第7章:帝国の光と影
王都の空に、数えきれないほどの光の柱が立ち昇っていた。勝利の祝砲だ。歓声が地響きのように街を揺らし、人々は我先にと通りに出て、俺とリアンの乗る凱旋車に花を投げつけた。色とりどりの紙吹雪が舞い、熱気に満ちた風が頬をかすめる。俺の隣で、リアンがその歓声に満面の笑みで応えていた。その顔は、これまで背負ってきた重圧から解き放たれ、ただただ輝いているように見えた。彼は手を上げ、人々がそれに応えて叫ぶ。
「リアン王子!」
「万歳!」
人々の心からの歓声を聞いた瞬間、長かった俺の復讐の旅は終わり、新たな旅路が始まったのだと、俺は直感した。俺の心は、長年の孤独から解放され、満ち足りた幸福感に包まれていた。
玉座の間には、銀河中の反連合勢力の代表者たちが集まっていた。彼らの視線が、一斉にリアンに注がれる。リアンは玉座からゆっくりと立ち上がり、静寂に満ちた広間にその声が響き渡った。
「銀河連合の圧政は、このアストラル・ノヴァだけにとどまらない。苦しむ人々の声は、銀河の隅々から我らのもとに届いている。今こそ、彼らを解放し、この銀河に真の平和をもたらすことこそが、我らの聖なる使命だ」
彼の声は、力強く、そして温かかった。その言葉は、集まった人々の心を揺さぶり、希望の光を灯した。俺は、その光景を誇らしげに見つめていた。故郷を失い、復讐に燃えていた俺が、今、リアンの隣で、新たな銀河の夜明けに立ち会っている。それは、俺が望んだことだ。
希望に満ちた眼差しが、リアンに向けられている。リアンは俺の方に振り返り、その美しい紫の瞳でまっすぐに俺を見つめた。
「アルク、君と共に、この銀河に真の平和を」
彼は迷いなく手を差し伸べ、俺もまた迷うことなく、その手を取った。その手には、かつて酒場で交わした時と同じ、純粋な熱が宿っていた。
「解放戦争」は驚くべき速さで銀河に広がっていった。《星詠みの杖》を掲げたリアンのカリスマは、抗うことのできない嵐となり、多くの星々を味方につけた。俺の艦隊は常にその先鋒となり、敵を粉砕していった。ボルガをはじめとする仲間たちも、リアンの理想に共感し、そのために力を尽くした。
しかし、勝利を重ねるにつれ、リアンの瞳にわずかな翳りが見え始めた。ある惑星の解放戦で、わずかな民間人の犠牲が出た。以前の彼なら、その犠牲を深く悼んだはずだ。だが、その時の彼は違った。
「今回の作戦は、無駄な犠牲が多かった。今後は、被害を最小限に抑えるため、より効率的な戦術を採るべきだ」
彼の声は、まるで感情を持たない機械のように淡々としていた。犠牲者への哀悼ではなく、単なる数値としての損失を憂いているようだった。俺は、その違和感から目をそらした。これはきっと、戦争を早く終わらせるための、彼の苦渋の決断なのだろうと。
だが、その小さな違和感は、確実に亀裂へと変わっていく。
ある日、コトハがブリッジの隅で俺に囁いた。
「なぁ、船長。最近の王子、なんか怖くないか?」
彼女は顔を上げず、俺の返事を待っている。
「帝国軍の捕虜の扱いのこと、うちは納得できない。捕虜は解放しないっていうの、あれ、王子の指示なんだろ?」
俺は胸が締め付けられるのを感じた。以前は、リアン自身が捕虜の尊厳を守るよう俺たちに働きかけていた。それが今では、労働力として利用され、反発する者は「再教育」という名目で姿を消している。
「大丈夫だ。きっと、これも一時的なものだ。彼を信じよう」
そう呟くたび、俺は自分が真実から逃げているような気がして、怖くなった。
静かに俺の隣に立つライカが、そっと書物を閉じた。
「アルク船長、リアン殿下は、我々が守るべき希望の光。ですが、その光が強くなりすぎて、周囲を焦がしてしまうのではないかと、私は危惧しております」
彼女の言葉は、まるで悲劇の序章を告げるようだった。
「船長、敵の増援です。殿下からは、『全戦力をもって殲滅せよ。捕虜は不要』とのご命令です」
エルフィの報告を聞き、ルナが不安そうに俺を見つめる。彼女の瞳は、かつての快活な輝きを失い、怯えの色を浮かべていた。
「……陛下は、この戦争を早く終わらせるために、心を鬼にしているだけでしょう?」
ルナが、不安そうに尋ねてくる。俺は何も答えることができなかった。この冷徹な命令を下す男は、本当に、俺が愛したあのリアンなのだろうか。
解放戦争の終結後、リアンはついに『神聖銀河帝国』の樹立を宣言し、自らが皇帝の座に就いた。多くの人々は、リアンが皇帝になることを歓迎し、祝福した。
だが、俺の心は、歓声とは裏腹に、静かに冷えていくのを感じていた。




