人魚の事情
人魚は、まっすぐ私を見つめ、言葉を重ねるように歌い出した。
♪〜
私は星の欠片より生まれ、歌を司る星の魔女。
汝もまた同じ、リナ
星の光をその身に宿す子
子守唄貝は、わが歌を糧とし
星の力受け生き続ける
夜の帳、静かに下ろす
闇こそが、この子の力
〜♪
「この人魚さんって、私と同じ魔女だったんだ!そして……子守唄貝が夜を呼んでるってことかな。昨日、私たちが迷った時に見た、あの昼間の星空のことなの?」
問いかけると、人魚は静かに頷き、私の腰につけた革袋に入っている波鳴草を指差した。
波鳴草の音が静かになったのは、近くに子守唄貝の力があったからなのだ。
「星の魔女だの、カケラだの……なんだか面倒くせぇ話になってきたな」
レオンはそう言うが、私にはその歌がとても大切な秘密を教えてくれているように感じられた。
人魚は、大切そうに子守唄貝を両手に包み込み、再び歌い出した。
しかし、今度はその声が、微かに震え、悲しみに満ちていた。
水面には、彼女の透明な涙が、ポツリ、ポツリと落ちていく。
♪〜
わが愛し子 眠り浅く
夜を呼ぶ力、弱まりゆく
命の灯火 消え果てん
わが歌声も、届かぬばかり
愛しき子よ
瞼を閉じれば 永遠の夢の 終わり告げる日
涙と共に、別れの時来る
〜♪
人魚の涙が、きらきらと海に溶けていく。
それに呼応するように、子守唄貝の優しい光も、少しずつ、けれど確かに弱くなっている。
「子守唄貝が眠れなくなって……もしかして、寿命が近いってことなの?」
声を震わせながら呟くと、人魚は悲痛な面持ちで、ゆっくりと頷いた。
その歌は、まるで私の心に直接突き刺さるようで、思わず目を潤ませてしまった。
「人魚にとって、子守唄貝って、そんなにも大切な存在なんだ……」
私の言葉に、レオンが小さく息を呑んだ。
「すげぇ絆だな。種族が違っても、こんなにも深く想い合えるなんて」