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活力のくすり

リナ視点に戻ります。

レオンが蜘蛛と戦ってる間、私は村の人たちを助けるための薬の材料を探しに森へ向かった。

必要なのは「ゴブリンの鼻毛」と「ゴブリンの睾丸」。


エルフの里で遊びすぎたツケが回ってきている気がして情けない。

私は自分のお調子者なところを呪いながら息を切らせて走る。



ゴブリンの鼻毛は強力な浄化作用があり、スースーするのはそのためだ。

対して睾丸はレオンの戦いのために取りに行く。

睾丸は精力剤、力の源。「活力の薬」になる。 



ーーきっと辛い戦いをしているだろうから。


ゴブリンの巣は、村から少し離れた場所にあった。

風魔法で風を切り、進みながら探す。

あっという間に到着した。


巣は、じめじめした湿地帯にあって、なんとも言えない臭いが鼻をつく。


「うわ、臭っ!早く済ませて帰らなきゃ…!」


私は、いつも持っているゴブリン駆除剤を準備した。


これは、どこの街のギルドでも売ってる普通の駆除剤…じゃない。

私が常備しているのは、ちょっと特殊。

普通ならゴブリンを弱らせる程度のものが、私のはゴブリンを確実に仕留めることができる。

取り扱い注意なので作った私しか使えないのだ。


フードを深くかぶり、手持ちの布を自分の口へ巻く。

特殊な樹脂でつくったお手製のゴーグルを目に装着した。準備はバッチリだ。


勇み足で巣の中に足を踏み入れると、ゴブリンたちがゾロゾロと出てきた。

「キシャーーー!」

気持ち悪い声を上げながら、私に襲いかかってくる。でも、大丈夫。私は戦わない。


「はい、おやすみー」

私は、駆除剤の霧吹きをプシュッとゴブリンたちにめがけて撒いた。

すると、ゴブリンたちはバタバタと倒れていった。

「ふう、楽勝ね」


ゴブリンの死骸が積み重なった光景は、ちょっとグロテスクだったけど、今はそんなこと言ってられない。

私は、鼻を摘みながら、ゴブリンの死骸から鼻毛と睾丸を剥ぎ取っていく。


「うーん、どれどれ…これかな?あ、こっちにもあった」

ゴブリンの鼻毛は、硬い。

睾丸は、ぶよぶよしてて、触るのに抵抗があったけど、薬のためだと思って我慢した。 

ーーこの2つは、力がいるのでいつも時間がかかる。

今日は、「急がなければ」と逸る気持ちのせいで余計手元がおぼつかない気がした。


剥ぎ取り作業をしている間、いろんなことを考えてた。

レオンのこと、村の人たちのこと、そして、私のこと。


レオンは、いつも私を守ってくれる。

頼りになるし、一緒にいると安心する。

でも、時々、無理をしすぎるのが心配。

出会った最初からレオンは弱音を吐かない男だった。

過去の栄光にすがっていると思ったが逆だったのだ。

彼はあまりにも脆い。


「レオン、大丈夫かな…」


蜘蛛との戦いが気になって、作業に集中できない。

早く薬を作って、レオンを助けに行かなきゃ。


村の人たちは、みんな困っていた。

毒糸蜘蛛の毒で苦しんでいる。早く薬を届けないと。


「みんな、もう少しだけ待っててね。すぐに楽にしてあげるから」


私は、星から産まれた魔女。だから、人の笑顔が大好きだとこの旅を通して実感していた。

みんなが笑顔でいられるように、私はできることをするんだ。



ゴブリンの死骸から鼻毛と睾丸を剥ぎ取り終えた時、私の手は血と体液で汚れ、鼻にはゴブリンの臭いがこびりついていた。


「よし、これで薬が作れる!」


私は、急いで村に戻ることにした。レオンがまだ持ちこたえてくれてることを信じて。




村に戻ると、レオンはまだ蜘蛛と戦っていた。ボロボロになりながらも、必死に蜘蛛の攻撃をかわしている。足からは血がにじみ、蜘蛛の紫色の体液もかぶっていて顔色が悪い。


「レオン!材料、持ってきたよ!」


私は、レオンに声をかけながら、急いで薬の準備に取り掛かった。


レオンが戦っているすぐ脇で、古書を開き、工房を出す。

カチャリと音を立てて完成した工房は、元の様相に戻っていた。


「エルフの里仕様もいいけど、こうでなくっちゃね。」

持ってきた材料を混ぜ合わせ、薬を調合する。


「ゴブリンの鼻毛と星実を混ぜて…と。レオンの薬は…ゴブリンの睾丸をすり潰して、魔力と…」


私は、手際よく薬を調合していく。

ゴブリンの鼻毛は、強力な浄化作用を持っている。

願いの力が籠もっている星実と一緒に使うことで、毒を中和することができることをエルフの里で発見していた。


「はい、できた!みんな、飲んで!」


私は、完成した「浄化薬」を村の人たちに配る。

みんな、苦しそうに薬を飲んだけど、次の瞬間、驚きの変化が起こった。


まず、鼻から紫色の煙が噴き出した。村人たちは、驚きの声を上げる。

「な、なんだこれは!?」

「体が、勝手に…!?」

煙が晴れると、鼻毛が生え、枯れるように抜け落ちる。

その直後村人たちの体から、毒で変色していた部分がポロポロと剥がれ落ち、代わりに、健康的な肌が露わになった。


そして、彼らの顔には、安堵の表情が浮かぶ。

「ありがとう!体が、軽くなった!」

「もう、苦しくない!」

村人たちの笑顔を見て、私も嬉しくなった。

みんな、元気になって、本当によかった。




「はい、レオン、あーん」

私は、完成した「活力の薬」を蜘蛛の姿から隠れるレオンを探し出し、差し出した。

レオンは、息を切らしながらも、薬を受け取る。


「…助かる」

レオンは、不思議そうな顔をしながらも、薬を口に運んだ。


次の瞬間、レオンの体に変化が起こった。


まず、ボンッと全身から赤い煙が噴き出した。

近くで隠れていた村人たちが、再び驚きの声を上げる。

「お兄さん、大丈夫ですか!?」

「体が、真っ赤に!?」


煙が晴れると、レオンの体は、全身が赤くなっていた。

そして、その体からは、力がみなぎっているのが見て取れた。


「…力が、湧いてくる!体が、熱い!血液が、滾る!」

「俺に、任せろおおおおおおお!!!!!」

レオンは、そう叫ぶと隠れていた小屋を出て蜘蛛に向かって突進した。

先程までの疲労困憊の様子が嘘のように、その動きは俊敏で力強く、蜘蛛を圧倒していく。


「効きすぎだ!一体何が入ってるんだ!最高の気分だ!」


「秘密だよ」

私は、ニヤリと笑った。レオンには、まだ秘密にしておこう。



「ハハハハ! 気持ちいいぜーーーっ!」

心底楽しそうな顔で剣技を繰り出し、赤い顔で蜘蛛をなぎ倒す様は一種の神様のようにも見えた。



活力の薬のおかげで、蜘蛛を豪快に倒し、村には、再び平和が戻った。

「ありがとう、リナ!お前のおかげだ、本当に助かったぜ」


レオンは、私にそう言って笑いかけた。

私も、レオンの笑顔を見て、心から嬉しくなった。


「どういたしまして。これからも、よろしくね」


私たちは、お互いに笑顔を交わし頷くと、

「疲れたあああ!」と地面に同時に横たわったのだった。




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