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星実のおにぎりと星の力のひみつ

私とレオンは昼過ぎ、窓から差し込む日差しの暑さに目を覚ます。

ベッドの横の机には、いつの間にかメッセージが残されていた。

『お昼ご飯を作って待っています。長老』



「うーん、よく寝た〜!レオン、起きてる?」

私は隣のベッドを覗き込む。

「うるせぇな……。今起きたところだ」


レオンが眠そうな目を擦りながらゴロゴロと寝返りを打つ。

毛布から顔だけを出しており、その姿はまるで子供のようで、思わず笑みがこぼれた。


「ほら、長老が昼食に呼んでくれてるよ!」

私はレオンを引っ張り起こす。



コテージを出ると、長老が満面の笑みで待っていた。

光る樹の家々を抜けて広場に案内されると、そこには大きな木のテーブルに山盛りのおにぎりが並んでいる。


おにぎりといっても、普通のものではない。

星実の甘い香りがほのかに漂う、里の名物。


「リナはん、レオンはん、おはようさん。昨日はよう寝れたみたいやな。ほれ、昼飯にたっぷりおにぎりを用意したさかい、腹いっぱい食べてくださいな!」

長老が丁寧なエルフ訛りで笑いかける。


「わあ、おにぎり!これ、星実が入ってるの!?美味しそう〜!」

私は目を輝かせてパチパチと手を叩いた。 


「お前、昨日も星実食ってたろ。まだ食うのかよ……。まあ、俺も腹減ったし、いただくか」

レオンが眠そうな顔のまま、おにぎりに手を伸ばす。

おにぎりはふんわりと握られており、中には星実の果肉が混ぜ込まれている。


かじると、米のモチモチとした食感と星実の甘さが口いっぱいに広がり、ほのかに塩気が効いている。


私は一つ目をあっという間に平らげた。 


「甘いのがちょっと不思議な感じするけど……確かに美味いな。ここの飯はマジでウメェ」

レオンも二つ目に手を伸ばす。

 


「お二人さんに喜んでもらえて、わしも嬉しいわ。星実は里の名物やけど、おにぎりにするとまた格別やろ?たっぷり食べてくださいな!」 


長老がプリンプリンの手を振って笑う。

私とレオンはおにぎりを頬張りながら、笑顔で頷き合った。

     



お腹がパンパンになるまでおにぎりを食べた後、長老がテーブルに座り、ゆっくりと話し始めた。

私とレオンはお腹いっぱいで満足していたので、じっと耳を傾ける。


「リナはん、レオンはん、お腹いっぱいになったところで、ちょいと星実の歴史を話したろか。」


長老はそう言って椅子の背もたれにふくよかな体重を預けながら話を続けた。ギシッと音が鳴る。


「星実の木いうんはな、星の欠片が地上に根付いたもんやねん。遠い昔、空から星が落ちてきて、それが土に溶けて芽吹いたんや」


長老が目を細め、語り出した。


「星の欠片って、私のもと?みたいなやつ?それが木になったの?」


「そや、リナはん。星実の木や星涙花いうんは、植物を愛した星のカケラの子孫やねん。」

「せやけどな、それだけやない。この木や花はな、『こうなりたい』ちゅう願いの形に進化していくんや。星の力が宿っとるさかい、願いを叶える不思議な魔力があるちゅうわけや」


長老が穏やかに説明してくれる。

私はテーブルに置いてあった星実を手に取る。

青白い光がほのかに揺れており、温かい感触が不思議だ。


「願いを叶えるなら……。どんなに強い毒だって消せるかも」

私はポツリと呟く。

毒を消す新しい薬を作れたらと、夢が膨らむ。


「お前、また薬草の話かよ。毒消しって……やけに現実的だな」

レオンが私の呟きを聞いて呆れ顔で笑う。


「薬草は私のライフワークだよ。星実がそんな力を持ってるなら、試してみたいじゃん」

「リナはん、ええ考えやな。星の魔女はんにふさわしい夢や。せやけどな、星実はもう一つ大事な役目があるんや」


長老は神妙な顔で続ける。

「わしらエルフは、星の欠片に愛された星実を食べて育っとるさかい、魔の入口で起きた異変や、記憶混濁の影響は受けへん、そんでぎょうさん長生きする。」


そして、言いづらそうに、よどみながらもこちらを見据えて言葉をかけた。

「……そんで……人間は影響を受けてしもて、みんなレオンはんのことを忘れてしもた。………不憫なことや。」


「記憶混濁?それって……レオンの……偉業……?」

私は驚いてレオンを見る。


「おい、長老、そんな話まで知ってるのかよ……忘れられてるのはもう……。慣れてるからいいって」

レオンが目を伏せて苦笑する。


「みんなに忘れられてるってどういうこと?レオンがそんな目に遭ってたなんて……。知らなかった」


寂しそうなレオンの顔が私の胸をチクリと刺すような気がした。

いままで、虚勢を張ってたかもしれないと想像を膨らませると目に涙がたまってきた。


「リナはん。魔の入口いうんは、もともとは、別の星の欠片やねん。そいつがはしゃぎすぎると、星実の木の力が吸収されて統合されて、木が枯れてしまうんや」


「昔、レオンはんがそれを塞いでくれたから、里は守られた。せやけど、その代償で壊れた時に星の力が大暴れして散り、人間たちの記憶が混濁してしもたんや。エルフは星実のおかげで覚えてるけどな」


そんな………そんな大切なことをしていたなんて。

英雄!と普段からかっていた自分を恥ずかしく思う。

私は何も言えずに頷くことしかできない。

その様子を見てレオンが、照れくさそうに頭をかくが、彼も目が潤んでいた。


「俺はもう英雄じゃねぇんだからさ。もう……。もういいんだ」

そう長老に言ったあと耳打ちしてきた。

「リナ、気ぃつかうんじゃねぇぞ。俺はお前のその態度に救われてるんだからな」


その言葉に、目頭がさらに熱くなるのを感じた。

いつも飄々としているレオンの、本当の優しさに触れた気がしたのだ。

 



その後、まだパンパンに膨らんでいるお腹をみた長老はおにぎりの腹ごなしに、と私たちを里の奥へと案内してくれた。

光る樹の家々を抜けて、少し開けた場所に出ると、そこには透明な泉が湧いている。 


湯気が立ち上っており、周りの草は生き生きとしていた。


「リナはん、レオンはん、ここは里の清めの泉や。温泉みたいに温かいさかい、腹ごなしに浸かって身を清めてくださいな。旅の疲れも取れるで」

長老は満面の笑みだ。


「わあ、温泉!?気持ちよさそう〜!」

「お前、テンション高いな……。まあ、俺も汗を流したいし、入るか」

レオンが服の裾をまくる。


「そやそや、ゆっくり浸かってくださいな。タオルも用意しといたさかい、気兼ねなくどうぞ!」

長老が泉のそばにタオルを置いてくれた。


私とレオンは服を脱ぎ(下着は残してね!)、泉に浸かる。

温かい水が身体に染み込み、おにぎりで重かったお腹がスーッと楽になってきた。


泉の底はキラキラと光る鉱石で覆われており、湯気と光が幻想的な雰囲気を醸し出している。

疲れた身体がじんわりと温まり、心の奥底まで癒されていくようだ。


「うーん、気持ちいい〜!レオン、これ最高だね!」

私は水をかきながら笑う。

「旅で汚れた身体が生き返る感じだな」


レオンが目を閉じてリラックスしている。

温かい泉に浸かり、私たちはしばし、旅の疲れを癒した。

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