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ポンポンの生態

ドラゴンの谷を後にしたリナとレオンは、次の目的地を模索していた。


――妖精の翅。

それは、どんな傷も癒す「エリクサー」の古書に書かれている中では最後の素材であり、リナの薬作りへの情熱をさらに燃え上がらせていた。


しかし、妖精がどこに住むのか、皆目見当もつかない。

古書には「妖精の森」としか書かれておらず、具体的な場所は謎に包まれていた。



「妖精って…なんかフワフワしてそうなイメージしかないな。どこ探せばいいんだ?」


レオンは両腕を組み、谷の出口で呟いた。

朝日が彼の栗毛を照らし、革鎧の傷が戦いの名残を物語っている。リナは古書を手に、ページをめくりながら首を振った。


「うーん、古書にもヒントが少ないのよね…。でも、こんだけ見かけないって事は、妖精って人里離れた場所にいることが多いみたいね。情報が集まりそうな場所に行ってみない? 港町なら、旅人や商人がいろんな噂を持ち込んでるはずよ」


リナの提案に、レオンは頷いた。


「港町か。あの海藻パン、また食いてえな。よし、早速戻ろうぜ」


二人は谷を離れ、港町への道を歩き始めた。

だが、谷から港町まではかなりの距離がある。

馬車を捕まえるにも、近くに街道はない。

リナが地図を広げて悩んでいると、遠くの草むらから聞き覚えのある音が響いてきた。



(キュイ! キュワーン!)



「あ…! レオン、あれ!」


リナが指さす先、色とりどりの綿あめのような生き物たちが、ふわふわと浮かびながら近づいてくる。


ポンポンだ。


ポンポンたちは二人の周りをくるくる回り、まるで再会を喜ぶように体を揺らす。

一匹の黄色いポンポンがリナの肩にちょこんと乗ると、ふわふわの感触が懐かしかった。


「ポンポン、ほんとに! どうしてここに…? まさか、迎えに来てくれたの?」


リナが笑顔で話しかけると、黄色いポンポンは小さな鼻をクンクンと動かし、リナの懐にある古書に興味を示すかのように、そっと体を寄せた。

古書に記された「妖精の翅」という言葉に、ポンポンたちは強い反応を示しているようだった。

他のポンポンたちも、虹色の体を発光させながら、リナとレオンの周囲で旋回し、彼らの心の奥底にある「願い」を読み取ろうとしているようだった。


ポンポンたちは一斉に体を膨らませ始めた。

ドラゴンの谷の時と同じく、二人を乗せるのにちょうどいい大きさに成長する。レオンは驚きながらも、ワクワクした表情でポンポンに近づいた。


「ハハ、こいつら、ほんと気が利くぜ! よし、港町までひとっ飛びだな!」


二人はポンポンの背に乗り、空へと舞い上がった。

ふわふわの感触に包まれ、谷の景色がみるみる小さくなる。


風が頬を撫で、ポンポンの虹色の泡がキラキラと朝日を反射する。

港町の青い海が遠くに見え、リナの心は新たな冒険への期待で高鳴った。


「ポンポン、ありがとう! また助けてくれるなんて、ほんと最高の仲間ね!」


リナの声に、ポンポンたちが「キュイ!」と嬉しそうに鳴いた。

その鳴き声は、ただの喜びの表現ではなかった。

彼らの瞳の奥には、何かを伝えようとする意思が宿っているかのようだった。


空の旅は、地上での苦労を忘れさせるほど快適だった。


ポンポンたちは、訓練された騎士団のように整然と隊列を組み、風を切り裂いて進む。

先頭を飛ぶのは、リナの肩に乗っていた黄色いポンポンだ。

彼は時折、リナの顔を伺うように振り返り、「キュイ?」と問いかけるような声を上げた。


他のポンポンたちも、それぞれの個性を示すかのように、虹色の泡の大きさや色を変えながら楽しそうに飛び回っている。


「これ、触ってて思ったんだけど。ポンポンの泡は、ただの飾りじゃないみたいね。ポンポンたちの感情や、周囲の生命エネルギーの状態を映し出す、まるで私たちの言葉のようなものだわ。」


「あぁ、なんか楽しい!って言ってるみてぇに出してるもんな。谷に着く前は妙にしおれて見えた気がするぜ」


レオンは、ポンポンの背中に深く身を預け、流れる雲を眺めていた。彼

の表情は、先ほどの真剣な面影はなく、まるで幼い子供のように純粋な好奇心に満ちている。


「おい、見てみろよリナ! あのポンポン、すげぇ速ぇな!」


レオンが指差すのは、群れから少し離れて、単独で高速飛行を試みている水色のポンポンだった。

まるでジェット機のような轟音を立てて、一瞬で視界から消え、またすぐに戻ってくる。


「ほんとだ! すごいね、あの子!」


リナも目を細めてその様子を見守る。

彼女の肩に乗っている黄色いポンポンは、そんな水色のポンポンをじっと見つめる。


「キュイ…?」


観察しているとポンポンたちは互いに意思疎通を図ることができ、その鳴き声や体の発光、泡の色や形によって、複雑な情報を交換していた。

彼らは、人間が言葉を交わすように、魂の響きで会話しているのだ。


「ポンポンって、本当にいろんな子がいるのね。まるで人間みたいだわ」


リナが微笑むと、黄色いポンポンは得意げに体を揺らし、小さな虹色の泡をいくつも吐き出した。

その泡は、朝日を浴びてキラキラと輝き、まるで宝石の雨のようだった。


彼らはただふわふわしているだけでなく、その美しい泡で互いにコミュニケーションを取り、旅の進捗を確認し合っているのだ。


「こいつらは自分の泡が綺麗なんて思ってないんだよな」


「え?」


レオンはポンポンの背を優しく撫でながら言った。


「俺たちは必死に言葉を学んで、気持ちを伝えようとするだろ? でもこいつらは違う。ポンポンたちは、ただ純粋に、あいつらなりのやり方で想いを表現してるだけだ。泡も、鳴き声も、体の揺れも、全部が彼らの『言葉』なんだ。綺麗とか、汚いとか、そんな評価なんて必要ないんだよ、こいつらにとっては」


ポンポンたちとの空の旅は、私達に虹色の光を見せてくれた。

ありのままの自分を、評価を気にせず表現する。そんな尊さをレオンは感じ取ったのだ。


風を切る音、泡のきらめき、そしてポンポンたちの優しい鳴き声が、心に染み渡る。


港町の青い海が、心の鏡のように遠くに見え、新たな冒険の予感が、胸の奥で波紋を広げた。


妖精探しの旅は、きっとリナとレオンの心を、もっと自由に、もっと豊かにするだろう。

そんな期待が、これからも輝き続けると確信できた。


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