レオンの約束
村での騒動から数日。私たちは再び旅支度を整え、村を後にした。村の人たちは、総出で私たちを見送ってくれた。ジェームズさんはありゃ多すぎだ。と言って大根の保存食をくれようとしたが、これからのために使ってくださいと2人で断った。
「レオンさん、リナさん、本当にありがとうございました!」
「あなたたちのおかげで、この村は救われました!」
「またいつでも遊びに来てくださいね!」
村人たちの温かい言葉に、私は笑顔で手を振る。レオンも少し照れくさそうにしながら、笑顔で手を振っていた。
「みんな、元気でね! またきっと会いに来るから!」
「村の復興、頑張れよ!」
村を離れ、しばらく歩くと、日が暮れてきた。私たちは、街道沿いの開けた場所にテントを張り、夜営の準備を始めた。
「ふう、疲れたね。今日はぐっすり眠れそうだ」
私がテントを張りながら言うと、レオンは焚き火に薪をくべながら言った。
「ああ、そうだな。それにしても、この村で過ごす日全部が本当にいい日だった」
焚き火の炎が、夜の闇を優しく照らし出す。
私は、焚き火のそばに腰を下ろし、満足そうに微笑んだ。
「ねえ、レオン。人を助けると、こんなにたくさんの笑顔が作れるんだね」
私が焚き火を見つめながら言うと、レオンは頷いた。
「ああ、そうだな。人を助けるってのは、気持ちがいいもんだ」
「私、もっとたくさんの人を笑顔にしたいな」
私が目を輝かせながら言うと、レオンは私の頭を撫でながら言った。
「約束したもんな。」
「約束……お前はたくさんの人を笑顔にするっていったよな。俺の約束、変更していいか?」
約束…星涙花を採った後、元気がないレオンを励ますために私がした、一方的な約束だ。
覚えていてくれたんだ。
もうレオンは元気だ。
約束なんて必要なくなったってことかな。
少しさみしいが、私は、その言葉にコクンと頷いた。
「リナは、たくさんの人を笑顔にする。そして、俺は、お前を笑顔にする。二人で笑顔を作りゃいいんだ。」
「あはは!なんかくすぐったいね。」
レオンの言葉に、心が弾む。
約束、覚えていてくれただけじゃなく、私を喜ばせてくれるなんて。
なんだか照れくさくなって、笑うことしかできなかった。
焚き火の炎がパチパチと音を立てる。夜の静けさが、私たちの会話を優しく包み込む。
「ねえ、レオン、なんか話してよ。うーん。昔の話とか。」
私がレオンに話しかけると、レオンは少し考えてから言った。
「昔の話? どんな話にするか?」
「英雄の頃の話とか、何か面白い話とか」
「そうだな……。昔………村の祭りで踊りすぎて転んだんだ」
レオンが話し始めた。
「 万全な状態のレオンが?」
私が驚いて聞き返すと、レオンは苦笑いをしながら言った。
「ああ、信じられないだろ? 俺も、まさか自分が転ぶとは思わなかった。まあ、昔からどんくさかった、ってことだよ。」
「どんな風に転んだの?」
私が興味津々で聞くと、レオンは当時の様子を思い出しながら言った。
「そうだな……。祭りの踊りが盛り上がって、俺も調子に乗って踊りまくってたんだ。そんでいい感じになったやつがいてよ。いいとこ見せようとして、足がもつれて、ド派手に転んだ」
「アハハハ!レオンらしいね」
私が笑うと、レオンは少し照れくさそうに言った。
「おお!笑え笑え!さっき約束したからな。まあ、あの時は、本当に恥ずかしかった」
「だから今は踊らないの?」
私が聞くと、レオンは肩をすくめて言った。
「あー!もう! 恥かきたくねぇだけだよ。」
そう言って頭を掻き、薪を投げ入れる。
「ふふっ、レオンは本当に面白いね」
私が楽しそうに笑うと、レオンは少し照れくさそうに言った。
「そうか? 昔は色々あったんだよ」
「ねえ、レオン。私、レオンの踊り、見てみたいな」
私が目を輝かせながら言うと、レオンは慌てて言った。
「勘弁してくれ。もう二度と踊りたくない」
「ええー、ケチ」
私が拗ねたように言うと、レオンは私の頭を撫でながら言った。
「まあ、いつか気が向いたらな」
「うん! 楽しみにしてる!」
私が笑顔で言うと、焚き火の炎が、私たちの顔を優しく照らし出した。