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片翼の悪魔  作者: 万里小路 信房


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第2章:復讐の海賊

 こうして、俺たちの復讐の旅が始まった。狙うのは、銀河連合の動脈――物資を運ぶ輸送船団だ。それは、故郷を失った俺たちの、ささやかな抵抗であり、復讐の狼煙だった。


「カモが見つかったよ」

 さっきまで、ヘッドフォンをして、エーテル振動を音に変換したものを聞きながら編み物をしていたコトハの声がブリッジに響く。彼女はエーテル観測長としての腕は超一流で、そのボサボサの髪と粗野な言葉遣いからは想像もつかないほど精密に、広大な宇宙から獲物のかすかな匂いを嗅ぎつける。


 編み物は古来より船乗りの暇つぶしの相棒だ。だが、以前、何の気なしに俺が発した言葉がブリッジの温度を下げたことがあった。

「コトハはなにを編んでいるんだ?」

「セーターだよ。船長にも編んでやろうか? 寸法を測らせてくれよ」

 コトハのその言葉で、ブリッジにいたみんなが固まり、温度が下がる。いたたまれなくなった俺はコトハに曖昧な返事をし、「副長、あとは頼む」と言って、船長席を上昇させて私室に戻った。それ以来、コトハの編み物についてはなにも言わないことにしている。


「連合の第302補給艦隊。護衛はコルベット2隻。大したことないね」

 彼女は再びヘッドフォンを耳に戻し、リズムを刻むように指を動かす。

「それよりさ、積荷に惑星ケルベロ産のワインがあるみたいなんだけど。船長、あれさ、どう思う?」

「また酒か……」

 俺が呆れたようにため息をつくと、彼女はそっぽを向いた。

「うるさいな。これは仕事の対価だよ」


「惑星ケルベロ産のワインは、エリダヌス条約で禁制品に指定されています」

 副長のエルフィが、手元のコンソールで冷静に情報を確認する。流れるような長い髪を揺らしながら、彼女は敵の戦力、航路、リスクとリターンを瞬時に計算し、最適な答えを導き出す。

「襲撃する場合、敵の護衛艦はルナの砲撃で無力化できます。問題は、積荷を 傷つけずに輸送艦を拿捕すること。少佐の出番ですね」


「ワイン! ワイン! ヒャッホー!」

 掌砲長のルナが、子供のようにはしゃいで照準器を覗き込む。短い髪を振り乱しながら、彼女は頬を紅潮させている。戦いは、彼女にとって獲物を狩るゲームであり、獲物がワインと聞けば、彼女のモチベーションは最高潮に達する。


「エルフィ、護衛艦のエンジンだけ正確にぶち抜くデータ、ちょうだい! 積荷に被害が出たら、あんたのせいだからね!」

「言われなくても。あなたの腕を信じていますから、ルナ」

 互いの言葉には、絶対的な信頼が滲み出ていた。


 通商破壊工作というのは、聞こえはいいが、要するに海賊行為だ。その先陣を切るのは、海兵隊を率いるヴェラ少佐。彼女は敵艦に乗り込むとき、手に持ったカトラスをくるりと回す。海兵隊の赤い軍服は彼女の手で海賊風に改造され、片目には眼帯をつけ、三角帽をかぶっている。まるでテーマパークのアトラクションの海賊船の船長みたいだった。


「はーい、海賊でーす。みなさーん、お騒ぎにならないでくださーい」。


 彼女の陽気な声が通信回線から聞こえてくる。

 ヴェラは元ルシタニア海兵隊の大尉だった。ルシタニア宇宙軍では艦艇乗り組みの海兵隊大尉キャプテンは、艦長キャプテンと紛らわしいため、慣例で少佐メイジャーと呼ばれている。もはや軍籍にないこの船では、階級で呼び合う者などいないが、彼女だけが唯一の例外で、みんなから少佐と呼ばれ続けている。

 エメラルドのような瞳を隠す眼帯は、朝のコーヒーカップ占いで左右どちらにするか決めるらしい。おかの連中の考えることは良くわからん。

 襲われた輸送船の中には彼女が海賊船「シマカゼ」の船長だと思いんでいる者もいて、彼女には服の赤と瞳の緑から「赤いエメラルド(カーマイン・エメラルド)」という二つ名がついている。


 「シマカゼ」は、連合の補給船を襲い、物資を奪い、そして破壊した。いつしか俺たちは、連合から「片翼の悪魔」と恐れられる宇宙海賊になっていた。

 ルシタニアの軍鑑旗は左右に並ぶ二枚の天使の翼だった。故郷を失った俺たちは、右の(というのは向かって左の)翼を塗りつぶし、片方の翼だけを旗にして掲げている。どうせ、俺たちの死に場所の目印にしかならないものだ。その片翼が「シマカゼ」の二つ名になった。


 海賊行為の合間には、幾度となく、銀河連合の正規軍と衝突した。そのたびに俺たちは「シマカゼ」の圧倒的な機動力を武器に、敵を翻弄した。


「船長、機関の出力、一時的に20%オーバーで安定させました」

 機関長のライカが、落ち着いた声で報告する。彼女はいつも書物を片手に、まるで物語を紡ぐように艦の状態を報告する。彼女の言葉を聞いていると、「シマカゼ」が本当に生きているかのように思えてくる。


「ですが、あまり無茶はさせないでくださいね。この子は繊細なのですから」。


 そう言って、彼女は書物のページをそっとめくる。ライカの言葉に、俺は静かに頷いた。この船は、俺たちの故郷であり、家族だった。俺たちは、この船と共に、生きている。

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