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ナイト

やけに懐いてくる黄色いポンポンと、それについてくるような色とりどりのポンポンたちを携えて、私たちは港町を出た。

遠くには潮騒の音とキューキューという波鳴草の声が聞こえてくる気がする。

たくさんの海藻パンをマリナさんに注文して、レオンと私はカバンに詰め込み、歩みを進めた。


「マリナさん、やっぱ暖かかったわね。」

「ちゃっかりおまけまで貰っちゃったな。」


入りきらなかった少しだけのパンを皮袋から取り出し、レオンがかじる。

鼻から抜ける香りを楽しむように目をつぶって味わっていた。

「なんだか港町にいるときはいつも慌ただしいわ」


私たちは港町の外れ、潮風が強い丘の道を歩き街を見渡す。

黄色いポンポンは私の肩から離れず、ふわふわと体を寄せてくる。


まるで私の気持ちを察知しているかのように、時折「キュイ?」と小さな鼻を鳴らして顔を覗き込んでくる。


その仕草が可愛らしくて、思わず頰を緩めてしまう。

他のポンポンたちも、群れを成して私たちの周りをふわふわと飛び回っていた。


水色のポンポンはレオンの頭上を高速で旋回し、ピンクのポンポンは虹色の泡を吐き出して遊んでいるようだ。

彼らはただの不思議な生き物じゃなく、どこか賢くて、純粋な心を持っている気がした。

不思議な力があるのは確かだけど、その正体はまだわからない——古書にも似た存在は載っていないし、謎だらけだ。



「リナ、こいつらほんとに俺たちについてくる気満々だな。港町の外まで来ちまったぜ」



レオンが海藻パンをかじりながら、黄色いポンポンを指差した。

彼はパンを一口ちぎって、ポンポンに差し出す。黄色いポンポンは興味津々に近づき、ふわふわの体でパンを包み込むように触れた。


すると、パンが少しだけキラキラと輝き、甘い香りが強くなった気がした。


「え…? ポンポン、何かしたの?」


私が驚いて尋ねると、黄色いポンポンは得意げに体を膨らませ、「キュワン!」と鳴いた。

他のポンポンたちも同じように体を揺らし、まるで「私たちもできるよ!」と言わんばかり。

レオンは目を丸くして、パンをもう一口かじる。


「なんか…味が濃くなった……か?こいつら、魔法でも使ってるみてぇだ」


彼の言葉に、私は古書を思い浮かべた。ポンポンたちのような不思議な生き物は、星の生命エネルギーを操る力があるのかもしれない。


ポンポンたちは、まだまだ謎が多い。


私たちはエルフの森へ向かうことを決めた。


船乗りさんの話から、エルフの森に妖精のヒントが隠されている可能性が高い。

古書にも、エルフと妖精は古くから共存し、森の奥に秘密の花畑があると書かれていた。


あの花畑で見た蝶の舞いも、きっと妖精の気配だったのかもしれない。


「よし、じゃあポンポンたち、連れてってくれる?」


私が黄色いポンポンに話しかけると、彼は私の肩で飛び跳ね、他のポンポンたちに合図するように体を発光させた。


すると、ポンポンたちは一斉に体を膨らませ始めた。ドラゴンの谷の時と同じく、私たちを乗せるのにぴったりな大きさに成長する。


黄色いポンポンは特に私の近くに寄り添い、「僕が守るよ!」と言っているみたい。


「あなたは小さな騎士様ね。レオンとおんなじよ」


レオンは照れを隠すように苦笑しながら、青いポンポンの背に腰を下ろした。


「また空の旅か。こいつら、ほんとに便利だな。黄色いヤツはお前の専属みたいだぜ。なんか特別懐いてるし」


「ふふ、そうかも。ポンポン、ありがとうね。エルフの森まで、よろしく!」


私が黄色いポンポンの背を優しく撫でると、彼は「キュイ!」と嬉しそうに鳴き、ゆっくりと空へ舞い上がった。


他のポンポンたちも続き、群れを成して飛ぶ。

風が髪を揺らし、港町の景色が遠ざかる。潮騒の音が小さくなり、代わりにポンポンたちの虹色の泡がキラキラと輝く。



空の旅は心地よく、ポンポンたちの体は雲のように柔らかかった。


黄色いポンポンは時折、私の顔を振り返り、確認するように鼻を鳴らす。

その瞳には、純粋な優しさが宿っている。


不思議な生き物だけど、きっと何か特別な秘密がある——そんな思いが、風に乗りながら浮かんだ。 レオンは隣のポンポンから身を乗り出し、海藻パンを分け与えていた。


「こいつらも食うのか? 」


彼がパンをちぎってポンポンに投げると、ポンポンたちは泡を吐き出してパンを包み込み、キラキラと輝かせて返す。まるで祝福されたみたいに、パンの味がより豊かになる。


「ハハ、すげえ! ほんとに不思議だよなあ。どんな生き物なんだ」



ポンポンたちのような謎の存在は、旅の途中で少しずつ明らかになるはず。


旅は順調で、数時間後、私たちはエルフの森の入り口に到着した。

霧深い森、木々がそよぐ音が響く。


「うわ、霧だ。前が全然見えねえ」


「マルクが、光る時だけエルフの森に入れるって言ってたものね。どうしようかしら、お土産いっぱいあるのに。」


以前、訪れた時とは違い、木々は輝きを失い、ただの深い森へと姿を変えていた。

まるで、森全体が私たちを拒んでいるかのよう。


私たちが途方に暮れていると、それまで私たちを乗せてくれていたポンポンたちが、黄色いポンポンを残して一斉に動きを止める。


そして次の瞬間、虹色の泡を空中に残して、あっという間に霧の中へと消えていった。

突然の別れに呆然と立ち尽くす私たちに、残された黄色いポンポンが頬ずりしてくる。


「あなたは行かなくていいの?」


私の問いかけに、黄色いポンポンは胸を張るように体を膨らませ、「キュイ!」と力強く鳴いた。


そして、私とレオンの周りを誇らしげにぐるぐる飛び回る。


「あはは、やっぱり小さな騎士様ね!私達を守ってくれるの?」


「俺が直々に鍛えてやるよ。お前は今日からナイトだ。」


レオンの言葉に、黄色いポンポンは嬉しそうに私の肩に乗り、「キュイキュイ!」と鳴いた。


私はその小さな体と、けなげな心に胸が熱くなる。

きっと、このポンポンは私たちといることを選んでくれたのだ。


「ナイト!ナイトよ!いい名前ね!」

「あっ、そういうつもりじゃ…まあ、いいか……」


レオンは少し照れくさそうに頭をかきながらも、その表情は優しい。

ポンポン、いや、ナイトと名付けられた小さな騎士は、私たちの旅の新しい仲間になったのだ。

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