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0-1 王への第一歩

「――という訳だ」

「…………」

「どうした? 王族相手にあまりの立ち回りの良さに呆気にとられたか?」

「……アネラ劇場で何とかうちの坊ちゃんの魔王疑いは晴れたものの、現状は変わらずってところか」

「そうなるな」


 要約すれば言いたい放題言った結果現状維持という事ではないか。魔王の疑いは晴れても魔族関連の疑いはまだ残っている。角がある以上仕方ないとはいえ、まだまだミルベにこちらに対して探りを入れる大義名分を持たせたまま。


「とはいえ、一応の疑いは晴れたのだから問題ないだろう?」

「そうなるな。この私に正式に土地を開拓する権利が与えられたのだからな」

「…………」


 一件落着といった様子で、アビオスを含めたその場の全員が静かになる。確かに後はこの土地の本格的な開拓だが、これもまたやりようはいくらでもある。


「……今日はもう遅い時間だ。寝た方が良いだろう」

「そういえばそうだな。まさか夜遅くになってアネラが帰ってくるとは思いもしなかった」

「こんな危険な女の園に、旦那様一人で何日も置いておくわけにもいかないだろう?」


 いや、その件についてはアネラのいない間に既に何度かお手付きが入っているんだが……まあ、今は伏せておこう。トラブルのもとになりかねない。


「ふぁあ……ったく、ここ最近魔法陣の作成と対策を練るのに疲れたからな。おれは一足早く眠らせてもらうぜ」


 アビオスはそう言って背を向けて、さっさと寝床へと向かい始める。


「…………」


 何か様子がおかしい。まるで何かここで満足したような、個人的な達成感を得たかのような雰囲気だ。


「…………」

「フフ……では我が夫は私と一緒に初めての夜を過ごそうではないか」

「うん……ん!?」

「フフフ、案ずることはない。熟していない果実に手を出すほど、私は愚かではないさ」


 しかしその割には私を小脇に抱きかかえてアビオス以上に足早に寝床へと向かって行くところに不安しか覚えないのだが。不安しかないのだが!?



               ◆ ◆ ◆



「――ハッ、旅立ちの朝には相応しい清々しさだ」


 洞窟から一歩出たアビオスを待っていたのは、晴れ晴れとした青空と鮮やかな緑の草原だった。


「土地を復活させ、そして一時的とはいえ魔王の坊ちゃんの後ろ盾に(強制的にだが)なった。そして今、あの魔王の坊ちゃんは王国からの目があるとはいえ自由の身だ」


 これ以上自分に何ができる? いや、何もすることはない。既にあの魔王には自由が与えられた。そして自分にできるのは月の神ルーナスの教えの下、再び自由気ままに修行の旅を続けるだけ。


「ダークエルフのねえちゃん達ともうちょっと仲良くなりたいところもあるが、この身はルーナスに捧げた身、天涯孤独で生きていくのみ」


 別れの言葉も告げていないが、元々は中庸の民。この心地よく吹き流れる風のごとく、ふらりと流浪の旅にでるのみ。そうしてアビオスは地面に杖をつき、一人静かに旅に出ようとした。


 しかし――


「――はてさて、どこへ行く? 我にとって唯一の友たりうる僧侶プリーストよ」


 先にいたのか、あるいは追いついたのか。洞窟の脇にいつの間にかネロが立っている。去り行く背中に声をかけるが、アビオスは振り返ることもなく、皮肉を呟く。


「おいおい、子供は早起きが不得意なはずだが?」

「私にとって数少ない貴重な臣民がふらりと出ていくなど、見過ごすわけにはいかんよ」

「そうかい。だが俺はあくまで修行の身であり、根無し草の旅人だ。何時までも同じ場所にいる訳にはいかない」

「ここに神殿を立てて永住すればよいではないか。流浪の民とはいえ、貴様は既に立派な僧侶だ」


 魔王も認める実力。手を借りてとはいえ、魔力によって汚染された土地をあれだけ大規模に浄化できる僧侶などそういない。

 しかしアビオスはそれだけの好待遇を提案されながらも、振り返ることなく首を横に振る。


「悪いが、俺はまだまだ修行が足りない。何せダークエルフに囲まれて、何度劣情に襲われた事か」

「まあ、あれは……仕方ない。露出度が多い服なのが悪い」

「というか、ズルいぞ!? 俺は禁欲の身だってのに、あんたは――って……ハハッ、アッハハハハハハッ!!」


 思わずツッコミの為に振り返ったアビオスだったが、ネロと目を合わせるなり大笑いをし始める。


「ん? 何がおかしい?」

「何がって、あんたまだ鏡を見ていないのか!? 自分の顔がどうなってるのか!?」


 その瞬間、ある一つの考えがネロの頭をよぎる。

 もしや、角に何かあったのか? しかし触ってみれど、確かにそこにはいつも通り、覚えのある魔王の角がしっかりと生えている。

 それを見てアビオスがさらに笑い、そしてネタ晴らしとばかりにこう言った。


「だっ、だってあんた、ククッ、ハハッ! だ、駄目だ笑っちまう!」

「何がおかしい!?」

「そりゃ笑うだろ、だって――」


 ――顔中にキスマークをつけた七歳児が、真面目な表情でこっちを見てるんだぜ!?


「なっ……!?」


 急いで顔を拭うが意味がなく、柔らかな皮膚に吸い付かれたばかりにつけられているキスマークが未だに顔に残っている。


「……とっ、とにかく貴様にはまだやってもらいたいことがある! その為にも――」

「いや、もう俺は必要ねぇよ」


 そうしてアビオスは笑うのをやめ、代わりにまるで第二の父親のように、少しだけ背伸びした子供を見守るように、フッと微笑えんでこういった。


「あんた、立派な魔王なんだろ? だったらまた民を集めて作ればいいじゃねぇか。人間の寿命百年をめいいっぱい使って、誰もが幸せに住むことができる立派な領地を」

「……そこに人間も入れて、か?」

「そうしてもらいたいところだが……俺はあくまで中庸の僧侶、あんたがやりたいようにやればいい」


 再び背を向け、歩き出すアビオス。ネロはまたしても止めようと腕を伸ばしたが、アビオスの最後の言葉を前に、その手を止めてしまう。


「だが、俺やアネラみたいな、あんたにとって面白い人間なら住まわせてやってくれてもいいんじゃねぇか。だって今のあんたは――」


 ――人間なんだからよ。


「――っ!」


 その瞬間、これはアビオスから逆に与えられた課題であり、そして自らも超えていくべき新たな挑戦だとネロは理解した。


「……良いだろう。ならばせめて、貴様のような奇特な人間が来た時に、今度こそとどまって貰えるような素晴らしい土地にしてみせようではないか」


 人間も魔族も、モンスターも。皆が暮らせる支配地として、私はそこの王として君臨して見せようではないか。


 魔王はそうして、新たな王への道を歩み始めたのだった――

 ここまで読んでいただきありがとうございました(`・ω・´)。また別の作品でお会いしましょう

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