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もうひとつのうた

湖のほとりで、私とレオンは鍵を手に持ち、途方に暮れていた。

星実の木から落ちた鍵。確かに綺麗だが……。


「鍵……?どこに挿すんだよ……」

レオンが疲れた声で呟きながら、鍵をくるくると回している。

「まだ謎があるの〜?頭がパンクしそうだわ!」

私は頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「自分で考えなはれって言うとこやけど、まあ、わても疲れてきたさかいな。星涙花の瓶を湖の水につけて、耳を当ててみ」

「え、また瓶!?もう聞き飽きたわ!」

私はグチグチ言いながらも立ち上がる。


「おい、リナ、文句を言う前にやれよ。マルクが疲れてるって言うんだから、たぶん珍しいぞ」

レオンが呆れた顔で顎をくいと動かした。


「はいはい、分かったわよ……」

私は渋々、星涙花の瓶を手にする。

すうっと息を吸い込み、口に空気を溜めて、湖の水にボチャンとつけた。

冷たい水が指に染みて、少し気持ちがいい。

そっと耳に当てると、またあの鈴のような声が歌い出す。


〜♫

水に浸かると おはようさん

輝く幹に 鍵さして

光の鳥も おはようさん

迷いが晴れて

笑顔の村が 近づくね

魚の声が 木霊して

祭りの日が 待ってるよ

〜♫


ざぶんと自ら顔を上げ、1つに編み込んでいたおさげから水を絞りながら考え込む。

「今度も歌だったわ、また謎解きね。」

私は瓶から耳を離して考え込む。

「何か分かったか?」


レオンが顔を覗き込んで聞いてくる。

私は内容をレオンに話して2人でくうを見つめた。


「うーん、『水に浸かると おはようさん』って……湖の水につけたから、これでいいよね?で、『輝く幹に鍵さして』ってことは……さっき出てきた鍵をどこかの木に挿すってこと?」


私は疲れた頭をフル回転させて考える。

そろそろ謎解きが嫌いになりそうだ……。

でも頑張れ、私。


「魔女はん、さすが頭ええなぁ!わてがヒントを出した甲斐があったわ!」

「ヒントって……。マルク、あんたが全部教えてくれればいいじゃん!疲れたよ〜!」


私はマルクに訴えるが、彼はニヤニヤしているだけだ。


「俺も頭を使うのは勘弁してくれよ」

レオンが鍵をポイッと空に投げて、またキャッチし、岩場に腰掛ける。


「まあまあ、お二人さん、わてがもう少し案内したるわ。こっちやで!」


見かねたマルクが湖の奥の方を指差し、案内する。

私たちはフラフラと彼についていくと、そこには今まで見たどの星実の木よりも煌めく、眩しいまでの光の木が立っていた。


幹は青白く光り、枝はキラキラと揺れている。

木の皮は宝石のカットのように内側からの光を反射し

あたりの地面がチラチラと照らされる。


その湖の水面に映る光は、まるで星空のようで、疲れていた心が少し癒された。


「わあ、綺麗……。これが『輝く幹』ね。」

私は目を輝かせ、幹を撫でた。

硬いが鋭くはない。普通の木のゴツゴツ感と変わらない。

不思議な感覚だ。

「テンションが戻ってきたな。さっきまで死にそうな顔だったのに」


レオンがクスクス笑う。


「レオンだって疲れてたでしょ。この木を見て元気が出ただけよ!………て、あれ?」


幹を触っていると妙な突起を見つける。


「いいとこに気付いたな。魔女はん。ここの幹に鍵穴みたいな窪みがあるんやで。レオンはんも見てみぃ!」


マルクが木の根元を指差した。

近づいてみると、確かに突起のなかに虚が出来ている。

その小さな穴は、鍵がぴったり入りそうな形をしていた。


「これだ!鍵を挿してみるね」

私は意を決して鍵を手に持つ。


「お前、ちゃんと挿せよ?ドジって折ったりするなよ?」

口調はからかい気味だが、レオンがハラハラと心配そうに言う。


「き、気をつけるわ」


私は恐る恐る鍵を差し込む。

カチッという音がして、鍵がスッと収まった。


すると、窪みが光り、グニョグニョと広がり始めた。


幹が震え、枝がギチギチ伸びる音がする。

そして、光の鳥の幻影が、生えた葉の隙間から飛び立った。



羽は輝き、湖の上をくるくると回って空中に滞空する。


「わあ……!」


光の鳥はまだいるが、鍵穴の窪みはあっという間に閉じ、木の輝きが嘘のように落ち着いた。


「さあさ、お二人さん、エルフの里はもうすぐそこやで!」

マルクがニヤッと笑って言う。


「やっと謎解きも終わりね!今までの事がこの鳥を見れただけで報われた気がするわ」


私は飛び跳ねて喜ぶ。

マルクの手助けもあったが、自分達の力でここまでたどり着いたということがこの景色をより美しくしてくれている気がした。


「なかなかのもんやろ?次はエルフの里でゆっくり休めるで!さあさ、鳥についていこか」


マルクはそう言って、笑顔で次の目的地、エルフの里であろう方角を見据えていた。

私の髪の水分が少し跳ねて、その先行きは光を反射して見えた。


前回までの謎解き

内容はこちら

星の涙が歌う

耳長の祭りにいらっしゃい

魚に踊りを見せてから

魚の踊り

蝶の寝床が知ってるよ

ひらひら舞う秘密

魚の踊り

魚の寝床が知ってるよ

海の底でお勉強

魚の踊り

たまにはお昼寝

草たちもそっと囁く

涙の歌は終わらない

魚も聞きたい 涙の歌

星の声が響き合い

祭りの道が呼んでいる

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