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眠気覚まし

スープで腹を満たした私たちは、焚き火を片付け、次の目的地へ向かう準備を始めた。

谷が私たちを見送るように輝いている。


「ほんと、綺麗な場所ね…ここで休みたいところだけど、こんな危険な谷で寝るわけにはいかないし」


私が呟くと、レオンが肩をすくめた。


「だな。あの良く分からんギラギラうんこドラゴンがまた出てきたら、せっかくのスープも苔の栄養に逆戻りだ」


私はその言葉にクスクスと笑いながら思案する。


確かに、ドラゴンの進化の暴走は収まったけど、谷にはまだ星のエネルギーが渦巻いている。

他の魔獣が現れる可能性もある。

私は背囊を漁り、眠気を覚ます薬草を探した。

旅の疲れで少しぼんやりしていた頭を、シャキッとさせないと。



「ちょっと待ってて、レオン。眠気覚ましの薬、作るから」


私は小さな石の上に布を広げ、背囊から薬草とゴブリンの睾丸を煮詰めたあの液体を取り出した。ひとつは頭を冴えさせ、は体に活力を与える。

両方をすり潰し、星涙花せいるいかを保存している水、星涙水せいるいすいで溶けば、簡単な覚醒剤の完成だ。


「へえ、今度は眠気覚ましか。気付けって酒だけじゃないんだな」


「お酒でもいいんだけど、今無いし…。」


それに、レオンが禁酒してるし。


という言葉を飲み込む。

気遣いは知られなくてもいい。



「まあそれもそうだな。にしてもリナ、ほんとに楽しそうにつくるよなあ。薬作り…マジで好きなんだな」


レオンは興味深そうに私の手元を覗き込んだ。

私は草を臼で潰しながら笑った。

「『好き』っていう気持ちだけじゃないんだ。薬を作っていると、なんだかパズルのピースがカチッとはまるみたいに、心がしっくりくるの。それにね、あの時、クモに怯えてた村の人たちが薬を飲んで、やっと顔に色が戻ったみたいに元気になった瞬間とか、人魚さんたちが、止まってた時間を取り戻したみたいに、いきいきと笑い始めたのを見たら…もう、最高に嬉しかった!」


薬を飲んで助かった村人たち、人魚さんの笑顔が頭浮かぶ。

私の顔も自然に輝いた。

両手を広げて記憶を抱きしめる。


「あの時の、みんなの最高の笑顔が、私の『もっと!』っていう気持ちを大きくするの。だから、もっともっと作りたい。この薬で、一人でも多くの人に、とびっきりの笑顔を届けたい!」 


レオンはなんだか優しい顔で頬杖をついて私の気持ちを聞いてくれている。

途端になんだか喋りすぎて恥ずかしくなった私は薬に向き直った。


「ほら出来たよ。」


私はすり潰した草に星涙水を加え、ガラス瓶に詰めた。

瓶を振ると、液が淡い青に輝き、微かな清涼感のある香りが漂う。


レオンに一本渡し、自分も一口飲む。

スースーした清涼感のある香りが鼻を抜ける。

たちまち、頭がクリアになり、体の重さが消えた。


「うお、すげえ! 目がバッチリ覚めたぜ!」


レオンが瓶を掲げ、感心したように笑った。

私は満足げに頷き、残りの薬を背囊にしまった。


「これでがんばれそうね。エリクサーへの気持ちがもっと本気になったわ。がんばらないと。」


私の言葉に、無邪気にはしゃいでいたレオンは少し真剣な目で私を見た。

肩をポンとたたく。

「お前ならできるだろ。信じてついてきてるんだぞ。相棒。」


その応援に、私は心が温まるのを感じた。

  




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