しました。帰還途中の今、戦力をこれ以上割くことは」

「……確かにの」


 オルローは低く唸り、太い指で顎を撫でた。

 冷静に考えろ。感情で動いても何も変わらん。そう自分に言い聞かせる。


「では、S005番とS007番の容体はどうじゃ」

「重傷ですが、存命しております」

「よし。その二人の治療を最優先にせい。回復次第、すぐにS666番の捜索へ向かわせろ。期限は一年。その間に連れ帰ってこられなければ、お前らの首はないものと思え。とも伝えておけ」

「はっ、はい。かしこまりました」


 騎士が踵を返しかけた時、オルローが低く付け加えた。


「あーそれと」

「な、何か」

「S005番にはこう伝えておけ。”契約”は続いておる。今回の任務を完遂した暁には報酬は倍じゃ。早く連れ帰れば、その分さらに上乗せしてやると」

「か、かしこまりました」


 騎士の足音が遠ざかり、天幕に沈黙が戻る。

 オルローはため息を一つ吐いて、視線を寝台の上の娘へと戻した。

 拘束されたまま、震えながらこちらを見ている。


 イライラが収まらん。

 

「おい、お前」

「何でしょうか……ご主人様、今日は……触れるだけだと……」

「予定変更だ」


 ガシッ、と。

 抵抗する細い手首を掴み、冷たい銀の鎖を寝台の柱へと固定する。


「いや、いやぁ!どうしたのですか! 嫌!」


 オルローは服を乱暴に脱ぎ捨て、絶望に顔を歪める娘に馬乗りになった。

 恐怖によって硬直していくその肌。これこそが、オルロ―が最も好む美食の隠し味だった。


「何、ワシの子を孕ませようと思ってな~」

「……え? やめて……処女なんです。本当に嫌! 待っていてくれる人が……」

「処女だからこそ価値があるのではないか。安心せい、すぐにワシ以外の男など考えられぬ身体にしてやる。……今夜は、たっぷりとかわいがってあげるからのぉ」


 娘の必死の懇願を、嘲笑うような卑猥な声が遮る。

 暴力的なまでの巨躯が、華奢な少女を押し潰すように沈み込み、寝室に激しい音が響き始めた。


「嫌、そんな大きいの入らなっ……あ……っ!”オ”ッ」


*< S005番 イツキ視点 >


 数時間前まで重傷だったというのに、任務。全く笑えない話だ。

 暗い森の中。焚火もなく、湿った地面の臭いと夜鳥の声だけが漂っている。ナナはシートの上で小さな寝息を立てていた。

 イツキは音を立てないようにゆっくりと近づく。我慢してきた俺の欲が今にも爆発しそうだった。

 手が前に出たその瞬間、俺の興奮は静まる。ナナの唇が微かに動き、ある声が聞こえたからだ。

 ……ミロク、と。

 俺はどっしりと腰を下ろし、天を見上げる。


「クソッ。まさかあんなことになるとはな」


 漆黒の騎士。あの化け物が戦場に現れた瞬間、俺は反応すらできなかった。最悪だと思った時、霞む視界の端に——ミロクが落ちていく場面を捉えた。

 やっと、死んだ。そう俺は素直に喜んだ。これで邪魔者が消えたからだ。

 だが次の瞬間、俺の思考は完全に止まった。

 バンッ——!

 衝撃が空気ごと揺れた。ナナを中心に、桃色の魂力が渦巻いている。建物が一つ消し飛ぶような規模の、制御を失った魂力の奔流だ。地面が割れ、周囲の木々が根ごと浮き上がる。


「あなた、何しているの。私のミロクを……ミロクを……ミロクをミロクをミロクをミロクをっ!!!!返してーーーーーーーーーーーー!!!」


 ナナの絶叫が戦場に響き渡った。

 何だ、あの量の魂力は……。

 目に見えるほど膨大な魂力がナナの全身に纏わりついている。魂術によるものじゃない。支援系の魂術なら散々見てきた。だがあれは違う。あれは——魂能か?

 ナナに魂能があるなんて、知らなかった。一度も使っているところを見たことがなかったからだ。

 と言うことは‥‥今、使えるようになったのか。

 桃色の渦の中心で、ナナが騎士へと向かっていく。杖を構えたその姿は、俺の知っているナナではなかった。ふらふらしていて、おっちょこちょいで、いつも俺の後ろに隠れていたあいつが——今、A級以上の魔族と正面から向き合っている。

 騎士の拳がナナへ迫る。

 だがナナの放った支援魂術の壁がそれを弾いた。ナナの魂力がさらに膨れ上がるたびに術の精度と威力が跳ね上がり、騎士との間合いは一進一退のまま続いた。

 ほぼ互角だった。

 俺は岩壁に背中を預けたまま、ただその光景を見ていた。左半身の骨が折れていて、立ち上がろうとするたびに視界が白く飛ぶ。

 どれだけ時間が経っただろうか。

 ナナと魔族の戦闘が長く続く中‥‥。


「魔王が討たれたぞ! 勇者様が魔王を討伐された!!」


 戦場の外側から、伝令の声が通信宝玉を通じて響き渡った。通信宝玉を通じた拡声だろう。その一声で、戦場全体の空気が一変する。声が止み、金属の激突音が消え、異様な静寂が霧の中に広がっていった。

 ナナがその場に膝から崩れ落ちた。魂力切れだろう。全身から力が抜け、地面に倒れ込んでいく。このままでは騎士にやられる——そう思った瞬間、騎士が動きを止めた。

 ゆっくりと、剣が鞘へと収まる。ナナを一瞥し、それから何も言わず踵を返した。鎧の音が遠ざかり、霧の向こうへと消えていく。

 戦いが、終わった。俺もそこで意識を手放す。


 遠征前、俺はオルローと取引をしていた。

 内容はシンプルだ。ミロクの監視と、逃げ出した時に捕獲すること。対価は奴隷紋の解除と金貨。オルローにとってミロクは特別な商品だった。非適性者でありながら十年間稼ぎ続けた異常な奴隷を、逃げられる前に繋ぎ止めておきたかったらしい。俺はその鎖の役割を買って出た。

 ただし、俺自身の理由は別にある。


 ”ナナを俺の女にするためだ”。


 俺たち三人はずっと一緒だった。同じ主人の下で、同じ泥を啜り、同じ死地を潜り抜けてきた。

 その中でナナへの感情がいつの間にか積み重なって、気づいた時にはもう手がつけられなくなっていた。

 だが、ナナはミロクしか見ていない。

 俺がどれだけ傍にいても、背中を守っても、笑いかけても——ナナの目はいつもあいつへ向く。

 その事実が、十年分、腹の底に溜まっていた。


 だから、消そうと思った。それだけだ。

 

 魔王軍との遠征に乗じてミロクを死なせ、二百枚の金貨でナナと共に自由になる。オーガと出くわした際、ちょうどいいと思った。

 俺は魂術:誘導怨念ヘイト・アンカーをあえて解除し、ミロクに致命傷を負わせたのも、全部そのためだ。

 しかし——あの黒い騎士が、全部を狂わせた。


 目的を切り替える。

 魂能に目覚めたナナを力で制することはできない。

 ならば、精神的に壊す。

 このミロクを探す旅の中で、少しずつ俺へと心を向けさせる。

 そして最終的に見つけたミロクを——俺が始末する。

 ミロクは魂力を持たない非適性者。カスだ。

 ナナは無理でも、ミロクなら俺でも倒せる。

 いや、そもそもあいつが生きて帰れるはずがない。


 防御系の俺が一撃で廃人にされかけた、あの魔族の暴力。あんなものをまともに喰らって奈落へ落ちたんだ。五体満足で呼吸している姿など、想像する方が難しい。

 適当な村で体格の似た男でも殺せばいいだろう。死体を判別不能なほど丸焦げにして、「ミロクは死んでいた」と報告するだけ。

 ナナに見えない場所でな。

 

 チョロい任務だ。

 

「あぁ~」


 今考えるだけでもたまんねぇな。

 眠る間際まで「ミロク」と呟き続けるナナ。常日頃からミロクのことを愛している。

 その行き場を失った愛が、俺へと向いたら……。

 ……最高だ。


 何百回、何千回、飽きるまで。

 心が完全に壊れ、俺がいなければ呼吸すらできない人形になるまで。

 その細い手足も、白い肌も、デカいおっぱいも。

 腹の中に何人子供が出来ようと関係ない。


 ナナは――俺だけのものだ。

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