工房の変化
エルフの里の清めの泉からコテージに戻った私とレオンは、長老からもらった血の入った瓶を手に持って、少し緊張していた。
ぷりんぷりんの長老の血が瓶の中でキラキラ光ってて、それだけで生命エネルギーが溢れてるのが分かる。
私は星の魔女としてエリクサーを作るためにここまで来たけど、まずはレオンの身体を治す「生命の滴」を作ることにしたの。
長老はずっとそばにいて、私たちを見守ってくれている。
「レオン、これから長老の血で薬作るわよ。ちょっと難しい作業になるから、静かにしててね!」
私はテーブルに瓶を置いて、レオンに念押し。
「薬バカの本気モードか…分かった、頑張れよ。」
隣ではレオンがベッドに寝転がって、応援してくれていた。
「星の魔女の技術、見せてあげる。」
レオンのために頑張るんだから、失敗できないと気合が入る。
薬草袋から古書を取り出して、ボロボロの表紙を開く。
星の紋章が刻まれたページをめくって、「生命の滴」のレシピを見つけた。
私はテーブルの上に古書を広げ、目を閉じて両手をその上に置く。
「よし、工房出すよ…!」
古書が青白く光りだして、テーブルが震える。
キラキラした光の粒子が飛び散り、目の前に魔法の工房が現れた。
「え……?」
工房は半透明の星の光でできた円形の空間になっていた。
中央に浮かぶ作業台は、星実の木の枝が複雑に絡み合ってできたみたいで、周囲には光の棚に薬草や瓶がキラキラぶら下がって揺れている。
「私の工房が……光ってる……」
「お前……。キラキラが好きすぎてついに工房まで……。」
レオンがベッドから起き上がって目を擦った。
「リナはん、レオンはん、驚くのも無理ないわ。この工房、星の力がいつもより強いのをわしも感じるんや。わしらエルフの里のご飯、星実をようさん食べてきたさかい、星の欠片のパワーが上がっとるんやで。わしもいっぱい食べてパワーアップしとるさかい、血の力も強うなっとるはずや」
長老がぷりんぷりんの笑顔で丁寧に説明してくれる。
「星実でパワーアップ?それって…すごいね!」
私は目を輝かせて長老を見た。長老は、もちもちのほっぺたを持ち上げて笑顔を見せてくれた。
作業台に長老の血の瓶を置いて、私は星実の粉末を薬草袋から取り出す。
「……星実とエルフの血だけで作る……。」
星実の粉末を指でなぞって円を描き、陣の中央に瓶を置いた。
星涙花の雫をガラス瓶から数滴垂らして、外周に配置する。
「これで準備OK……かな……。長老の血を活性化させるんだから、慎重にいかないと……。」
両手を本にかざして、と。
「よし、星実の粉末を反応させる。エルフの血と混ざるように……。」
魔法陣がピンク色に輝きだして、長老の血がモチモチっと膨らむみたいに動き出す。
表面がプルプル揺れて、ピンクの光が血に溶け込む。
「……もちもちしてる……!!……長老の血、すごい反応……!」
星涙花の雫が蒸気になって魔法陣に混ざり、星実の粉末がキラキラ光りながら血に吸い込まれた。
「混ぜ方が大事……最後……集中……。」
私は工房の作業台に浮かぶガラス棒を手に持って、息を止めて真剣にかき混ぜる。
血が赤から金色に変わって、ピンクの光が混ざりながら柔らかく輝きだす。
工房に星実の木の爽やかで微かに甘い香りが広がってきた。
「ーーっふぅ...............!この香り、気持ちいい……!!星実とエルフの血って相性いいんだ……!」
魔法陣の光がピークに達すると、瓶からフワッとピンク色の霧が上がる。
中の液体はプリンプリンに仕上がった。
「ーーーーーーっ!これが『生命の滴』だ!」
私は瓶を手に持ってレオンに見せる。
「なんかすげぇな…何か生きてるみたいだぞ」
レオンが感心した顔で近づいてくる。
「これ飲んで。」
私は瓶をレオンに渡した。
今まで、からかったお詫びにはならないかもしれないけど……。これで回復して欲しい。
レオンは素直に受け取ってくれた。
「リナ、ありがとうな」
と私に頭を下げる。
そして瓶を手に持ったまま、少し怖々した顔でしばらく眺めていた。
「血か……飲むのちょっと怖ぇな……。」
「長老の血だよ。すごい力なのよ。」
「……分かってるんだけどな。……飲むよ。」
レオンが意を決して、瓶を口に近づけて一気に飲みこんだ。
ピンク色のプリンプリンした液体が喉を通ると、もちもちした泡がレオンの背中の傷口から溢れだす。
ピンク色の小さな泡がプクプク浮かんで、傷跡に沿って広がって、泡が弾けると、傷が薄っすら光りながら塞がっていくみたいに縮んでいく。
レオンの身体から爽やかな草の香りが漂ってきて、彼の顔がみるみる明るくなってきた。
泡が消えると、傷跡がほとんど目立たなくなって、肌がツルッと、プリンプリンに、整った。
「清涼感たっぷりだ。なんか、身体がツヤッツヤしてくるぞ!」
レオンが目を丸くして言う。
「体が軽いんだ。傷の重さが消えた!これで、前みたいに、戦える!」
と剣を手に持って立ち上がる。
そうしてピンクの光が彼の身体を包むように一瞬輝いて、すぐに消えた。
「エルフの血ってすごいのね、長老の生命エネルギーってこんな力あるんだ!!」
私は感動した。
星の魔女として、レオンを助けられた。
最高の気分だ。
「リナはん、ええ仕事や。わしの血がこんな風に役立つなんて、長老として嬉しいわ」
長老がぷりんぷりんの笑顔で言った。
「長老、見ててくれてありがとう!この血、エリクサー用にも使っていいんだよね?」
私は目を輝かせて確認する。
「せやで、英雄様と魔女様の旅路が輝くことを祈っとるさかい、エリクサー用にも遠慮なく使ってくださいな。せやから、わしは多めに血をあげたんやで」
長老が答えてくれ、私は感激してまた長老に深々と頭を下げた。
工房の棚から別の小さな瓶を取り出して、血の残りを移す。
さっきの瓶に残った血を半分ほど新しい瓶に注いで準備を始める。
「じゃあ、エリクサー用の血を保存するよ。長老、見ててね!」
私は気合を入れて、工房の作業台に向かう。
魔法の加工だけで保存する。
作業台に円を描き、中央にエリクサー用の血の瓶を置く。
「保存って難しいんだ……。血のエネルギーを閉じ込めるには、魔法の流れを完璧にしないと……。」
両手を瓶にかざして、魔力を込める。
「星の力を借りて……時を止める…エルフの血を封じる……!」
魔法陣がピンク色に輝き、瓶の中の血がモチモチっと膨らむように反応する。
ピンクの光が血を包み込んで、表面がプルプル揺れながら硬化していく。
「うわっ、このモチモチ感、すごいね……。保存するには光を渦にしないと……。」
私は両手を動かして光を操り、ピンクの光が細かい渦になって瓶の中を巡る。
血の輝きが金色から透明な輝きに変わって、工房に星実の木の爽やかな香りが広がった。
「この香り、花畑みたいな香り……保存できてる証拠だ……!」
とニヤリ。
工房の壁に流れる星の模様が加速して、ピンクの霧が瓶を包む。
光の粒がチラチラ瞬きながら血に吸い込まれると、瓶の表面に星型の結晶が浮かび上がった。
「できた!保存処理完了だよ!」
私は瓶を手に持って確認。血が透明な金色に輝いたまま、ピンクの光が脈打ってるのが見える。
「お前、素材なしでこんなすごいことできるのか……すげぇな。」
レオンが感心した顔で覗き込む。
「完璧やな。魔法だけで保存するなんて、流石星の魔女はんの腕前やね。お二人さんの旅路が輝くよう、わしは祈っとるさかい、この血でええ薬を作ってくださいな。」
長老がぷりんぷりんの笑顔で褒めてくれる。
「長老、ありがとう!!」
私は瓶を大事に抱え、革鞄にしまった。
「リナ、お前のおかげで身体が戻ったよ。英雄って呼ばれても、もう、気恥ずかしいだけだけど……。ーーお前にからかわれるのは、悪くねぇし。」
レオンが優しい声で言う。
レオンはどうやら私が気安くポンコツ英雄だの、ドジっ子英雄だの笑っていたことを気にしていると思ったらしい。
「良かったよ、本当に。これからも、いっぱいからかってあげるわ。」
私はなんだか気恥ずかしくて、顔を赤くして笑った。
工房が光を失って消え、コテージの中は生命の滴とエリクサー用の血の輝きで満たされていた。