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【奴隷君主】滅びた魔王を宿す者の崩壊路~世界は知らない、魔王は今もなお、少年の中で生きていることを。  作者: T.T
第一章 魂の世界

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第十九話 嵐の前の静けさ:【リーファの胸を揉め】

「俺には大切な存在がいる。その者たちは殺せない。例え、あんたに殺されてもな」


 ナナとイツキ、そしてリーファ。本当に俺がここで死んだとしても、絶対に殺すわけにはいかない。

 沈黙が落ちた。

 今夜ここまでの問答で、こいつが静かになる時間は短かった。だから余計に、この間が気になった。試しているのか。それとも、この問いは想定外だったのか——俺には判断がつかなかった。


【……ふっ、いいだろう】


 予想より早く、答えが来た。さっきまでの、審問するような低さとは少しだけ質が違う。面倒くさそうで、しかしどこか機嫌が良さそうな、妙な声だった。


【それと、我が貴様の体を操っていた時も同様、殺さないと約束しよう】


 意外とあっさり済んだ。

 もしもこいつの殺したい者が俺の大切な人だった場合はどうするつもりなのかと思ったが——魂に嘘はつけないと言ったのはこいつ自身だ。少なくとも、三人は大丈夫だということだろう。今は、そう信じることにした。


「……分かった。条件を飲む」


 俺がそう返答すると玉座の俺は口角を少し上げ、深く座った。


【さて、話は済んだ。用があればまた呼ぶ】

「それについて何だが、今回みたいに急に引きずり込むのはやめてくれ」

【我に指図するなと言ったはずだ、人間。条件を付けくわえるのならば、話は別だがな】


 こういうのも条件になるのか。しかしこれは引けない。クエストの最中に意識を刈り取られでもしたら命取りになる。こいつは俺が死ぬことを面倒だと言っていた。だから死の瀬戸際で呼ばれることはないだろう。

 問題はリーファだ。

 俺が引きずり込まれている間に、彼女に危険が及んだら——。


「条件に加える。俺を魂核に呼ぶときは事前に、それも俺の了承を得てからにしてくれ」

【いいだろう。ならば、我からも一つだ】


 一体何を——と構えた、次の瞬間だった。


【一度でいい。”リーファとやらの両胸を十秒間揉め”。】

 

 ・・・えっ?


「あんた……もしかしてそういう趣味……」

【殺すぞ】


 今まで一番低い声。俺が死ぬのは面倒と言っておきながらこの発言には確かな殺意が込められていた。どっちなんだ。


【言っただろう。これは条件。貴様は何も考えず、ただ動けばいい。風呂を共にしたのだ。簡単であろう】

「いや、そう言われてもだな。俺は今彼女の信用を得ている段階であって……」

【拒否しても構わんぞ。また急に呼ぶかもしれんがな】

「くっ……」


 俺は返す言葉を失った。

 リーファの胸を揉む。それをすれば、今夜かろうじて繋いだ信用は一瞬で消し飛ぶ。彼女の蒼い瞳が凍りつく光景が、容易に想像できた。おそらく氷漬けになる。

 しかし——クエストの最中に意識を奪われる可能性は、それ以上にまずい。考えろ。他に手はないか。あるか。ない。

 俺は長考の末、口を開いた。


「分かった」


 と返答した。

 あんたが変態ということもな、と皮肉も込めながら。


【ならばさっさと出ていけ。目を二十秒ほど瞑れば現実に帰れるはずだ】


 そう言われたが、もう一つだけ聞かなければならないことに気づいた。


「あんたのことは何て呼べばいい?」

【好きにしろ。貴様が呼びたい名で呼ぶがいい】


 退屈そうに言い捨てた。名前などどうでもいい、とでも言いたげな口ぶりだ。

 俺は少しだけ考えた。今回の話でこいつの大元は掴めた。けれど、肝心な正体や過去も名前すら知らない。だから……。


「ゼロ……でいいか。短いし呼びやすい」

【……ゼロ】

「変なら別の名前を」

【構わん】


 玉座の俺の口元が、かすかに歪んだ。笑ったのか、それとも鼻で笑ったのか、この顔では判別がつかなかった。


 ……


 次に目を開いた時には、部屋の天井があった。

 木の梁。蝋燭は消えている。窓の隙間から夜の冷気が一筋だけ差し込んで、浮いた埃をぼんやりと光らせていた。背中にはベッドの感触がある。

 

 首を左に傾けた。リーファが、こちらに背を向けて寝ていた。銀髪が枕の上に広がり、規則正しい呼吸に合わせて細い肩がゆっくりと上下している。寝息は聞こえないほど静かで、起きているのか眠っているのか一瞬判断がつかないくらいだった。

 ベッドは一つ。肩と肩の間に、隙間がない。


 ……どういう経緯でこうなった。

 

 風呂場で意識を失った……それは覚えている。その間に何があったかは分からない。

 ”魂核の中にいる間も、現実の時間は流れていた”らしい。

 自分の体を確かめると、服が戻っていた。風呂に入る前に脱いだはずの黒い上下が、きちんと着せられている。誰かが着せてくれたということだ。

 候補は一人しかいない——いや、待て。

 一階に老婆がいた。リーファが呼びに行って、二人で運んで、老婆が着替えを——そういうことにしよう。それ以外の想像は今の俺には荷が重すぎる。既に頭が疲弊しきっている。これ以上は無理だ。

 明日の朝、礼を言う。それだけでいい。

 それから、もう一つ。

 信用を取り戻せたのかどうかを、聞けていない。

 風呂を一緒に、などと言い出したのはリーファの方だった。試して、ある程度は納得してくれたはずだと思いたい。だが思いたいと実際がイコールかどうかは、こちらの願望だけでは決まらない。

 明日の朝の彼女の顔を見れば、大体は分かるだろう。それまで余計なことは考えない。

 天井を見上げたまま、一度だけ深く息を吐いた。


 今日だけで何があった。

 奈落から目覚め、レグナートと再会し、リーファを出会い、装備を揃え、ギルドに登録し、ゼロと取引した。半日も動いていないはずなのに、精神がびっくりするほど消耗している。

 骨の芯まで疲れた、という感覚がこれだと、久しぶりに思い出した。

 

 そこで、ふと気づいた。


「本当に人間じゃなかったのか」


 昼間は人間と変わらない丸みを帯びていた耳が、意識の途切れた今は隠しようもなく本来の形を取り戻している。枕の上に広がる銀髪の隙間から、白い肌の上をすっと伸びる、細く鋭い耳の先端。レグナートが言っていた通りだ。眠れば意識が緩んで、隠せなくなる、と。

 改めて見ると、確かに人間ではなかった。

 だがそれだけで、何かが変わるわけでもない。

 A級の魔族であろうと俺は彼女を仲間として迎え入れた。

 彼女の方が強いだろうが、強さは関係ない。俺は彼女を守ると決めた。

 自由を手に入れるために……俺はこれからも動くだけだ。


 ……”一度でいい。リーファとやらの両胸を十秒間揉め”……。


 ゼロの声が、暗闇の中でくっきりと蘇った。


「はぁ~」


 隣でリーファが小さく寝返りを打った。銀髪が揺れ、尖った耳の先端が枕の端からはみ出す。その無防備な寝顔に、俺は一秒だけ目を向けてから、強制的に天井へ視線を戻した。


 ……明日のクエストが、遠い。


……

こんにちは、T.Tです。

ゼノン……今日から「ゼロ」と呼ぶべき魔王ですが、決して胸フェチというわけではありません!

胸フェチは作者……ごほん。とにかく、ちゃんとした意図があってミロクに命令をしています。

巨乳が大好きだぁー!!!

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