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海鳴りの洞窟

朝日が宿屋「潮騒亭」の窓から差し込み、心地よい目覚めだった。

昨日の朝、マリナさんが焼いてくれた波鳴草パンの、あの香ばしい甘さがまだ舌の奥に残っている。


私はそっとベッドから抜け出し、隣でまだ眠っているレオンに声をかけた。


「ねぇ、レオン、起きて! 今日は人魚の入り江の入り口に行くんだよ!」

レオンは目を擦りながら、不機嫌そうに顔をしかめた。

「また変なところに行くのかよ……朝から騒がしいな」とぼやきながら、年季の入った靴を引っ張り出している。剣と一緒に修理してもらって靴底だけがピカピカだ。


私はにっこり笑って言った。

「変なところだから面白いんじゃない! マリナさんとの約束、忘れちゃったの?」


すると、彼はニヤリと笑って、

「お前が厄介事に巻き込まれる未来しか見えねぇけどな」と言った。

まったく、心配性なんだから。

でも、その顔にはいつもの冷たさはない。


食堂へ行くと、マリナさんが温かいスープとパンを用意して待っていてくれた。

「人魚の入り江の入り口はね、海鳴りの洞窟よ。波鳴草がたくさん生えている場所の奥にあるから、ちょっと大変かもしれないけど、誰も行ったことがないんだってさ」と教えてくれた。



「群生地の奥って……あのキューキュー鳴くのがもっとすごいの?」

私は目を丸くして尋ねた。

想像しただけでワクワクする!


マリナさんは優しく微笑む。


「そうさ。気をつけておいで。面白い話、楽しみにしているからね」

そう言いながら、私のバッグに予備の波鳴草をそっと入れてくれた。



レオンはというと、呆れた顔をしている。

「また騒がしい場所に突撃するのか……」


でも、私の胸は人魚に会えるかもしれないという期待でいっぱいだった。

なんと言ってもこんなに順調にエリクサーの材料が手に入るなんて!



宿を後にして、私たちは海岸沿いの道を歩き始めた。

潮の香りが鼻をくすぐり、遠くで聞こえる波の音が冒険の始まりを告げているようだった。


洞窟の入り口が近づくにつれて、波が打ち寄せる音が大きくなり、「ザザーン、ザザーン」と響き渡る。

潮の香りに混じって、微かに波鳴草の「キューキュー」という音が聞こえてきた。


入り口の近くには、緑色の葉をつけた波鳴草がちらほらと顔を出している。


「ここからだね! 人魚の入り江、もうすぐそこかな?」


私は思わず声を上げた。

レオンは少し耳を塞ぎながら、


「うるさいのが増える前に、さっさと行くぞ」


と急かした。でも、私にはその音が、これから始まる特別な冒険の合図のように聞こえたんだ。



洞窟の中に入ると、すぐに足元が海水で濡れた。


冷たい水が膝まで浸かり、歩くたびにチャップ、チャップという音が響く。

「うっ、冷たい……! でも、なんだか面白いね!」

私はそう言って笑ったけれど、レオンは不満そうだ。

「歩きにくいったらありゃしねぇ……なんでこんな場所を選んだんだ」


さらに奥へ進むと、目の前に信じられない光景が広がった。

緑色の波鳴草が、水面からびっしりと顔を出している。

波が揺れるたびに、無数の波鳴草が一斉に「キューキュー、キューキュー」

と、まるで歌っているような大合唱を始めたのだ。


「わあ……すごい! 昨日よりもずっとたくさん鳴いている!」


私は思わず歓声を上げた。


レオンは両耳を塞ぐ。


「うるせぇ大群だ……耳が割れる……」

とげんなりしている。まったく、もう少しロマンチックな気分になってくれてもいいのに。

レオンは頭を抱えたあと、手持ちの布を耳に詰めてなんとかしのいでいるようだった。


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