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草の声の仕組み


波鳴草はめいそうをかき分けながら進むと、ヌルッとした感触で足が何度も引っかかった。


「うわっ、絡まる……!」


バランスを崩しそうになった瞬間、波鳴草たちがさらに大きな声で「キューキュー!」と鳴き出した。


「え!? なんだか怒っているみたい……?」


私は少し焦る。

すると、レオンが苦笑しながら私の腕を掴んでくれた。

「お前が騒ぐから、共鳴してんだろ」


でも、群生地はどんどん深くなり、気がつけば私たちはどこへ向かっているのか分からなくなっていた。

右を見ても波鳴草の壁、左を見ても同じ緑の景色。


「レオン、どっちが正しい道だっけ……?」


振り返って尋ねると、彼は肩をすくめて言った。


「お前が先頭だろ。俺に聞くなよ」


歩いても歩いても、どこまでも波鳴草が続いている。


「うそ……迷っちゃった?」


不安が胸の中に広がってきた。キューキューという音が頭の中で反響し、足を取られるたびに疲労が押し寄せてくる。


「ったく、このままじゃ人魚どころか、本当に溺れちまうぞ。とりあえず、一度ここから出よう」


レオンがそう提案してくれた。


「うん、そうだね。一度戻って、考え直そう」


私もそう頷いたけれど、そもそも、来た道がどちらだったかすら、もう分からなくなっていた。

波鳴草の群生地は、まるで生きている迷路のようで、私たち二人は、何度目かわからない立ち往生を経験している様だった。


「どうしよう……エリクサーどころかこれじゃあ波鳴草はめいそうの餌かも……」


私は思わずそう呟いた。

レオンは意外にも冷静に答える。


「落ち着けよ。何か手がかりを探してみろ」


私はハッとした。そうだ、昔、旅の途中で道に迷った時、おじいさんが教えてくれたことがある。


「風はどうかな?」


私は指を少し濡らし、空にかざしてみた。

洞窟の中を、かすかに潮の香りのする風が吹いているのが分かった。


「こっちだ! 風が吹いてくる方角なら、外に近いよね!」


私はそう言って、風を感じる方向を指差した。

レオンはニヤリと笑って、私の頭をなでる。


「へぇ、たまには頭を使うじゃねぇか。行ってみようぜ」


「レオンだって、本当は頼りにしてるくせに!」


私はそう言って笑い返し、二人で風の吹く方へ進んだ。


波鳴草をかき分けながら歩くと、キューキューという音が、まるで私たちを追いかけてくるように聞こえる。


「この子たち、人魚に会わせたくないのかな?」


私が冗談めかして言うと、レオンは笑う。


「うるさいから、置いていかれても文句はねぇぞ」


風を頼りに進むうちに、足元の水深が少しずつ浅くなり、波鳴草の群生もまばらになってきた。


そしてついに、波鳴草が全く生えていない、開けた岩場に出た。水面はキラキラと陽の光を反射し、遠くから波の音がゴォー……と響いてくる。



「やっと出られた……!」


私はホッと息をついた。


しかし、レオンは周囲を見回しながら、


「ここが入り口か? それとも、別の場所か?」


と疑問を口にした。岩場の奥には、暗い通路が続いており、そこから微かに風が吹いてくる。


「人魚の入り江は、もっと奥にあるのかな?」


私が呟くと、レオンは肩をすくめて言った。


「さあな。静かなところだといいんだが」



私はバッグの中の波鳴草を見た。


「この子たちのおかげで迷っちゃったけど、風に気づけたのも、この子たちのおかげだね」そう言って笑うと、レオンは苦笑しながら言った。


「お前は、やけに前向きだな。まあ、次は迷わないように頼むぜ」


開けた岩場で一息つき、私たちは次の道がすぐそこにあるような気がしていた。人魚の入り江は、きっとこの先に続いている。そんな予感が、私の胸にじんわりと広がっていくのを感じた。



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