ドラゴンの正体
虹苔の輝く瓶を手に、私とレオンはドラゴンの谷へと戻っていた。
嵐は去り、雲が割れて朝日が谷を黄金色に染めていた。
虹苔の輝きは薄れた崖も、陽光を受けて宝石のようにきらめいている。私はその光景に息をのんだ。
「すごい綺麗…まるで谷自体が生きてるみたい」
私の声は感動で震えていた。
谷の空気は清々しく、鳥のさえずりが響き、ドラゴンの咆哮の余韻は感じられない。
レオンは私の隣で剣の柄を握り、崖を見上げながらニヤリと笑った。
「綺麗なのもいいけどよ、こんな場所、また何か出てきてもおかしくねえぜ。」
彼の目は鋭く、でもどこか楽しそうに輝いていた。
私は頷き、鞄の中の勇気の粉の瓶を握りしめる。
その瞬間、谷の奥から不気味な振動が響いた。
地面が揺れ、崖の小石がカタカタと転がる。
私は背筋に冷たいものを感じ、レオンも剣を半分抜いて身構えた。
「…リナ、あれ」
レオンが指さした先、谷の奥の霧が濃くなり、巨大な影が動いていた。ドラゴンだ。
だが、前に戦った姿とは違う。
鱗は黒ずみ、目は赤く濁り、口から滴る涎が地面を溶かしている。
体は不自然に膨張し、まるで内側から何かが暴れているようだった。
「レオン、あのドラゴン…おかしいわ。前に戦った時も知性がないみたいだったけど…今はもっとひどい。まるで…変形してるみたい」
私の脳裏に、旅の道しるべにしている本の中の一節を思い出した。
——この谷には、星のエネルギーが集まりすぎる場所があり、生物を異常進化させる力があると。
虹苔もその影響で生まれた存在だ。
あのドラゴンは、星のエネルギーに飲み込まれ、進化の過程で狂っているのかもしれない。
「進化? じゃあ、アイツがこんな暴れてるのは、進化のせいってことか?」
レオンは剣を構え、鋭い目でドラゴンを睨んだ。私はふと思いつき、勇気の粉の瓶を取り出した。
「待って、レオン。もしドラゴンが星のエネルギーで進化してるなら…進化の恐怖や混乱が暴走させてるのかも。勇気の粉は心の枷を外す力があるから、ドラゴンの恐怖を和らげて正気を取り戻させられるかもしれない!」
私は瓶を差し出し、提案する。
レオンは一瞬驚いたが、すぐにニヤリと笑った。




