1-6 利用価値
――僧侶とは、面倒な拾い物をしてしまった。こいつの宗派次第ではやはり始末の選択肢を取るしかない。
「僧侶か……率直に問おう。宗派はどこだ」
「おっと、その口ぶりだとある程度知識はある感じか……」
魔に属する者にとって、僧侶とは基本的に天敵たり得る存在になりかねない。僧侶という名称は、いずれかの宗派に属する者の総称を指す。その中でも聖教派閥の輩であれば聖職者と呼ばれ、文字通り魔とは正反対の勢力に属する。
その辺を知っていてあえて僧侶というあやふやな言葉を使ったのだとすれば、生かしておくわけにはいかない。
「だとすれば、素直に喋る以外に道は無しか」
「正直に話せ。今なら例え聖職者だったとしても、楽に殺してやる慈悲くらいは持ち合わせている」
いざとなれば即座にそっ首を跳ね飛ばすつもりで、右手を巨大な爪に変形させる。しかし目の前の男はそれに怯える様子もなく、あっけらかんとした様子で答えを返す。
「いきり立っているところ水を差すようだが、俺は中庸、月の神ルーナスに仕える者だ」
「ルーナスだと……?」
月の神――夜に属する神の名を出したという事は、中庸で間違いないといっていいだろう。
「……いいだろう。一応は信じておいてやる」
殺さずにはいてやるが、まだ完全に信用はできない。それにこのまま帰すわけにもいかない。
考えを巡らせながら私が睨んでいると、その考えを察したのか、アビオスと名乗る男は大きなため息をつく。
「はぁーっ、一難去ってまた一難ってか……」
「何だその言葉は」
「月の神の教えの一つだ。人の生きる道は、常に苦難を抱えてるって意味でな」
そう言ってアビオスはゆっくりと立ち上がり、近くに転がっていた杖を手に取って、再び歩き出そうとする。
「どこに行くつもりだ」
「どこって、修行の旅の続きさ。俺に課されているのは、旅の先々にいる様々な人間の苦難を知ること。困難に立ち向かえる知恵を得ること、そして人々に授けることを目的としているのさ」
困難を助ける……? なるほど、良い案をひらめいた。
「そうか、ならば丁度いい」
聖教は論外、かといって邪教では私の疑いが晴れることはない。そしてもちろん、ここからまだ帰すわけにはいかない。
「ここに助けを必要としている人間がいますよ!」
それまでの威厳のある態度をあえて消し去り、私は子供らしい屈託のない満面の笑みでもって、両手を広げてアピールをする。
「ここにって……あんた魔族だろ?」
「旅の人間ならばここらで聞いたことがあるでしょう? 魔王と疑われている、哀れな第四王子がいるという噂を」
「あぁー、確かに酒場で有名な話を――って、まさか!?」
僧侶の癖に酒場に足を運ぶとは、この生臭僧侶め――と言いたいところだが、その様子だと察して貰えたようだ。
「そう、僕こそが第四王子、ネロ=ファルベ。魔王の転生体と疑われている、哀れな幼い王子様です」
「……マジですか……」
後は一日一回投稿です(´・ω・`)。一区切り分まで書き終わってますのでごゆるりと楽しんでいただければ幸いです。