森での狩りと迷いの酒
「肉が!食いてぇ!!」
そう、唐突にレオンが叫んだ。
昨日の希望の雫でレオンは元気を取り戻したようだが、まだ少し危なっかしい。
「沼に落ちかけたドジっ子剣士さん。どうしたのよ。」
「腹が減ったんだ。昨日から禄に飯が食えてねぇんだ。」
そう言い返しながら、またもや足をもつれさせた。
「腹ペコ剣士さんは見事によろけてるわね。」
その間の抜けた動きは、見ていて飽きない。
おもしろいやつ。
「——狩り行ってくる。」
「狩りって……その足取りで本当に大丈夫なの?」
「ああ、希望の雫のおかげで気分は最高だ!」
レオンは腕を振り回してアピールするが、どう見ても足元はおぼつかない。
「気分は軽くても動きは重そうよ。」
「心配ないって。……お、あれなんかいいんじゃねぇか?」
レオンは木の陰に身を隠した。
少し離れた茂みから、ピヨピヨウサギが姿を現した。
ウサギなのに鳥の羽が生えていて、ピヨピヨ鳴きながら跳びはねている。
「つか、あの変なの食えるのか?」
レオンは木陰から声をひそめて尋ねた。
「ピヨピヨウサギ。飛ぶウサギよ。美味しいらしいわ。高くは売れないけど、この辺の名産のはず。」
「よし、あれを捕まえる!」
レオンは勢いよく飛び出したが、案の定、足がもつれて派手に転んだ。
「うわっ!!?いっってぇ?!何だ!?」
「『何だ!?』じゃないよ!少しは落ち着いて!」
私は慌てて駆け寄った。
「大丈夫だ……。ちょっと羽に引っかかっただけだしな。」
レオンは笑ってごまかそうとするが、膝を押さえて顔を歪めている。
「引っかかったって、ピヨピヨウサギに触れてもいないじゃない、はぁ……もう……」
「みてろよ!おれはまだ負けてない!!」
レオンはそう言って立ち上がろうとしたが、ふらついて倒れそうになった。
しかし、今回はなんとか踏みとどまったようだ。
「まったく……。獲物を捕まえる前に、自分が罠にかかりそうだわ。」
私はレオンを木の根元に座らせた。
心の中で「ドジっ子剣士、ここにあり」と呟きながら。
「こんなナリでもよ、森を歩くのは楽しいな!酒があれば最高なんだが。」
レオンは笑顔で言った。
「本当に酒が好きね。料理用なら少しあるけどいる?」
私は薬草袋から小さな瓶を取り出した。
「え、いいのか?くれるのか?」
「あんたの笑顔、何だか元気が出るのよ。でも、飲みすぎないでよね。」
瓶を渡すと、レオンは満面の笑みを浮かべた。
「リナ、お前ってやつは最高だな!」
彼は蓋を開けて一口飲んだ。
「うわっ、うまい!元気百倍だぜ!」
「元気になるのはいいけど、ポンコツ具合も倍増しないでよね。」
「心配ない。これで俺は、もっと頑張れる。」
レオンの笑顔は憎めないが、あまり説得力はない。
私はピヨピヨうさぎを諦め、レオンに話しかける。
「そういえば、そろそろ初心者の森に戻ろうか。あの沼の場所、覚えてる?」
私は薬草袋を背負い直した。
「ああ、あの沼か。助けてもらった場所だな。森を出ないと宿で休めないし。」
「くれぐれも気をつけてね。確か、あっちの方だったはず。」
森の奥へ進むが、木々が同じように見えて、どちらへ進んでいるのか分からなってきた。
「リナ、本当にこっちで合ってるのか?」
「えっと……。たぶん、こっちだと思うんだけど……。何か違うような……。」
「何?まさか、迷ったのか?」
「迷ってない!ちょっと道が……。ほら、あっちに沼が見えるし!」
「ぜってぇ違う沼だぞ!?」
レオンは呆れたように笑った。
「何よもう。あんたも一緒に見てたでしょ。一緒に迷っているんだからさあ!」
「まあ、いい。リナって少し抜けているとこがあるんだな」
「ポンコツ剣士のくせに失礼ね。まあ……魔女は寿命が長いから、多少迷っても娯楽として楽しめるのよ。」
「俺は…あんまりそういう風には、考えられねぇ。なんたか俺の責任みたいだよ。道に迷うなんて、昔の俺では考えられなかった。」
レオンは瓶を手に持って、少し顔を曇らせた。
「そんなに気にしなくていいのに。私は楽しいっていってるじゃない!」
少し落ち込むレオンに私は励ますように胸を叩く。
その様子を見てレオンは笑顔を取り戻し、背筋を伸ばしてまた、歩みを進めた。
森の奥深く、私たちは完全に道に迷いなからも前を向き始めている。
なんでか楽しくなってきた私が、ずんずん進む。
自然と口角が上がりくるくると踊りだしたくなる。
そんな私を、レオンが慌てて追いかけて来ている。
「おい!!ノープランで進むんじゃねぇ!」
私はクスクス笑いながらレオンを翻弄して楽しんでいた。
迷ったって何とかなるのよ、案外。