ポンポン
エルフの里を後にした私とレオンは、港町へと続く森の道を歩いていた。
エルフの里で見送ってくれた光の鳥が、森を抜けるまでの道案内をしてくれるらしい。
木漏れ日が揺れる緑のトンネルを抜け、時折聞こえる鳥のさえずりに耳を傾けながら、私たちはエルフの里での出来事を振り返っていた。
「それにしても、エルフの里は本当に良いところだったね。ご飯は美味しいし、みんな優しいし」
「ああ、本当にそうだな。まさか鼻毛でこんなに笑うことになるとは思わなかったが」
レオンの言葉に、私は思わず吹き出した。
「もう、レオンったら、まだ言ってるの?でも、あの鼻毛ダンスは本当に面白かったよね」
「あれは確かに、忘れられない光景だったな」
笑いながらそんな話をしていると、やがて森が開け、目の前に広大な野原が広がった。どこまでも続く緑の絨毯のような野原に、私たちは思わず足を止めた。
「わあ、すごい!どこまでも続いてるみたい」
「ああ、本当に広いな」
野原に足を踏み入れた瞬間、私たちは目の前の光景に目を奪われた。そこには、まるで風船のようにふわふわと空に浮かぶ、小さな生き物たちの群れがあった。
「何あれ!?風船みたいで可愛い!」
「風船…?いや、なんか動いてるぞ」
「ほんとだ!ふわふわ飛んでる!ねえ、あれ捕まえてみようよ!」
私は好奇心に駆られ、そう提案した。
「捕まえるって、どうやってだ?あんなにふわふわしてたら、すぐ逃げられるぞ」
「こうするの!」
私は近くに生えていた、しなやかな草を摘みそれを手早く編んで輪っかを作った。
「なんだ、それは?」
「あれを捕まえるための秘密兵器!名付けて……そうだ、ふわふわキャッチャー!」
「ふわふわキャッチャー…?そんなもので捕まえられるのか?」
「見てて!ほら!」
私はふわふわキャッチャーを生き物の群れに向かって投げた。輪っかは見事に生き物のうちの一匹を捕らえた。捕まった生き物は、小さな体を揺らして喜びを表現しているようだった。
「おお!本当に捕まえられた!」
「でしょ!ねえ、レオンもやってみて!」
「俺も?…まあ、やってみるか」
レオンは私からふわふわキャッチャーを受け取り、生き物の群れに向かって投げた。
しかし、輪っかは生き物の下を通り抜け、空振り。
「あはは!レオン、ドンマイ!」
「うるさい!もう一回だ!」
レオンは再びふわふわキャッチャーを投げた。今度は輪っかが生き物のうちの二匹を捕らえた。
「どうだ!俺だってやればできるんだぜ!」
「レオン、天才じゃん!」
二人はふわふわキャッチャーで生き物を捕まえながら、野原を駆け回った。
生き物たちは捕まると、嬉しそうに体を揺らした。
まるで、私たちと一緒に遊んでいることを喜んでいるかのようだった。
「なあ、リナ。こいつら、なんか喋ってるみたいじゃないか?」
「ふふ、なんて言ってると思う?」
「うーん…『楽しい』とか…『嬉しい』とか…そんな感じ…じゃねぇか?」
「レオンの発想ってなんか可愛いわね。ねえ、レオン、私たちも一緒に遊びましょ!」
「どうやって?俺たち、あいつらみたいに空を飛べないぞ」
「こうするの!」
私は捕まえた生き物たちをふわふわキャッチャーから解放した。すると、生き物たちは空に舞い上がり、私とレオンの周りを楽しそうに飛び始めた。
「ほら、私たちも一緒に飛んでるみたい!」
「確かに!なんか楽しいな!」
私達は生き物たちと一緒に野原を駆け回り、笑い声を上げた。
生き物たちも嬉しそうに体を揺らし、虹色の泡を吐き出した。陽光にきらめく泡は、まるで宝石のようだった。
「わあ!泡が虹色だ!綺麗〜!」
「ほんとだ!なんかいい匂いもするぞ!」
「何の匂いだろう?お花の匂いかな?」
「そんな感じだな。なあリナ、この泡、触ってみようぜ!」
「うん!触ってみよう!」
二人は虹色の泡に手を伸ばした。
泡は二人の手に触れると、パチンと弾け、キラキラと輝く光の粒子になった。
「きゃあ!綺麗!」
「すげえ!お前の魔法みたいだな!」
二人は虹色の泡を追いかけ、野原を駆け回った。
生き物たちも二人の周りを飛び回り、虹色の泡を吐き出した。
私たちは、まるで夢の中にいるよう。
「ねえ、レオン、私たち、まるで妖精みたいじゃない?」
「そうだな!俺たち、あいつらの妖精だ!」
二人は生き物たちと一緒に、日が暮れるまで野原で遊んだ。遊び疲れて野原に寝転ぶと、夕焼け空に生き物たちが浮かんでいる。
「あー、楽しかった!ありがとう!」
「ああ、本当に楽しかった」
二人は名残惜しそうに生き物たちに手を振った。
生き物たちは二人に体を揺らし、虹色の泡を吐き出した。
「ねえ、レオン、私たち、またここに来ようね!」
「そうだな。また会いに来よう」
二人は生き物たちに別れを告げ、村に向かって歩き出した。
「今日の夢にあの子たちって出てくると思う?」
「どうだろうな。俺は虹色の泡が出てくる夢が見たい」
「それいいね!私も虹色の泡の夢にする!」
二人は今日の出来事を振り返りながら、村までの道を歩いた。
そして、歩き出してしばらくしてから、私はふと気が付いた。
「あの子たち、なんて呼べばいいんだろう?」
「そうだな……。ふわふわしてるから……ポンポン、とか?」
「ポンポン!可愛い!あの生き物たちは今日からポンポンよ!」
私たちは顔を見合わせ、笑い合った。
今日からあの生き物たちは、私たちの間で「ポンポン」と呼ばれることになった。
2章完結です……長かった!