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蜘蛛の危機

レオン視点です

港町へ向かう道中、俺たちは中継地点の村へと足を踏み入れた。街道沿いの木々がまばらになり、視界が開けると、穏やかな陽光に包まれた村の輪郭が目に飛び込んできた。


「ようやく村が見えてきたわ! そろそろ旅の準備を整えないと」

「ああ、そうだな。オレの靴の底なんてベロベロだぜ。それに、このドデカおにぎりもそろそろ消費しないと」


俺は背負ったリュックを叩きながら、冗談めかして言った。エルフの里で長老にもらった特大のおにぎりは、俺たちの食料事情を大いに助けてくれている。


村に近づくにつれ、何かがおかしいことに気が付いた。

村全体が、巨大な蜘蛛の糸で覆われているのだ。家々、木々、道端の草花に至るまで、銀色の糸が張り巡らされ、異様な光景を呈していた。


「何、これ…?」

「蜘蛛の糸…?それにしても、尋常じゃない量だ」


村に足を踏み入れた瞬間、悲鳴が聞こえてきた。

「助けて!誰か助けて!」

糸に絡め取られた村人たちが、必死に助けを求めている。

その姿は、まるで蜘蛛の巣にかかった獲物のようだった。

中には、苦悶の表情を浮かべ、体が紫色に変色している者もいる。


「リナ、あれ…!」

俺が指差す先には、巨大な毒糸蜘蛛がいた。

それは、家ほどの大きさを持つ異形の存在で、鋭い牙と毒々しい光沢を放つ体毛が、見る者を震え上がらせる。

毒々しい紫色のまだら模様が、見るものを震え上がらせる。


「毒糸蜘蛛だ…!こんな村に、どうしているんだ…!」

俺は、村人たちを助けようと駆け寄ろうとしたが、すぐに足を止めた。


隣の小さい体は黒髪を結い、フードの中に隠した小さな体は、恐怖に震えているようだった。

フード付きの黒緑のマントには、光の加減で浮かび上がる不思議な模様が、同じ色の刺繍で施されて、蜘蛛の姿を反射していた。


「ダメだ……!村人たち、毒に侵されてる……!助けるための薬の材料が、ほとんど切れてる……!これじゃ、間に合わない……!」


焦りと絶望が、リナの心を支配しているようだった。目の前の人々を救えない無力感に、リナは膝から崩れ落ちる。エメラルドグリーンの瞳に、涙が滲んでいた。


「リナ……!」

俺は、リナの名前をよぶ。

何とか、正気に戻ってくれ、そんな思いを込めて。


「俺が、足止めをする。リナは、その隙に薬作りに必要な材料を集めてきてくれ」

俺は、腰に差した剣を抜き、毒糸蜘蛛に向かって走り出す。


「ダメよ!レオンが一人でなんて!」

リナは、俺を止めようとしたが、俺の背中は、迷いのない覚悟を示していた。


「大丈夫だ。お前が万全の薬を作れるように、俺が時間を稼ぐ」

俺は、毒糸蜘蛛に向かって剣を構え、叫んだ。


「おい、そこのデカ蜘蛛!俺が相手だ!」

毒糸蜘蛛が、俺に向かって毒糸を吐き出した。

俺は、それを紙一重でかわす。

そして、蜘蛛の足元に飛び込んだ。


「オラァアアア!!!」

俺は、剣を振り上げ、蜘蛛の足を斬りつけた。

蜘蛛は、苦悶の声を上げ、体を揺らす。


「レオン…!」

リナは、俺の様子を、ただ見つめていた。

しかし、すぐに我に返り、ぐっと口を結んで覚悟を決めたようだった。


「分かった。レオン、時間を稼いで!私はすぐに戻る!」

リナは、そう言うと、森の中へと駆け出す。

背中を見送り、再び蜘蛛に向き直った。


「さて、と。お前も、なかなか手強いようだな」

俺は、剣を構え直し、蜘蛛の攻撃に備えた。


蜘蛛は、毒糸を広範囲に吐き出し、俺の動きを制限しようとする。

俺は、それをギリギリで回避し、

蜘蛛の足元に飛び込み、剣で斬りつける。


「はぁ、はぁっ……!」

俺は、息を切らしながらも、蜘蛛の攻撃をかわし続ける。



全然、埒が明かないので蜘蛛の動きを注意深く観察することにした。



蜘蛛の行動を予測し、先手を打つことで優位に立ちたい。


攻撃をかわしながら、じっと見ていると、蜘蛛は急に動きを変える。

巨大な足を振り下ろし、俺を押し潰そうとしてきた。


その威力は凄まじい。

ドオオン、と大きな地鳴りがし、蜘蛛の糸で覆われた周りの民家がミシミシ音を立てた。


「クソッ!」


俺は、周囲の地形を利用して戦う。

蜘蛛の攻撃をかわすために、村を抜け、木々や岩場を駆け抜け、蜘蛛の死角に回り込む。


ボロボロだった靴の底はもう外れて、たくさんの石やトゲが足に刺さってジクジクと痛む。

それでもこの戦いは辞められない。

痛みを振り切り、足を踏ん張った。


「リナ……!早くしないと、俺が持たない!」


俺は、蜘蛛の攻撃をかわしながら、リナに対して祈るような、応援するような言葉をつぶやいた。

焦りと期待が入り混じった言葉で俺自身をもを鼓舞する。



俺の心には、過去のーー過去に出会った村での惨劇の後悔が浮かんでいた。


「今度こそは」

そう自然と呟き、強い意志が俺を突き動かす。


リナへの信頼を胸に。

リナは必ず薬の材料を集めて戻ってきてくれる。そのために時間を稼ぐ。



蜘蛛の毒糸が風を切る音、蜘蛛の巨体が地面を揺らす音、俺の荒い息遣い。


戦闘の緊迫感が、周囲を覆い尽くした。


燃え盛る森、誰もいなくなった村、人々、そして、何もできなかった無力な俺。

過去の俺を超えるために、俺は今、戦っている。



「リナ、信じてる。だから俺は、絶対倒れない。」


その時リナは、毒に侵された村人たちを助ける薬である【浄化薬】の材料を採るべく、森の中にゴブリンの巣を探しに走っていた。


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