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1ー2 予想外の好待遇

 草木も生えぬ不浄の地から少し離れた場所にある、荒れた岩山の陰にある洞窟。かつてのラインヴァントの土地には緑豊かな山も確かにあったはずだったが、それも今となってはこの様でしかなかった。


「――それで、この身がセフィードのものであると見抜いた訳だ」

「はい、そうなります! 我らが愛しき魔王様!」


 話を聞いたところでまだ現状の把握が追い付いていないのが本音であるが、少なくともこの者達が味方であることには間違いないと理解できた。

 そうでなければ中身が魔王である幼い子供を膝にのせて、あまつさえこちらがねだらずとも温かいスープを口まで運んでくれるなどということはしないだろう。


「……すまないが、見た目が子供とは言っても私は魔王だ。仮にそれを抜きにしても、この身は男に生まれ落ちてしまっている。このようなことは――」

「そのような事を言わないでください魔王様! これでも()()している方なんです!」

「我慢……?」


 一体何を? と聞いたところで良からぬ回答が返ってくるような気がしてならない。


「ともかく一旦この状況を確認しよう。まずここはラインヴァントでも数少ない魔力汚染の無い土地で、ここに住んでいるお前達はかつての城下の住民であった、と」


 確かにかつての私は多くの異民族を従えていた。それなりの規模の城下町も、魔王城近くに築き上げていた。その多くは人間の進軍が近づくにあたって防衛拠点の建築の為に解体され、散っていくこととなったが。


「はい! 魔王様は私達のような迫害の身でも分け隔てなく受け入れてくださいました!」

「受け入れた、というよりも拒絶する理由もなかったからな」


 当時の私が憎んでいたのは人間という種族だけ。ゴブリンだろうがトロールだろうが、人狼ワーウルフだろうがリザードマンだろうが、人間が言うところの亜人種族など私にとってはどうでもよかった。兵として駒となって動いてくれるのであれば、どんな種族であれ拒絶する理由はない。

 そして彼女達ダークエルフ族も、元は男女等しい人数が多くいたものだったが……あの戦いに勝ってさえいればという自責の念を、今更ながらに感じてしまう。

 肝心の人間を毛嫌いしていた理由についてだが……どうやら人間として生まれ変わった際には忘れてしまっているようだ。


 ――それでもあの長兄だけは殺す腹積もりを持っているが。


「それで何と言ったか、名前は――」

「ルスケアです!」


 元気に名前を口にする声は聞こえてくるが、肝心の顔をいまだにまともに見ることができていない。それもそのはずで、私を膝に乗せたこのダークエルフの女、頭上へと見上げれば視界は全て胸で埋め尽くされてしまう。というよりも、膝に乗っている私の頭に更に乳を乗っけている、といった表現が正しいのかもしれない。

 首にかかる負担を僅かに感じながら、私は膝からすっと立ち上がり、改めてルスケアと向き合うようにして座り込む。


「あぁっ……魔王様が離れちゃった」

「あの体勢でまともに目も合わせずに話ができる訳ないだろう」


 しかし皮肉な事かな、人間の身となってから改めて分かる、エルフ族の持つ美貌。先ほどの少女もそうだったが、成人となった姿もまた人間の感覚で言うところの美人という言葉が良くあてはまる。

 褐色の肌色とは対照的な白い髪。金にも例えられるような輝く瞳。そして大人である彼女達が少々露出的な服装をしているせいか、否応なしに目に入るのは艶やかな肌が作り出す豊満な胸、そして肉付きの良い太もも。

 それらの美貌と発育の良い肉体を持つ彼女達が友好的な態度でもって、私の姿を見る為に取り囲むように座っている。これがどういうことなのか、人間の男ならば本能で理解できるだろう。

 昔の魔族の私であれば特段の意識はしなかっただろうが、今はネロという人間の身に生まれ落ちたが為に反応してしまう部分が確かにある。とはいえ肉体的にはまだ七歳。明確になることはない。


「それでルスケアよ、この地で細々と生きてきたことは理解できたが、さっきの襲撃というのは一体どういうことだ?」

「それは……」


 ルスケアが言葉を濁らせていると、周りにいたエルフの一人が代わりに口を開いて答えを述べ始める。


「最近この辺りにダークエルフがいることを知ったのか、誘拐を目論む人攫いの集団が、ラインヴァントを徘徊しているようなのです」

「人攫い……なるほど」


 つまりあの荷馬車は近道予定ではなく、元々がここを通る予定だったという訳か。


「ルスケアの妹が連れ去られたと聞いて、先回りして馬車に襲撃をかけようと思っていたのです。グールも徘徊する中で、多少の遅れは予想していましたが――」

「まさかグールの集団に足を止められ、あまつさえ私が物色していたとは想定外だったと」

「まさか亡くなられたはずの魔王様が転生して、このような地に戻ってこられているとは思っておりませんでしたので……」

「そこについては誰も予想ができなかっただろう。無論、この私自身も含めて」


 今となってはだいぶ状況に慣れてきたが、それでも予想外に与えられた奇跡には変わりはない。

 人間の寿命など魔族だった時に比べればまどろみに過ぎないものだが、それでも人間として、もっと言うならこの国の第四王子として生まれ落ちたのであれば、その生を存分に謳歌させて貰おうと思っている。

 その上でいずれは何らかの野望は持つことになるだろう。そして魔王たる私は、野望を決して諦めるつもりはない。


「……ところで」

「はい?」

「今回のような襲撃は、今後も可能性があると見ていいのか?」

「今後もって……まさか、魔王様!?」


 ダークエルフを救う、などという大仰なことはするつもりはない。ただ、人身売買に関わる人間など、大抵が表舞台に立てるような人間ではない。


 ――ならば多少そのような人間を取って喰ったところで、誰がわざわざ気にかけるだろうか。


「お前達の身を守ることができ、かつ私自身にとっても新鮮な贄となる者が向こうから転がり込んでくる……これこそ一挙両得というものよ」

「さ、流石は魔王様!!」

「代わりといっては何だが、この身は人間の身ゆえ、少々不便が出てくる。その部分を――」

「衣食住ならお任せを! 私達が魔王様の世話をきっちりさせていただきます!」

「お、おう……任せたぞ」


 ――ここまで言っておいて何だが、肉食獣のようにも感じるギラついた視線が集まっている気がする。


「……少々不安になってきたな」

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