潮騒亭のディナー
市場を後にし、私とレオンは宿屋「潮騒亭」にチェックインした。
木造の建物は潮風に晒されてるけど丁寧に掃除してあるのが分かる。
温かみがあって、すてきな宿だ。
玄関で女将が笑顔で出迎えてくれる。
「ようこそ、いらっしゃい!あたしはマリナ、なんかあったら何時でも聞いておくれ!」
50代くらいで、丸顔でいつもニコニコしてる優しそうな人。
部屋も清潔で、海の見える窓から波音がざざん、ざざんときこえてきて、旅の疲れが癒される。
私はベッドに飛び乗って一息つく。
「ふぁー、疲れたぁ!」
「海ってなんか、落ち着くなあ」
レオンは窓辺に立って呟き、靴を脱いで足をほおりだした。
しばらく休んでいると宿屋の食堂の方から美味しそうな匂いが漂ってきた。ご飯の時間だ。
食堂へ行くと、テーブルには港町ならではの料理が並んでいた。
新鮮な魚介を使ったスープ、海藻を練り込んだパン、そして色とりどりの海藻と生魚のサラダ。
私は、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「さあ、召し上がれ」
女将のマリナさんが、笑顔で声をかけてくれる。
「いただきます!」
私は、待ちきれずにスープを口に運んだ。魚介の旨味が凝縮されたスープは、身体中に染み渡るように美味しかった。海藻パンは、ほんのりとした塩味と甘味が絶妙で、ついつい手が伸びてしまう。
レオンは、黙々と料理を口に運んでいた。その顔は満足気だった。
「ここの料理は、本当に美味しいな」
レオンが、感想を口にする。
「そうだろ?港町ならではの味だよ、腕によりをかけたからね!いっぱいおあがり!」
マリナさんは得意げに胸を張る。
エルフの里で胃が大きくなった私とレオンは結局3回もおかわりして宿屋の食事を堪能した。
食事を終え、マリナさんがレオンに話しかける。
「そういえば、あんたの剣舞、噂になってるよ」
「噂?そんなにか?」
レオンが、少し驚いたように聞き返す。
「ええ、あっという間に町中に広まってね。皆、あんたの剣舞に魅了されたみたいだ」
マリナさんは、そう言って微笑んだ。
「ちょっとふざけたつもりだったんだけどな」
レオンは、照れたように呟いた。
「またやってよ!」
私も直後はなんだか恥ずかしくて褒められなかったがまたあの演舞は見たくて、おねだりする。
「私もあの剣舞、宿から見えたんだけど。なんだか、英雄さまみたいに見えたねぇ」
マリナさんが、そう呟いた。
「そうだよね!レオンにはいっぱい物語があるんだから」
私は、マリナさんに言った。
「そうなのかい?それはおもしろそうだ」
マリナさんは微笑みながら私の話を聞く。
「レオンはね、色んな場所を旅して、たくさんの冒険をしたんだよ。ばっさばっさと魔物を倒したり!」
「まあ!そんな大層な人なんだね。すごいじゃないかい」
楽しそうに話を聞いてくれるマリナさんに私は、今までのの冒険話を次々と話した。
レオンは少し照れくさそうにしている。
「今はただの旅人だよ」
レオンは、そう言って頭を掻く。
「それでも、レオンはすごいんだからね!」
レオンは少しだけ嬉しそうな顔をした。
「それでね、マリナさん。私たち、人魚の入り江に行こうと思ってるんです」
私は、マリナさんに言った。
「人魚の入り江かい?それはまた、珍しい場所に行くんだね」
マリナさんは、少し驚いたように言った。
「うん!私も会ってみたくて」
私は、目を輝かせて言った。
「そうか。人魚の入り江目当てなら近くの普通の海岸にもいってみな。海藻採ってきたら土産話の礼に海藻パンの作り方、教えてやる」
マリナさんは、そう言って私にウインクをした。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
私は、大喜び。
あのおいしいパン、自分で作れたらたくさん食べられるかも。
私たちは部屋に戻り、窓から海を眺める。
はち切れそうなお腹を擦りながら黄昏ていると、波音がざざんざざんと響いて、今までの旅の疲れを全て洗ってくれるように感じた。