第六章 3
「もしかしたら……記憶喪失で、本当はアルメニアから来たんじゃないのか?」と、ジャックが言った。
「いや……それは違うと思う」と、俺は首を振る。
「ジャックたちは見ていないけど……レイドには、別の体の状態がある」
「別の体?」と、ジャックが聞き返す。
「ああ。あれは霊的な状態らしい」
俺は言葉を選びながら続けた。
「正直に言うと……失礼かもしれないが、その内容は、とても普通の人間には見えなかった」
「へえ……そうなのか」と、ジャックは少しだけ目を見開いた。
けれど、重くなりかけた空気を、リーフがあっさりと断ち切った。
「でも、だからって……別に何も問題ないんじゃない?」
「ああ」と、俺もすぐに頷く。
「何も問題はない」
「そうだな」と、ジャックも笑って肩をすくめた。
「問題なし、だ」
そのやり取りを聞いて、レイドは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたあと、静かに微笑んだ。
「……ありがとう」
そして、少しだけ前に出て言う。
「じゃあ、行こうか。私の体のどこかに触れていれば……一緒に移動できる」
俺たちは顔を見合わせたあと、覚悟を決めるように、それぞれレイドの方へと近づいた。
「えっ……これでいいの?」
リーフは少し不安げに、レイドの肩に手を触れた。
「うん、そんな感じで大丈夫」と、レイドは優しく答えた。
「じゃあ……」
ケンとジャックも、同じようにレイドの肩に手を置く。
「しっかり掴まっててね」
レイドは目を閉じ、深く集中している様子だった。
その瞬間、周囲の風景が揺らぎだす。
ざわめくような空気の波が過ぎ去ると、目の前にはまったく別の景色が広がっていた。
「ここが、私の家だよ」
レイドは微笑む。
中に入ると、簡素ではあるが整えられた住居。
広々としてはいるが、窓は一切なく、外の光は入ってこなかった。
物は必要最低限だけで、どこか落ち着く空間だった。




