星実のフルコース
生命の滴とエリクサー用の素材を無事に作った翌日、私とレオンは長老に誘われて、里唯一のエルフの食堂『夜空亭』に向かった。
コテージを出ると、光る樹の家々の間を抜けて、ふっくらとしたエルフたちがニコニコしながら歩いている。
長老が先導してくれて、私たちのテンションも自然と上がってきた。
「リナはん、レオンはん、今日は里の美食を楽しんでくださいな。ここはエルフの里で唯一の食堂やけど、味は絶品やで!」
長老がにこやかに言う。
「美食?!長老、期待しちゃうよ!お腹空いたし、楽しみだね!」
「お前、昨日もおにぎり腹いっぱい食ってたろ……。まだ食うのかよ」
レオンが呆れた顔で私を見た。
「レオンも美食って聞いたらお腹空くでしょ?星の魔女だって美味しいものには目がないんだから」
エルフの料理ってどんなのだろう。絶対美味しい。ワクワクが止まらない。
食堂に着くと、木の扉に星実の模様が彫られていて、中から爽やかな草の香りが漂ってくる。
入ると、ふっくらとしたエルフたちが忙しそうに料理を運んでいて、テーブルにはもう山盛りの皿が並んでいる。
私とレオンは長老に案内されて席に座るが、目の前の料理にビックリしちゃった。
「量多っ!!!」
私はおいしそうな料理たち、その量目を丸くしてテーブルを見つめる。
「リナはん、レオンはん、これが里の名物、星実のフルコースや。エルフがふっくらと健康になる秘訣やで。さあ、遠慮なく食べてくださいな!」
長老がにっこり笑う。
最初に出てきたのは【星実の花咲きスープ】
スープの中に星実の花びらが浮かんでいて、白濁した中に光がキラキラ反射している。
一口飲むと、清涼感たっぷりの草の香りが口に広がり、ほのかにスパイシーな後味が残る。
「うわっ、美味しい!スープなのに爽やかでスパイス効いてる!」
私はスプーンを手に持ったまま感動する。
「リナ!落ち着いて食え!にしてもすげえ美味い」
レオンがスープを飲んで頷く。
次は【星実の輝きロースト】
でっかい星実の果肉を丸ごと焼いたもので、外はカリッと中はジューシー。
ナイフを入れると、ピンクの汁が溢れてきて、香ばしい香りが鼻をくすぐる。
「何!?これ、果物なのに肉みたいね!柔らかくてジューシーだわ!」
私は目を輝かせてナイフとフォークを動かす。
「エルフの料理ってすげぇな」
レオンが感心しながらガツガツ食べていた。
【星涙花の葉巻きパイ】
星涙花の葉で包んだパイ生地に、星実のペーストとナッツが詰まっていて、サクサクした食感と濃厚な甘さが絶妙。
「サクサクで中がトロッとしてるーーーっ!ナッツの香ばしさも最高だよ!」
私はパイを頬張って幸せを噛み締める。
「お前、そんな幸せそうな顔すんな。見てると俺まで腹減ってくる。食ってるのに。」
レオンが苦笑いしながらパイに手を伸ばす。
そしてメインの【星実の樹皮ステーキ】
星実の木の樹皮を薄くスライスして焼いたもので、見た目は木っぽいけど、噛むと肉みたいな弾力と旨味が溢れてくる。
「え、樹皮!?ローストとは違った食感……。一度乾燥した肉みたいに旨味がある。どうなってるの!?」
私は驚きながらも手が止まらない。
「樹皮がこんな味すんのか。そろそろ腹いっぱいだけど、美味すぎて食っちまうな」
レオンがステーキを切り分けて口に運ぶ。
フルコースはまだ終わらない。次から次へと料理が運ばれてきて、テーブルが皿で埋まっていく。【星実の光るサラダ】(光る葉っぱと星実の果肉がシャキシャキ)、【ピヨピヨうさぎと星実の蒸し団子】(もちもちで中からピンクの汁がジュワッ…!)、【星実の燻製チーズ】(燻した香りと濃厚なコクがたまらない)
……もうお腹がパンパンなのに、美味しすぎて手が止まらない!
「うう……!お腹はち切れそうだけど……美味しいから食べちゃう…!」
私は団子を頬張りながらお腹を擦り、呟く。
「さっきからそればっか言ってるな……。俺も……限界近い………」
レオンがチーズを手に持ったまま、少し顔をしかめた。
「里の美食は量も自慢や。ふっくらと健康になるにはこれくらい食べなあかんさかい、頑張ってくださいな!」
長老が笑いながら言う。
「長老、これ全部食べたら私もぷりんぷりんだわ!でも…やめられないの!」
私はサラダを口に放り込む。
「おい、長老、俺がデカくなったら戦えねぇだろ…助けてくれ」
レオンが半笑いで訴える。
そしたら、エルフの給仕がニコニコしながらでっかい壺を持ってきて、「お酒はいかがですか?」って勧めてきた。
星実の果汁を発酵させたお酒で、ピンク色に光っている。
「お、お酒!?美味しそうだけど…レオン、どうする?」
私は壺をチラッと見て聞く。
「いや、俺はいい。酒は断るよ。戦えなくなったら困るしな」
レオンが手を振って断る。
「お酒断るなんて真面目すぎだって!せっかくのフルコースなのに!」
「お前、俺が酔って転がったらどうすんだよ。転がるのはお前だけでいいだろ」
レオンがニヤッとし、反撃とばかりに何時ぞやの魚の踊り事件をからかってきた。
「そや、リナはん、レオンはんがお酒飲まなくても、わしが代わりに飲んどくさかい、心配せんでええで!」
長老が壺を手に持ってグビッと飲む。
「長老、豪快!プリンプリンだからお酒も強いんだね!」
私は笑いながら拍手する。
最後はデザートの【星実の輝きゼリー】。
プルプルのゼリーに星実の果肉が浮かんでいて、光る粒がキラキラしている。
一口食べると、清涼感たっぷりの爽やかさが口いっぱいに広がり、お腹が少し落ち着いた気がした。あくまでも気だが。
「うわっ、ゼリーがこんな美味しいなんて…お腹いっぱいなのにスルスル入る!」
私はスプーンを手に持ったまま目を細める。
「ゼリーで限界だ、今度こそ…マジで限界…」
レオンがゼリーを食べて、ちょっとホッとした顔。
「これでフルコースは終わりや。お二人、ようさん食べはったな。美食の里の名に恥じん味やろ?」
長老が満足そうに言う。
「長老、ほんとすごかったわ…お腹はち切れそうだけど、美味しすぎて幸せ〜!」
私は椅子にドサッと座り直して、お腹をさする。
「おい、リナ、俺等まだ旅するんだからプリンプリンなったら困るだろ。食後に動こうぜ」
レオンが立ち上がって苦笑いする。
「私ってふっくらと健康になっても可愛いと思うの!…でも、動かなきゃだね」
私は笑いながら立ち上がる。
「さあ、リナはん、レオンはん、また里に来て、このフルコース食べてくださいな!」
食堂を出ると、私とレオンはお腹パンパンでフラフラしながらコテージに戻る。
「レオン、私、転がっちゃうかも……。お腹重すぎるよ!」
私は笑いながら言う。
「お前、また転がり踊り思い出したのかよ。転がるなら俺に寄りかかれよ、支えてやるから」
レオンがニヤニヤする。
「何!?寄りかかるって、レオンだってふっくらと健康予備軍でしょ!」
私は反撃して笑う。
「せやで!お二人さん、仲良くふっくらと健康になってな!」
長老の声が遠くから聞こえてきて、私とレオンは顔を見合わせて爆笑する。
フルコースで腹がはち切れそうになったけど、エルフの里の美食はやっぱり最高だった。
エリクサーが作れたら、またここに戻ってきたいな。