えいようあめ
夜が明け、森に朝が訪れた。
焚き火の残る安全な空き地で、私は眠い目を擦りながら体を起こそうとする。
あれ………?
体が思うように動かない、喉はカラカラに乾いてる。
「これは……!完全に栄養失調ね!」
私の声に気づいたレオンが寝袋から顔を覗かせた。
冷たくなった焚き火の燃え滓のそばでもぞもぞと動き、ブルッと震えてまた頭を半分隠した。
まだ眠たそうな顔で、彼はぼんやりと返事を返す。
「あぁ?栄養失調?なんだそれ?」
「ポンコツ剣士にも分かるように言うと、餓死寸前ってこと!」
レオンは、まだ事態を理解していないのか、ぽかんとした顔で横たわり私を見ている。
「俺はまだ元気だぞ。」
「それは、私の特製スーパーウルトラ栄養ドリンクのおかげよ。あと一日くらいは、食べなくても寝なくても動けるから。」
「へえ、改めて凄い薬をもらったんだな……。」
レオンが二度寝がかなわないと知ると、もぞもぞと袋から出てきて笑う。
私は肩を竦めた。
「俺が昨日の変なウサギを逃がしたばっかりに……。何か食べるものを探さねぇと。……大丈夫か?俺…なんか持ってっかな…」
私の顔をのぞき込んだレオンが、手をワタワタして自分の懐をまさぐるが少量の砂がパラパラと出てくるだけだった。
「大丈夫じゃないから、朝食を作ろう。でも、食材がほとんどないのよね……。」
私は薬草袋をゴソゴソと漁る。
実はこういうのは初めてじゃない。
あまり人と接触しない日々を送り、薬作りに没頭しているいままでの日々での主食は栄養素を固めた飴だった。
ひとつひとつ、蝋の紙で丁寧に包んでいた非常食の飴。
小さい革袋に入れて保存してある。
「レオン、ピヨピヨウサギを捕まえようか。一緒に罠を作ってくれる?それまで、この栄養飴で凌ぐから。」
蝋紙をはがして蜜色の飴を取り出し、口に放り込み。
不思議な工房にかかっていた、不思議な効果でおなかは減らなかった。
しかし、外に出たらすごくお腹が減るのだ。
たまに罠をかけて動物を捕まえたりもしていた。
その時のことを思い出す。
「そんな飴で腹が膨れるのか?それに、あのウサギをどうやって捕まえるんだ?」
「これはあくまで応急処置。ピヨピヨウサギは、羽で飛ぶけど、甘い匂いに弱いの。木の実の蜜に引き寄せられて、落ちてくるらしい。だから、蜜を塗った籠で飛べないように捕まえるって寸法ね。」
「なんか間抜けだなソイツら。名前どうりって感じだ。それなら、確かに確実だよな。」
私は周囲から木の枝を拾い、やわらかい木の蔦で、網を編み始めた。
「この棒に蜜を塗って、網をこうやって……。はい、そこ!ちゃんと持ってて。」
「罠を作るのって、結構力がいるんだな。」
レオンが器用にナイフで支柱をつくり、立てる。
不安定だったのか、網がぐにゃりとあさっての方向へ曲がった。
「しっかりしてよね。あなたも食べるんでしょ?」
「おう!任せろ!ここをこうか?」
「そうそう、上手よ。あっ…今度は私が変に曲げちゃったわ。」
私たち二人は、蜜を塗りながら四苦八苦し、なんとか立派な罠を作り上げた。