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僕と死際


 母と僕が病室に戻ると僕の父と一つ歳上の従姉が来ていた。祖父の手を握り締めて作ったような無表情をしていた。退屈なのだろう。僕も同じだからよくわかる。

 この空間は退屈だ。それは母と母の姉が時間が停まって欲しいと考えているからだろう。だがわかっている。時間がゆっくり流れるならば祖父の苦しみは増すのだ。

 そうして。

 一人用の小さなベッドを五人の人間に囲まれて、

 二本しかない手を十本の手に包まれて、

 祖父は呼吸をやめた。

 僕は本当に祖父は呼吸をやめただけだと思ったが一度まばたきしたあとに広がった光景は違っていた。

 悪戯でする死んだふりのようなあっさりと、


 しかしたしかに祖父は死んでいた。


 誰かが医師を呼んだ。母ではなかった。たしか母は額を僕の胸に押し付けていた。

 従姉ではなかったと思う。従姉は無表情を崩さないままずっと祖父の手を離さなかった。丁度僕の真向かいに座っていたから従姉の様子はよく見えていた。

 となるときっと父か母の姉かなと思い当たるが、だからどうしたのだろうか? 祖父の死亡を確認した時刻がいつだったかとか脈打つのを止めた祖父が正視できなかったなんてことは些細なことのはずだ。

 僕には明日の大学をどうするかのほうが大事なはずだった。僕は自分をそういう人間だと思っていた。

 だけど心のどこかで決めていた。

 大学は休もう。

 入学したてで重要な説明会だかなんだかがあるはずだが知ったことではない。

 ただなんとなくそう思った。


 病院を出て祖父のいた家で少し腰を落ち着ける。スーツから普段着に着替える。

 母達が慌ただしく動く中で僕と従姉は何かに置き去りにされたような喪失感を抱えていた。余り物同士が引っ付くように僕と姉はどちらからともなく話始めた。歳が近いことも手伝ってかいくらかの時間を潰せるだけの話題はあった。ただどれも空虚だった。あとで振り返ってみれば僕はきっと従姉との会話のどれ一つとして覚えてはいないだろう。

 ただ従姉の声は少し高かった。

 きっと僕の声も少し高かった。


 いくらかの話題がある、といってもやはり限りがあり僕も従姉も話疲れてしまった。

 僕は座布団を敷いて少しだけのつもりで眠った。夢は見なかった。見ていたら何の夢を見ていただろう。

 祖父の夢?

 従姉の夢?

 大学の夢?

 どれも違う気がする。電灯の明かりが瞼を浅く貫いて僕は目を覚ます。




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