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マルクの依頼

星空広場で降る星を眺めた夜、私とレオンはテントには入らず、丘の上で毛布にくるまって朝を迎えた。

朝日が昇ると、コテージに戻って星実のスープを啜っていたところに、マルクが商売用の革鞄をガチャガチャ鳴らしながら飛び込んできた。


「おはようさん!昨夜の星空、どうやった?」

「マルク、おはよう!昨夜の星空、めっちゃ綺麗だったよ!髪飾りも作ったし、最高だった!」

私は髪に付けた星実の花びらの髪飾りを揺らす。


「ああ、マルク、弓作りも面白かったぜ。お前、家族と楽しめたか?」

レオンがスープを飲み干して言う。


「ワイは親父とお袋と星見の酒飲んでな、ええ夜やったで!せやけど…実は頼みごとがあってな、リナはん」

マルクがちょっと困った顔で私を見る。



「どうしたの?」

私はスプーンを置いて話を聞いた。

「昨夜、若者たちが星見の酒を飲みすぎてな、二日酔いでグッタリしとるんや。酔冷まし作ってくれへんか?里のみんな助かるで!」

マルクが頭を掻きながら言う。


「初めての依頼だわ!マルク、任せて。この星の魔女のリナがバッチリ作ってあげる!」

私は立ち上がって拳を握る。

初めての依頼にテンションが上がっていた。

薬師として誰かを助けられるなんて、最高だ。


「俺も手伝えそうなことあったら言ってくれ」

レオンが胸を叩く。

なんだか頼もしく、楽しそうに見えた。


「そや、リナはんが作ってくれたら、ワイが里で売ったるさかい、よろしく頼むで!」

マルクが親指を立てる。



「儲かったらおやつ買ってよね!」

私は笑いながら、お腹をぽんと叩く。

「商売上手そうなマルクに任せとけ、きっといっぱい食わしてくれるぞ」

レオンが私の冗談に笑ってお茶を飲む。


「そやそや、リナはん、おやつ位ぎょうさん買ったるわ!儲かったらな!」

マルクはそう言い、ドヤッとしたあと、ウインクをしてくれた。




早速、私はコテージのテーブルに薬草袋を広げて、古書を取り出す。ボロボロの表紙を開く。

「酔冷ましのレシピ……あった!ゴブリンの鼻毛とオールフラワーの根っこで作るよ!」

両手を古書に置く。


「よし、工房出すよ…!」

と古書の魔法陣が青白く光り、テーブルが震えて、キラキラした光の粒子が飛び散る。

ガシャガシャと組み立てられる音がし、目の前に魔法の工房が現れた。



工房は半透明の星の光でできた円形の空間。中央に浮かぶ作業台は星実の木の枝が絡み合っていて、周囲には光の棚が浮かんでいる。壁には星の模様が流れて、ピンク色の光が脈打っている。


「うわっ、やっぱりこの工房かっこいいね…いつまでこんな感じなんだろう」



「今回は何が飛び出すんだ?」

レオンが腕を組んで興味津々に聞いてきた。

「初めて見た時びっくりしたけど、やっぱり圧巻や!ワクワクするなぁ!」

マルクもコテージの椅子に腰掛けしっかり調薬を見る準備をしていた。


作業台にゴブリンの鼻毛とオールフラワーの根っこを置く。

「ゴブリンの鼻毛でスッキリさせて、オールフラワーの根っこでお酒成分を抜いて……完璧な酔冷ましにするには……」

私はゴブリンの鼻毛を手に持つ。


「緑でモジャモジャ………いっぱい使おう……ちょっと臭いけど我慢……」

と鼻を近づけてクンクン。


「うっ、足の裏みたいな匂い!」

と顔をしかめる。


「鼻毛嗅ぐなよ…気持ち悪いだろ。」

レオンが笑いながらツッコんできた。

「わてかて嗅ぎたくないで!なんや面白そうやなぁ!」

マルクが腹抱えて笑う。



次に、オールフラワーの根っこを手に持つ。

「オールフラワーってさ、花を飲むとオールで朝を迎えられるからこの名前なんだけど、根っこはお酒成分を抜いてくれるんだよ…白くて硬いけど、ちゃんと砕かないと………」

私は根っこを石臼でゴリゴリ砕きながら、

「うっ、硬いね…腕がプルプルする!でも、これで効き目バッチリ」

と汗を拭った。


「リナ、力仕事までするのか。意外と筋力あるんだな」

「根っこ砕く音がすごいなあ。ゴリゴリ頼むで!」

マルクとレオンが感心して見ている。


作業台に魔法陣を描いて、中央にガラス瓶を置く。ゴブリンの鼻毛をちぎって魔法陣に撒く。

「鼻毛は少なめに……でも今回量が多いから……多すぎるとスース―しすぎて鼻水出ちゃうし。どれくらいがちょうどいいかな……これくらい!わ、全部使っちゃった!」



オールフラワーの根っこの粉を瓶に入れる。

「根っこはたっぷり入れないと、お酒成分抜けないし…入れすぎても苦くなるし、バランスが大事なのよね」

「水分足りないとドロドロ、気をつけないと」

と独り言が止まらない。



そうして魔法陣が青白く光り、瓶の中で緑の煙がモクモク立ち上がった。

スース―した鼻を突く香りが広がって、根っこの粉が溶けながらピンクの光を帯びる。



「鼻毛の臭さも消えた!成功だね」

瓶の中が青緑色に輝いて、色も完成のサイン。

「これで酔冷ましは、できたよ!里の人たちに渡してあげて。おやつも忘れないでね」

私は笑いながら瓶をマルクに渡す。

そうしてお金を受け取り、手を振った。



「リナはん、おおきに!ワイ、早速売ってくるで!おやつ代も稼ぐさかい、楽しみにしとき!」

マルクが瓶を手に持って、星空広場に走っていく。

レオンと私は売れ行きが気になってしまい、コテージの外に出て、マルクが売る様子を見守ることにした。




「二日酔いの若者たち、集合や!星の魔女のリナはんが作った酔冷ましやで!スース―して二日酔いなんて吹っ飛ぶで!さあ、買った買った!」

マルクがそう叫ぶ、グッタリしたエルフの若者たちが集まってきた。

「うう…頭痛い…」「吐きそうや…」「昨日飲みすぎた…」


お金を受け取ったマルクが瓶を傾けて、一人一人にスプーンで配る。

「ほれ、飲んでみぃ!一瞬鼻毛伸びるけど我慢やで!」

若者がスプーンを口に運ぶと、まず鼻がムズムズしたみたいで、顔をしかめた。

「うっ、スース―する!何やこれ!?」



そして鼻から緑のモジャモジャした鼻毛がニョキニョキ伸びてきた。

一本じゃなくて、何本も絡み合って、まるでゴブリンの鼻の中みたいにワサワサしている。

「何やこれ!?鼻毛伸びてるで!?」

「うわっ、俺の鼻毛こんな長かったんか!?」


と驚く声が上がるが、すぐに鼻毛が枯れ落ちるように抜け、プシューッと青緑の煙に変わる。


煙は二日酔いのモヤモヤを吸い取るみたいに、鼻からブワッと噴き出して、頭の上に小さな雲みたいに浮かぶ。



煙が消えると、若者たちの顔がみるみるスッキリ。


「うわっ、頭が軽い!」「吐き気なくなったで!」「疲れまで取れてる…!」

皆一様に目を丸くした。

鼻毛が伸びた痕跡は残らず、鼻がスース―して爽快感たっぷり。私の薬は効くのよ。



「これ、めっちゃ効くやん!」「鼻毛伸びるの笑ったけど、頭痛なくなったで!」「スース―して気持ちええわ!」「これでまたいくらでも飲めるな!」

若者たちは笑顔で騒ぐ。


「おい、リナ、お前の薬、鼻毛が煙になるだけじゃなくて笑いまで取ってるぞ…効果すごすぎだろ」

レオンが笑いながら言った。

「売れ行きええで!リナはん、里のみんな喜んでるわ!鼻毛で笑ってるやつもおるで!」

マルクが戻ってきて報告。



窓から広場の若者たちを見ると、さっきまでグッタリしていたエルフたちが笑顔で「疲れが取れたで!」「もう一回星実の酒飲めるわ!」「鼻毛伸びるの癖になりそうや!」って騒いでいる。



「………薬って人を笑顔にできるんだね…星の魔女やってて良かったよ」

ゴブリンの鼻毛でも、誰かを助けて笑わせられるなんてすごいなぁ、としみじみ思う。



「マルク、どれくらい売れたの?おやつ代は?」

私はマルクにいたずら顔で聞いた。

「そや、リナはん、あんなぎょーさんあった瓶ほとんど売れたで!若者たち、感謝しまくりや。『疲れが取れる薬や!』って評判やで!おやつ代も稼いださかい、星実のゼリー買ったるわ!」


マルクがニッコリ。

「お前、鼻毛でこんな騒ぎになるとか、魔女としてレベル高いぜ。次は何作るんだ?鼻毛以外のやつ頼むぞ」

レオンがニヤッと私を見る。

「褒めてるの?貶してるの?ゴブリンの鼻毛って便利なのよね。すぐ手に入るし」

「それはともあれ、依頼大成功や!ワイ、もっと頼むさかい、これからもよろしくな!次はおやつ代で豪華なもん買うで!」



「次は俺にも飲ませてみろよ、鼻毛以外な」

レオンが笑う。

「飲みたいの?じゃあ、次はレオンのは鼻毛なしで作るよ!楽しみにしてて!」

「そや、リナはんのおかげで、里の朝が明るくなったで。次も頼むで!ワイ、おやつ持ってくるさかい、待っとき!」

マルクが肩を叩き、頼もしい笑顔を見せてくれた。



マルクが星実のゼリーを買いに行って、私はレオンと一緒に広場を見ながら呟く。

「次はどんな薬作ろうかな…鼻毛以外で、うーん」



「いっぱい考えろよ、俺はずっとついてくからさ」

そのレオンの唐突な言葉になんだか気恥ずかしくなり、ただ黙って頷いてマルクのゼリーを待つことしか出来なかった。


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