表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/81

波鳴草(はめいそう)


朝、宿屋「潮騒亭」の窓から差し込む光で目が覚めた。

昨日の市場の賑わいやレオンの剣舞、マリナさんの美味しい料理が頭に浮かんで、なんだか心が温かくなる。

旅の疲れはまだ残っているけれど、新しい一日への期待がそれを上回っていた。


私はベッドからそっと起きて、まだ眠っているレオンに声をかけた。


「レオン、起きて。今日、海岸に行くよ」

「うるせぇ…いっつも朝から元気すぎだろ」

「そりゃそうだよ!時間は有限だからね!」


昨日、マリナさんが「海藻パンの作り方を教える前に、海岸で波鳴草ハメイソウを見てきな」って言ってたから楽しみに胸が膨らんでいたんだ。


あの不思議な海藻を自分の目で見て、触って、そして海草パンの秘密を解き明かす。

想像するだけでワクワクが止まらない。


食堂で朝ごはんを食べていたら、マリナさんが教えてくれた。


「 波鳴草ってのはね、波に揺れるとキューキューって鳴く不思議な海藻なんだよ。港町の名物だから、見ておいで」

「鳴く海藻…?」


私は目を丸くして少し考える。

どんな音なんだろう?どんな姿をしているんだろう?

想像が膨らむ。


「鳴くって、まぁた変なもん採りに行くんだな」


レオンは、いつもの呆れた顔をしてたけど、目がちょっとキラッとしていた。

好奇心を隠しきれていない。

変なもの、好きになってるね?


「面白そうじゃない? 行こうよ」

と私はレオンを誘って、宿を出た。


海岸への道は、砂浜と岩場が混ざった細い道。

潮風が頬を撫で、太陽の光が海面をキラキラと輝かせている。

波の音がザザーンと響いて、遠くにカモメが飛んでるのが見える。

潮の香りと磯の香りが混ざり合い、港町独特の雰囲気が漂った。


「海って、なんか落ち着くな」

「昨日もそう言ってたね。レオン、海が好きなんだ?」

「こんな景色、初めてみたからな」


レオンは海が好きらしい。

出会った頃の森とは全く違う景色に、彼は何かを感じているのかもしれない。

ずっと浸っているレオンを横目に私は今日の海岸に胸を馳せた。

今は波鳴草のことが頭から離れない。

どんな海藻なんだろうと、歩く足が自然と速くなる。



海岸に着いたら、岩場に緑がかった細長い海藻がびっしり生えてた。

太陽の光を浴びて、海藻はキラキラと輝いている。

波が寄せるたびに、キューキューいう。

それはまるで、小さな生き物たちが歌っているかのよう。


「本当に鳴いてる…!」

「あ゛ーーーー!うるせーーーーー!!」


レオンはたまらず逃げていく。

かなり苦手な音のようで遠くの方で見守ることにしたようだ。

耳を塞ぎ、顔をしかめている。


レオンと違い、私にはその音がなんだか不思議で愛おしく感じた。

マリナさんが「波鳴草は焼くと甘くなる」って言ってたから、これが海草パンの秘密なんだね。

薬にも使えるかなって、手帳にメモをする。

案外美味しいだけのこともあるしたぶんこれもその類いだ。


「よし、やるぞ」

と呟き私は岩場に近づいた。

波が来るたびにキューキュー鳴く。

波のタイミングを見計らって手を伸ばしたけど、ヌルッとしててつかみにくい。

海藻はまるで生きているかのように、私の指をすり抜けていく。


「うっ、滑る…!」

何度も手を引っ込めてたら、レオンがいつの間にか寄ってきて肩を叩く。

耳には布が詰められていた。少しはマシになったのだろうか。


「ったく、お前じゃ埒が明かねぇな」

剣を手に持って、波の合間を狙ってサッと波鳴草を切り取る。

その手際の良さに、私は思わず見惚れてしまった。


「ほら、こうやるんだよ」

得意げに渡してくれた。

耳に詰めた布で少しは緩和されたようでレオンは採集を続けることにしたようだ。

手慣れた様子で、ザクザクと波鳴草を切り取っていく。


私も負けてられない。

また、波のリズムを見極めて、「今だ!」って手を伸ばしたら、キューキューって鳴き声が大きくなって、手に絡みついてきた。

海藻はまるで蛇のように、私の腕に巻き付いてくる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ