港町観光
やっと港町「シーウィンド」に着いた。
レオンと一緒に長い道を歩いてきたから、足が棒みたいになっていた。港に近づいた瞬間、潮風がビューンと吹いてきて気持ちいい。疲れが吹っ飛ぶ気がした。
港には大小いろんな船が停まっていて、船乗りさ んたちが「オーライ!」「網上げろ!」と叫ぶ声が響く。
市場に足を踏み入れたら、目が離せない光景が広がっていた。
新鮮なイカの足がピクピク動いてたり、虹色に光る貝が積まれてたり、サンゴみたいな赤い果物やキャベツそっくりの海藻まで!
ところ狭しと屋台が並んでいた。
商人さんたちの「新鮮だよ、安くしとくよ!」という呼び込みが飛び交って、どこかで貝殻の笛がほぉ〜んと鳴っている。
「活気があって、こっちまで元気出るな。」
レオンは興味深そうに魚を干してる船乗りさんを見ている。レオンって、見るからにこういう庶民っぽいとこが好きそうだ。
そうしてしばらく屋台を冷やかしていると、
屋台で「海草パン」を見つけた。
「やあそこのお二人さん!旅人かい?少し食べていきな!サービスだ!オススメだよ!」
といい試食させてくれた。
緑がかったふわっとしたパンで、海藻の香りがフワッと鼻をくすぐる。
「甘くてしょっぱい! 不思議な味!」
「こりゃがっつり飯にもなるな」
「おいしいね!おばさん、4つください!」
「リナ、なんか…胃がデカくなってねぇか?食いすぎだろ。」
レオンの呆れ顔を横目に私は店主のおばちゃんにお金を渡す。
「これ、どうやって作るの?」
「観光客に教えたら商売上がったりよ!」
明るくおばさんに一蹴されてしまった。
「あんま迷惑かけんなよ」
とレオン。
レシピが気になる私を半ば引き釣り気味にその場から離し、私たちは、市場散策を続けた。
市場を歩いていたら、広場で大道芸が始まっていた。
軽快な音楽に合わせて、ジャグリングや曲芸が披露されてて、子供たちが大歓声を上げている。
貝殻の笛や太鼓がリズムを刻んで、潮風が観客の笑い声を運んでくるみたいだ。
「おい兄ちゃん!いっちょどうだ?」
酔っぱらいが貝の笛の楽器を片手に絡んできた。
レオンがそれを見て不敵に笑う。
「ちょっと、俺もやってみる、踊るのは恥ずかしいけど、こういうのならできそうだ。」
そうして広場の中心に歩いていった。
素朴で少し哀愁を帯びた音色がほぉ〜んと響く。
観客が「ほう?」と、注目し始めた。
レオンは直して貰いたての輝く剣を取り出し、剣舞を始める。
陽光を浴びて輝く剣は、いつかの英雄を彷彿とさせる力強い動きを見せる。
静かな笛の音色に合わせ、ゆっくりと剣を構え、流れるように、ゆらりと舞った。
緩急自在な動きは、まるで海の波みたいだ。
レオンの剣舞にどんどん引き込まれていくのが分かる。
子供たちの歓声が上がり、大人は感嘆の声を漏らす。
剣舞は、静と動。私は、レオンの姿に目を奪われていた。
最後、レオンが剣を鞘に収めて笛を置くと、広場が一瞬静まり返って、直後に拍手と歓声がドワーって沸き上がった。
コインが足元にジャラジャラ投げ込まれる。
「まぁまぁだな」
予想外だったのか、少し驚いたあとにそうレオンは照れ隠しをしていた。
私に近づいてくる。
「これもリナの薬で元気になったおかげだな」
まぶしい笑顔をみせてくれた。くるくるの栗毛がふわりと揺れる。
「へぇ、あんたにそんな才能があったなんて、意外だったわ」
私はなんだかくすぐったくなり出会ったときみたいな皮肉っぽい言い方しか出来なかった。
冗談を言おうとするレオンに被せるように続けた。
「…でも、本当に、かっこよかったわよ」
少しだけ、照れ隠しで目を逸らしながら。
「…そうか。ありがとうな」
レオンも恥ずかしくなった様で目を逸らす。
「ふふっ、どういたしまして」
私は、レオンの照れた顔を見て、少しだけ勝ったような気になった。




